ノウミ城制圧戦 5
さすが、これほどの要衝を任される将兵といったところか……。
俺が目の前に降下すると同時に、気絶していたスタイン・ノイテビルクはその目を覚ました。
「ぐ……う……」
覚ましたが、何ができるというものでもない。
とっさの判断はお見事だったが、プラズマボムはちょっと爆心地から離れたくらいで難を逃れられるほど甘い武器ではなく……。
瞬間的に吹き荒れたプラズマ奔流に晒された彼の右腕は、完全に炭化しその機能を失っていた。
それによってもたらされる苦痛が、死に値するものであることは想像にかたくなく、敵の接近を察知して意識を取り戻せただけでも、相当な使い手であることがうかがえる。
そのことに敬意を表し、タニシから降りた俺はあえて獣人としての擬装を解き、アスル・ロンバルド本来の姿に戻った。
そして、膝をつきスタインの上体を抱き起してやる。
「貴……様……は……?」
「俺か?
俺の名はアスル・ロンバルド。
正統ロンバルドの王であり、獣人国の姫君ウルカを娶った男だ。
そして、お前たちに死をもたらした者でもある。
分かっていると思うが、お前、死ぬぞ?」
「ロン……バルド……?
『死の大地』を隔てた国の者が、なぜ……?
あれらの武器は、一体なんだ……?」
「あー……すまんが、その質問はなしだ。時間がない。
いいか? よく聞け。
ここへ他の獣人たちが来るまで時間がない。
その間に、俺の質問へ答えろ。
答えたなら、この手で名誉ある死を与えてやる。
答えなければ、獣人に引き渡す。
その場合、騎士らしい死に方ができるとは思わないことだな。
話は聞いたが、お前はどのような死に方をしても文句の言えぬ人間だ。
それにあえて、慈悲を与えようという俺の意をくめ」
「は……話すことなど……何もない……」
「まあ、質問の内容だけでも聞いてみろ。
なに、別に機密事項を明かせとかそういう話ではない。
俺が聞きたいのは――」
問答無用で即死させるつもりだったこいつが生きていたのは、僥倖だ。
タスケたちやバンホーたちが残敵の掃討へ忙しくしてる今の内に、ぜひ聞いてみたかった事柄について質問する。
それを聞いたスタインは、驚き目を見開いた。
「ふ……はっは……」
そして、重傷を押して笑ってみせる。
「何を……聞くのかと……思えば……。
いい……だろう……答えてやる……。
あの……方は――」
告げられた言葉は、俺にとってなかなか都合の良いものだった。
いや、都合が悪いというべきか……。
ともかく、この男が言うならば間違いはないだろう。嘘ついて意味のあることでもないし。
「なるほど、よく分かった。
では、最期に何か言い残したいことはあるか?」
「……皇国に栄光あれ」
叫ぶほどの力強さはなかったが……。
それでも、最後のひと言はハッキリとした発音のものであった。
「しかと聞き届けた」
懐のツールボックスから、タクティカルナイフを取り出してスタインの喉に突き刺す。
そして、左手で素早く十字を切った。
――スタイン・ノイテビルク。
話を聞いた限りでは生粋の差別主義者であり、断じて許しておける輩ではないが……。
しかし、見るべきところはある男だったな。
--
――その後。
明け方近くになるまで、残敵の掃討及び城の制圧は続いた。
いかなる軍隊であっても、指揮官という頭を失えば途端に脆くなるのは共通であり……。
まして、占領地から調達された兵であるレイド人たちは、特にそれが顕著であった。
もはやケツを叩く人間もいない彼らは、次々に逃げ出し城外への脱出を試みていく……。
無論、それを許すような真似はしない。
恐慌状態にあるこいつらを放てば、行く先々でどのような凶行に及ぶか知れたものではないからだ。
対処は、バンホー率いる『マミヤ』組が執り行った。
いかに全力で駆けようとも、タニシに乗って上空を飛翔するバンホーたちから逃れられるはずもなく……。
城壁各所に存在する通用口へ駆け込んだそやつらは、時にブラスターライフルで撃ち抜かれ、時にはプラズマボムでまとめて焼かれることとなった。
全員が全員、逃亡を企てたわけではなく……。
皇国兵の中には、武器を捨て命乞いをする者の姿も見られる。
これへの対処は、ただ一つ……。
――皆殺し。
……であった。
先にも述べた通り、野に放つわけにはいかず……。
まして、こちらには捕虜を取るような余裕もない。
そもそも、この戦いへ加わってくれた獣人たちはレイド人の兵に対して怒り心頭に達しており……。
俺が止めたところで、聞く耳など持たなかったことであろう。
そのようなわけで、皇国の者たちはごく少数存在した侍女の類を除き、武官、文官の区別なく次々と屍に変えられていく……。
隠れ潜んだところで、無駄だ。
メタルアスルは当然ながら魔術を使えないが、その代わり、強力なスキャン能力を有している。
俺はそれを用いて城内の隅々に至るまでを探り、数人に持たせた携帯端末を通じて排除の指令を下していく。
結果、夜明けを迎える頃には戦いも集結し……。
俺たちは、スタインの死体が転がる本丸入口の所へ集結していた。
「こいつは、確か城主のスタイン……」
興奮冷めやらぬ様子でブラスターライフルを手にしたイッキ志願者の一人が、目ざとく城主の死体を発見する。
「ああ、運が良いことにプラズマボムから逃れたようだ。
俺が発見して、お前たちに引き渡そうとしたんだがな……。
魔術を使おうとしたので、やむを得ずトドメを刺した。許せ」
「いえ、そういうことであれば仕方ありません……」
もし、死体をもてあそぼうとしたらさすがにそれは止めるつもりでいたが……。
ここまでの戦いで疲れているのか、はたまた散々殺したことで溜飲も下がっているのか、彼は俺の嘘にあっさり引き下がってくれた。
「して、アスル様……。
こやつらは、いかがいたしましょう」
地上に降下し、タニシを背中のハードポイントへ装着したバンホーが、あごをしゃくりながらそう尋ねる。
それにびくりと身を震わせたのは、ここへ引き連れられてきた皇国の侍女たちだ。
ひざまずく形で並ばされた彼女たちは、怯えた目で俺を見上げていた。
「事前に取り決めた通りとしよう。
――お前たち!
命は奪わんから、どこへなりとも消え失せるがいい!
そして、今夜目にした光景の全てを余すことなく語り伝えるのだ!
――よいな!?」
そう宣言すると、タスケたちにうながして彼女たちが行く道を開けさせる。
侍女たちは、ノロノロと……しかし、命だけは助かったことに安堵しながら城を出ていった。
食料も金も持たせてはいないが、どうにか近隣の皇国拠点まで辿り着くことはできるだろう……。
彼女らには、せいぜいメッセンジャーとしての役目を果たしてもらいたい。
「それで、アスル様!?
今度はどうなさるのですか!?」
タスケの言葉に、彼の仲間である勇士たち……。
さらに、イッキ志願者の皆さんや、解放された元下男たちも俺に視線を向ける。
俺は彼らに、力強くこう宣言した。
「皆、疲れているとは思うが……。
まずは、ここの倉に収められた物資を可能な限り運び出す!
ノウミや近隣の人々にも協力してもらい、平等に分配するのだ!」
「――おお!」
「――やるぞ!」
俺の言葉に、獣人たちが湧き立つ。
それだけではない……。
「これから、国を取り戻すための戦いが始まるんだ!」
「ああ、ここを足がかりに皇国へ目に物見せてやる!」
そのようなことを言いだしたので、それには待ったをかける。
「ああ、この城は占領しないよ?
運べるだけ物資運び出したら焼き払うから、よろしく!」
この言葉に、獣人たちはずっこけた。




