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メテオすぎるオペレーション 後編

「――な、なんだあっ!?」


 すさまじい衝撃と、巻き上げられた土くれとに吹き飛ばされ、地面を転がりながらそう叫ぶ。


「わ、分からん……。

 空から何かが落ちたようだが……」


 横を見やれば、自分と同じように地面を転がっていた祖父が、どうにか起き上がっていた。

 見たところ、幸いにしてケガはないようだ。

 そのことに安堵しながら、もうもうと巻き上がる土煙を見やる。


 土煙は、徐々に徐々にと、風に流されていき……。

 やがて、爆心地と称すべき現場が露わとなった。


 ドワーフの伝承によれば、星々の子らが天から落ちると、このような穴が出来上がると言うが……。

 先ほどまで平らだった地面は深々とえぐれており、衝撃のすさまじさを物語っている。

 だが、真に驚くべきはえぐれた地面の中心地――そこに立つ人物であった。


 おお……もしや、この人間こそが天から飛来したモノの正体であるというのか……?


 まるで、(かし)の木へ荒縄を巻き付けたかのような……。

 そう言う他にない、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な人物である。

 身長は極めて高く、ドワーフたる身では首が痛むのを覚悟しなければ見上げられぬほどであり……。

 ほれぼれするほどたくましい肉体は、筋肉へびしりと貼りつく革製の装具で覆われていた。


 背には、風にたなびくマントを羽織っており……。

 ねじり角が取り付けられた武骨な兜を被った姿は、威風堂々という言葉こそがふさわしい。


 両の瞳は、無限の闘争心に燃えギラギラと輝いており……。

 岩石から直接削り出したかのごとくいかつい顔は、生まれてこのかた笑みなど浮かべたことがないのではないかと思わされる。


「巨人……?」


 我知らず、そうつぶやいてしまう。

 確かに、ドワーフからすれば信じられないほどの巨躯(きょく)であるが、それだけならば巨人などという言葉が口をついて出ることはなかっただろう。


 だが、全身からみなぎる覇気と呼ぶしかない何かが……。

 この人物を、山よりも巨大な存在に錯覚させてしまうのだ。


「き……き……」


 突然、隣の祖父がわなわなと肩を震わせた。


「爺ちゃん……?」


 もしや、頭でも打っていたか?

 そう思い顔を覗き込むと、祖父はにごりつつある瞳をくわと見開き、(くだん)の巨人へ熱き視線を注いでいたのである。


「奇跡じゃあ!」


「爺ちゃん?」


 急に叫び出した祖父へ、驚きそう問いかけた。

 だが、祖父は孫の姿など見えてないかのように興奮しわめき続けたのである。


「これぞ! 亡き鉱人王が言い残した預言の成就であるにちがいない!」


「爺ちゃん? 急にどうした?」


「ドワーフが真に追い詰められし時、天から全てを背負う覇王が現れ、闇を吹き払わん……!

 あのお方こそ、預言の覇王様じゃあ!」


「爺ちゃん? ともかく落ち着け」


 二人でそんなことを言い合っていると、祖父いわく――預言されし覇王がめくれ上がり斜面と化した地面の上を、一歩……また一歩と歩み出した。

 そしてついに、えぐれた地の底から無事な地面の上に降り立つ。


「ふうむ……」


 果たして、どれほどの超高高度から落下してきたのかは知らぬが……。

 その影響を微塵(みじん)も感じさせぬ動きで、覇王が周囲を見回す。


「その矮躯(わいく)……貴様らが、話に聞くドワーフとやらか?

 そして……」


 まずは己を始めとし、周囲へ集まりつつあったドワーフらを見た後、覇王は別の場所へ視線を向けた。


「――おい、ドワーフ共! 一体、何があった!?」


「――あれを見ろ! 見たこともない人間が立っているぞ!」


「一体、どこのどいつだ!?

 さっきの衝撃音と関係があるのか!?」


 見やれば、そちらからは皇国兵たちが駆けつけて来ていたのである。

 しかも、緑の制服を着た者たちばかりではない……。

 赤い軍服を着た者――魔法騎士たちの姿も見受けられた。


「うぬらが、ファイン皇国とやらの雑兵(ぞうひょう)共か……?」


 だが、覇王におびえや動揺の色はない……。

 ただ、羽虫へ向けるような視線を向けただけだ。


「う、うぬ……っ」


 むしろ、皇国兵たちの方が眼光に身をすくめ、脚を止める形になっていた。


「我ら魔法騎士を差して雑兵(ぞうひょう)呼ばわりだと……?

 どこの何者かは知らぬが、少しばかり図体がでかいくらいで調子に乗り追って!」


 そんな状況でも、一般兵たちを差し置いて前に踏み出してきたのは、さすが魔法騎士たちと呼ぶべきだろう。


「その不敬さ、万死に(あたい)する!」


「何者であるかは、後でドワーフ共に聞けば済む話よ!」


「おう! 己が放った言葉の罪深さ、思い知らせてくれるわ!」


 口々に言い放つと、魔法騎士たちが腰のサーベルを抜き放つ!

 銀製のそれから放たれるのは、斬撃ではない……。

 魔法騎士を魔法騎士たらしめる、強力無比な魔術の数々だ!


 ――炎の弾が!


 ――氷の矢が!


 ――風の刃が!


 ――雷のムチが!


 一切の構えを取らず直立する覇王へ、一斉に襲いかかった。


「ふん……」


 しかし、覇王は余裕の笑みを浮かべながらそれらを見据えてみせる。


「――かあっ!」


 そして、次の瞬間――竜種のそれもかくやという大音声(だいおんじょう)と共にくわと両目を見開いた。

 すると、おお……どうしたことか……。


「魔術が、かき消えた……!」


 まるで、最初からこの世に存在しなかったかのように……。

 一瞬で魔術が消え去ってしまったという事実に、思わずそうつぶやく。

 すると、またもや隣の祖父がわなわなと肩を震わせ始めた。


「――気合じゃ!」


「爺ちゃん?」


「覇王は、気合だけで魔術を消し飛ばしたのじゃ!」


「爺ちゃん? ほんとどうした?」


 なんだかよく分からないが、この老ドワーフ……ノリノリである。


「う……うう……」


 必殺を期して放った集団魔術が気合だけでかき消されたという事実に、委縮する魔法騎士たち……。



「やはり雑兵(ぞうひょう)……!

 うぬら全員が束になったところで、アスル一人のそれにも劣るわ!」


 そんな彼らに向けて、覇王が一歩踏み出した。


「まとめて蹴散(けち)らしてくれるわ!」


 それから展開されたのは、もはや戦いではない……。

 一方的な、虐殺である。


 その拳は、天を切り裂き……。

 その蹴りは、大地を割る……。


 距離を置き、逃げようとしたところで無駄だ。


「――むうん!」


 覇王が掌打を突き出せば、そこから放たれた闘気が物理的破壊力を伴い、眼前の全てを打ち砕くのである。


 時間にして、どのくらいであろうか……。

 おそらく、一時間はかかっていまい。

 ただそれだけで、生産拠点の施設は破壊し尽くされ、皇国兵たちはその全てが屍へと変じることになった。


「あ、あんたは一体……?」


 何がなんだかサッパリ分からないが、ともかく解放される形になったドワーフたち……。

 それを代表する形で、覇王の前に歩み出る。


「ふん……なんとでも、好きに想像するがいい。

 ともかく、うぬらは解き放たれた!

 この先、いかにするかは自由よ……。

 再び飼い慣らされ、ブタのごとく死するか、あるいはこれを機に戦うか……。

 己で考え、決めるがいい」


 覇王はそれだけ告げると、遥か上空を見上げた。


「――むん!」


 そして、ただ己の跳躍力のみで夜空の彼方へと消え去ったのである。

 その様は、天から降り落ちる流星が逆行したかのごときであった……。


 後には、ただ解放されたドワーフたちのみが残される。


「ありがたや……! ありがたや……!」


「なんだったんだ? 本当に一体……」


 とうとう拝み始めた祖父を尻目に、呆然と立ち尽くす。


 彼らドワーフは知る(よし)もないが……。

 謎の覇王による拠点の破壊は、皇国領土の各地で発生していたのであった。

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