燃える友情
イヴが配膳した『ウメ粥』なる、驚きの甘味と酸い味がコメのうまさを引き立てる朝食を全員で頂き……。
食堂に集った一同を、見回す。
着席する獣人国の面々を前に、俺と傍らに控えるイヴのみが立っている形だ。
俺、イヴ、ウルカ、バンホー……。
そして、他のサムライたちが六人……。
総勢、十人……。
キートンたちを数に入れればもう少し増えるが、とりあえず、生身の体を持つ人員としてはこれで全員である。
余談だが、バンホーらサムライも、『マミヤ』の装束を獣人用に仕立て直した品へ着替えていた。
具足は脱ごうと、腰に大小のカタナを差しているのは変わらない。
そこは、サムライとして譲れぬところであるのだろう。
「まずは、みんな……。
昨晩は、俺たちの婚儀を祝福してくれたこと、礼を言う」
「ウルカ様の夫となられた以上、アスル様は我らが主君も同然……。
これよりは、我ら一同、手足のように扱い下され」
着席はしたままに……。
しかし、上体を深々と下げながらバンホーがそう返礼する。
見れば、彼の臣下たる六人のサムライも同じように頭を下げており……ひとまず、これで臣従の儀は済んだと見てよかった。
「その言葉、嬉しく思う。
なにしろ見ての通り、ここにいるだけがこれから立ち上げる勢力の全戦力だ。
遠慮なく使わせてもらうので、そのつもりでいてほしい」
「――ははっ!」
深い年輪を感じさせる返事の後……。
バンホーたちサムライは、そろって顔を上げた。
「さて、そういうわけでこれから何をするか、なのだが……。
まあ、やるべきことは決まっている。
――この船、『マミヤ』の能力を知ることだ」
「お話の通りならば、まさに昨日、アスル様はこの船を発見なされたのだとか……?」
「そうだ」
ウルカの言葉に、うなずく。
「この船が摩訶不思議としか言いようがない超古代の力を使えること、それは皆も理解してくれていると思う。
だが、俺たちが目にしたもの、体験したものは『マミヤ』が持つ力の一端に過ぎない。
――そうだな、イヴ?」
「イエス。
外宇宙を航行し、惑星を植民地化するために建造された当船の機能は、まだまだあの程度ではありません」
自身も『マミヤ』の誇る恐るべき超技術の産物である少女が、髪を七色に輝かせながら俺の言葉を肯定した。
「で、あるならば……。
俺たちは早急に『マミヤ』が持つ力の全貌を知り、その使い方について学ばなければならない。
何ができるのか、を知らなければ、行動の指針を立てようもないからな」
「――御意。
まずは、己を知ること……。
武芸にせよ、政にせよ、それこそが肝要であると心得ております」
ごくごく単純な意見でも、バンホーほど年季の入った人物が言えば重みが宿るというもの……。
俺は深くうなずくと、傍らのイヴに新たな命令を告げる。
「そういうわけだ。
イヴ! これより我らを引き連れて船内を回り、この船……『マミヤ』が持つ能力を説明していってくれ!」
「了解しました。
準備は、全て完璧に整っております」
そんなもの、どこから取り出したのか……。
イヴが小さな旗をヒラヒラと振りながら、無表情に了承する。
その旗には、王国の文字で『アスル様御一行』と書かれていた。
--
結論から言おう。
船内を回るのに、一週間かかった。
キートンたちがいる格納庫でも言っていたが……。
『マミヤ』の中は要所要所で空間圧縮なる技術を用いられており、外側から見た以上の広さを有しているのだ。
それを活かし、船内は様々な機能を持つ区画に分けられている。
――居住区。
――格納庫。
――培養施設。
――工場設備。
――運動用区画。
――船内自然公園。
――各種遊興施設。
……などなど。
『マミヤ』の内部は実に広大であり、そしてまた、多機能であった。
俺は『マミヤ』を空飛ぶ船だと思っていたが、ここまでくるともはや空飛ぶ街であり、また、空飛ぶ国である。
必然、それぞれの区画が持つ能力を理解するためには、相応の時間が必要となった。
そのため、俺たちはじっくりと時間をかけて、各区画の機能と扱い方を学んでいったのである。
そして、時間をかけた甲斐もあり……どうにか、それを習得することに成功したのだ!
……まあ、学んだのはあくまで機能と使い方についてだけであり、それぞれの原理についてはサッパリ理解できなかったのだが。
その辺りの究明に関しては、俺の子孫たちの仕事となるだろう。
間違いなく、俺が存命の内にそれらを学び尽くすことはかなうまい。
まあ、イヴが言うには、当の古代人たちも原理や仕組みについて理解してたのは一部の研究者や技術者だけだったそうなので、あまり引け目に感じる必要はないのかもしれないな。
そういうわけで、だ……。
俺たちは今、この一週間で学んだことを活かし、それぞれの実力を高め合い、互いの絆を育んでいたのである。
「バンホー……!
貴様……!」
敗北の屈辱へ顔をしかめる俺に、バンホーが涼しげな眼差しを向けた。
「ほっほっほ……!
アスル様、これこそ臣下として主にお教えできる最初の教訓……。
すなわち、『勝てば官軍』!
負けたる者に、いかなる物言いをする権利もなし……!
悲しきかな、この世は勝者が全てを手にするようにできているのです……」
「貴様……そうは言うがな……!」
俺は怒りに身を震わせながら、それを指差す。
「反則だろうが……!
れい〇うを使うのはまだいい……! 四人プレイである以上、誰かが担当しなければならんのだからな……!
だが、格闘大会で旋風脚を使うのは、反則だろうが……!」
それ――モニターの中では、俺含む三人の操作キャラを一蹴したりゅ〇いちが、ただ一人健在な立ち姿を披露しながら勝利のBGMに祝福されていた。
「ほっほっほ!
敗者の遠吠えほど見苦しいものはありませんな!
ほっほっほ!」
「……貴様!」
コントローラーを握り締めながら睨みつけるが、怒りを覚えているのは何もおれだけではなかった。
「……バンホー殿!」
「それがしらも、アスル様と同じ気持ちでございます……!」
俺と同様、バンホーに手も足も出せず敗北したサムライたち……。
彼らが立ち上がり、コントローラーを投げ捨てたのだ!
「バンホー殿が申しているのは、誠、世の理!
しかし、我らは侍……!
抱くべき誉がございましょう!?
ただ勝利のみを欲すれば、獣人は獣に落ちると故人も申しております!」
なかなかの迫力で申し立てるサムライらであるが、バンホーはと言えばどこ吹く風である。
「死にましたー。
誉はかつての戦で死にましたー」
どころか、抜け抜けとこのようなことを言い放ったのだ。
いやいや、君、本当にサムライ!?
こう言われては、俺たち三人も黙ってはいられない。
「野郎!」
「もう許せぬ!」
「ぶち殺してやらあっ!」
三人まとめて、初老のサムライへ殴りかかる!
「こいやあ! まとめて返り討ちにしてやんよ!」
バンホーも立ち上がってこれに応戦し……。
俺たち四人は、ゲームのみでなくその拳でもって互いの力量を高め、友情を育んだのである……!
……そこ、さっそく主従の絆が壊れているとか言わないように。