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最初の会談

 眼前に立つ、メタルアスルなる人形についての説明を改めて受けた(のち)……。

 ワムたちファイン皇国側は、再度『ゴーゴー! アスル君ヴィジョン!』なるふざけた名称の力を用いた上演会に挑むこととなった。

 それを見た結果、若き女総督が下した結論はといえば……。


 ――全てを信じる。


 ……というものである。

 見た目が気持ち悪すぎる点さえ除けば、このメタルアスルなる人形に秘められた力はまさしく人知を超えたものであり……。

 報告で聞いたセンスイカンなる船を含め、失われた超技術によって造られたという絵物語めいた言い分を受け入れぬ限り、一切の説明がつかぬからだ。


 また、とにもかくにも信じぬことには、話が前に進まぬという問題もある。

 自分が――そして相手方も望んでいるのは交渉であり、虚言じみた説明を信じる信じないと押し問答をしている場合ではないのだ。


 そのようなわけで……。

 思わぬ長丁場となった謁見を終え、ワムは今、城内に存在する歓談室でアスルと向かい合っていた。


 ――歓談室。


 無論、ふさわしき美術品などで彩ってはいるものの、大型の暖炉を除けば、互いがくつろぐための椅子くらいしか家具が存在しない殺風景な部屋である。

 ここは文字通り歓談を楽しむための場であり、交渉という名の(いくさ)に臨むための場でもあるのだ。

 ……表向きは、だが。


 この部屋に秘められた裏の意味については、すぐさま見破られることとなった。


「ふっふ……」


 護衛であるサムライたちと引き剥がされ……。

 自分と共に身一つでこの部屋に入室したアスルは、椅子へ腰かけるなり含み笑いを浮かべ、部屋の一点を見据えたのである。

 そこにあるのは、ただの壁――ではない。

 ドワーフから吸収した技術を用い、一見どころか、まじまじと見つめても分からぬほど巧妙に隠されているが……。

 そこの壁はいざその時となればくるりと翻り、隠し部屋に待機している魔法騎士たちがなだれ込めるようになっているのだ。


「……ふう」


 溜め息をつき、ぱちりと指を鳴らす。


「お前たち、外に出ていろ。

 どうやら、この御仁(ごじん)とは正真正銘、サシで話をせねばならぬようだ」


 その言葉に、隠し扉が翻り……。

 ぞろぞろと出てきた五名ばかりの魔法騎士が、歓談室から退室することとなった。


「驚くべき勘働きの良さだな……。

 それとも、これもそのメタルアスルとやらに秘められた力の一端か?

 ドワーフ仕込みの隠し扉を見抜いたのは、貴君が初めてだぞ」


「ご明察……これも、この人形に秘められた力だ。

 この部屋だけではない……。

 失礼ながら、城の構造全て、今この瞬間に城内で立ち働いている人々の動き全てを、把握させて頂いている。

 バンホーたちに供されているのは、皇国の菓子か? 干したブドウがふんだんに使われていて、実に美味そうだ。

 配下たちへの気づかい、痛み入る」


 もはや、あきれる他にない……。

 客人の配下へ供する菓子の内容まで、いちいち把握しているワムではないが……。

 実際、干しブドウをふんだんに使った焼き菓子は皇国の伝統的なそれであり、出されている可能性は極めて高かった。


「まあ、そもそもの話として、だ……。

 くどいようだが、私本人はここにいない。

 この人形をいくら痛めつけようが、無意味だ。

 さすがの私も、生身で乗り込むような真似はしないよ」


「うらやましい話だ。

 遠き異国の地に居る国の(おさ)自らが、一切の時間差なく交渉に挑めるとは……。

 どうかな? ひとつ、その人形を譲っていただくわけには?」


「はっはっは、検討しておこう」


 互いに椅子へ腰かけ、まずは軽く冗談を交わし合う。

 そして次の瞬間、女総督はその顔をきりりと引き締めた。


「検討するということならば、例のフウリンカなる集団の跳梁(ちょうりょう)……。

 これをやめさせることも、ついでに検討してもらえまいか?」


 単刀直入とは、まさにこのこと。

 ずばりと本題へ切り込んだワムに対し、アスルの方は笑みを浮かべたままであった。


「ふむ、なんのことかとすっとぼける展開も考えてはいたが……。

 そういう手を打つならば、こちらもそれに合わせよう。

 ――いかにも!

 私が風林火(ふうりんか)に武器と策を授けている、黒幕である」


 大胆不敵な宣言をしてなお笑みを浮かべていられるのは、あくまでこの場に居るのがメタルアスルなる人形であり、本人はこの場に居ないからであろうか……?


 ――いや。


 すぐさま、その考えを打ち消す。

 この男ならば、仮に生身でここへ乗り込んでいたとしても、同じ態度を取っていたことだろう。

 そもそも、現時点でもかつてのサムライ大将という大駒を、人質に取られているも同然の状態なのだ。

 にも関わらず、ぬけぬけとこんなことを言えるのはワムが彼らを害しないと確信しているからにちがいない。


 ――脅しの(たぐい)は、無意味であるということ。


 そうと見て取ったワムは、やはり言の葉を用いた殴り合いを選ぶ。


「肯定していただけるとは、話が早くて助かる。

 ノウミ城の焼き払いに端を発する、数々の暴挙……。

 果たして、いかなる要求があってのことであろうか?」


 要するに、一連の破壊活動は、なんらかの通しがたき要求を通すために行われているものだ。

 これから告げる要求を飲めば、破壊活動をやめてやるぞということなのである。

 その要求について、内容を半ば予想しながらもまずは問いかけた。


「こちらの要求は、ただ一つ……。

 ――獣人国からの、全軍撤退。

 これさえ確約していただければ、今すぐにでも風林火(ふうりんか)の活動をやめさせよう」


 やはり――全軍撤退の要求。

 それを受けたワムは、あえて表情をゆるめ笑みを形作った。


「これは異なことを……。

 この元獣人国地方はかつて、我が国が多大な犠牲を払いながらも手にした地」


 元、という部分を強調しながら続ける。


「お(きさき)の故郷を解放したいという思いは汲むが、その要求が非現実的であることは語るまでもなかろう?」


「その非現実さを現実にする力が、こちらにはあると自負している。

 仮に、このまま風林火(ふうりんか)が各地で暗躍し続けた場合……。

 御国(おくに)の兵たちならばいざ知らず、レイドから連れて来た者たちは脱落すること請け合いなのでは?」


 アスルの言葉は、事実だ。

 飢えとは、いかなる軍隊であろうとも勝てぬ大敵である。

 まして、元より士気というものに著しく欠けるレイド兵たちであり、このまま兵糧の供給が滞り続ければ、語った未来が実現することは間違いなかった。

 しかしながら、そんなことを肯定する必要はない。


「失礼ながら、それは自信過剰というもの……。

 いかなる事情があってのことかは知らぬが、そちらは大兵力の動員が不可能であり、出来ることと言えば、せいぜいがあのセンスイカンなどを用いた武器の供給程度と察する。

 単なる民草を兵に仕立て上げるのは厄介であるが、しょせんは厄介どまりだ。

 皇国の力をもってすれば、踏みつぶすのはわけがない」


「踏みつぶすとは、豪儀(ごうぎ)な言葉だ。

 しかし、今あなたも言った通り、兵として仕立て上げられているのは支配すべき民であり、これを踏みつぶした先で土地だけを得てもうま味はないのでは?」


「土地があれば、新たに種をまくこともできる。

 獣人らを滅ぼした(のち)に、より従順な者たちを入植するよう本国は……父上は命じるだろうさ」


「ほほう……」


 一瞬、アスルの目がきらりと輝いたが……。

 ともかく、その後も二人の会談は平行線のままに進み、終わりを告げたのである。

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