ノウミ城制圧戦 4
「すごい……すごいぞ……!
俺たちが、皇国兵を倒している!
殺された者たちの無念を、晴らしている!」
ノウミにて一揆を企てていた町人たち……。
その内の一人が、ぶらすたあらいふるの引き金を引きながら、そう叫んだ。
――店においては、当然のように代金を踏み倒し……。
――時には、年頃の娘をかどわかす……。
――歯向かう者は、容赦なく切り殺す。
悪逆非道の限りを尽くしてきた皇国兵たち……。
百万回殺しても殺したりぬそやつらが、指先の動き一つでたちどころに倒れ伏し、絶命していくのだ。
まさにこれこそ、自分たちが……いや、全ての獣人が待ち望んでいた光景である。
「タスケ様!
あなた方には、感謝してもしたりません!」
返り討ちにしたという忍びから自分たちに関する情報を聞き出し、数日前に接触を図ってきたお侍様たち……。
その内の一人、へっどせっとなる装備をつけた最も年若いお侍にそう声をかけた。
「なんの! 俺たちなど、いかほどのものでもありません!
全ては、空から我らを助けて下さっている侍大将バンホー様……。
そして、ウルカ様の夫であらせられるアスル様の導きと助力あってのこと!」
またも一人の皇国兵を射殺したタスケが、空を見上げながら感極まった声を上げる。
上空では、タニシと呼ばれる飛翔台に乗った七人の勇者たちが、ぶらすたあらいふるを使って的確に地上の援護をしていた。
「ほんに……ほんに……!
城門を破壊した、あの恐るべき威力のばくだん……!
憎き魔法騎士共を一蹴した、ぷらずまぼむなる武器……!
そしてこの――ぶらすたあらいふる!
恥ずかしながら、最初は疑ってしまいましたが……。
アスル様こそ、お姫様の夫であり、私たちの救世主でございます!」
自らは戦列に加わらず、タニシに乗って戦場そのものを俯瞰しながら指示を出している全身鎧の戦士を見上げながら、町人は心からの言葉を吐き出す。
――アスル。
かの侍大将と共に、密かに獣人国へ乗り込んで来た青年の名である。
いや、理屈はよく分からないが、実際には本人が乗り込んでいるわけではないらしい……。
ともかく、侍たちと共に接触してきた彼の言葉は、その全てが絵空事ととしか思えなかった。
だが、彼がもたらした数々の武器……。
そして今、目の前に繰り広げられている光景……。
もはや、その言葉を疑うことはあるまい……。
「――む!?
はい……承知しました!」
と、タスケが頭頂の獣耳に装着したへっどせっとを押さえながら、口元のまいくへ返答する。
こうすることによって、彼は遠く距離を隔てながらもアスルの指示を聞くことができるのだ。
「――各々方!
このまま前進し、皇国兵のことごとくを討ち果たせとのご命令です!
勝利は我らにあり!」
――おお!
タスケの言葉……すなわちアスルの言葉に、獣人たちが勢いよく応じる。
すでに、ノウミ城を巡る戦いは終結を迎えつつあった……。
--
「こうなるだろうと思ってたし、そうするために段取り組んだわけだが……。
実際にやってみると、想像以上にあっけないもんだな」
メタルアスルの目を通して戦場を眺めた俺は、マイクを切りながらそうつぶやいた。
――メタルアスル。
今回の作戦へ参加するために持ち出した、遠隔作業用人型端末の通称である。
全身は流体型ナノマシンで構成されており、様々な形態へ変化させることが可能!
実際、今現在は俺本人をベースとしつつ、獣人の特性を備えた姿となっていた。
しかも、流体型ナノマシンの特性として、剣でぶった切られようが槍で刺されようが即座に修復ができる。
溶鉱炉にでも放り込まれない限り、こいつが動きを止めることはないだろう。
すごいのはそれだけではない……。
人間がそうするように食物を摂取することでエネルギーの補充が可能な上、ナノマシン同士が摩擦する際のごくわずかな熱も電力に変換することで、長期間の単独行動を可能としていた。
しかも! 選べる七種の自爆モードを搭載している!
難点は、製造する際レアメタルをべらぼうに使用してしまうため、潜水艦と『マミヤ』に搭載している予備機を合わせ三体しか造れなかった点であろう。
……調子に乗って自爆しないよう、気をつけなくちゃいけないな。本来は、『マミヤ』へ居ながらにして正統ロンバルド派の貴族と交渉するために造った代物だし。
そんなわけで、俺本人は戦場と化したノウミ城にはおらず、『マミヤ』の自室で専用デバイスを装着しながらリラックス中である。時代はリモートだね。
そう、リモート中だ。
リモート中だが、戦場の肌触りも熱も、何もかも……実際にそこへいるかのように感じられた。
マシンの高性能さゆえである。
だから、実際に自分が作り出した光景を見ておぞけのようなものを感じてしまっていた。
何しろ、眼下では現在進行形で皇国兵がばんばん死んでいるのだ。
俺の指示に従って、である。
分かっちゃいたことだが、精神的にくる光景だ。
とはいえ、それでびくついていられる身分ではないので、メタルに備わった種々様々なセンサーを用いて戦場の把握に努める。
務めた結果、導き出した結論はただ一つ。
――完勝。
……この二文字だ。
あえて、炸薬系の爆弾を用いて城門を破壊することにより、進入路を確保しつつ轟音で敵兵たちのド肝を抜く。
敵兵が混乱してる内に、捕縛したシノビが吐いた情報を元に接触したイッキ志願者たちや、タスケたち勇士たちがブラスターライフルに物を言わせ一気に浸透。
そうこうしてる内に虎の子である魔法騎士団が出撃してくるわけだが、それは上空に待機するバンホーたちに始末させた。
その際、重要なのはブラスターライフルで敵射程外から射殺可能であるにも関わらず、あえてプラズマボムという派手な武器を使用した点である。
頼りの綱である魔法騎士たちが、あっけなく全滅したこと……。
これを、皇国兵及び下男とされている獣人たちに分かりやすく示したのだ。
その効果――大なり。
地上では、下男としてこき使われていた獣人たちも戦いに加わっており、奪ったサーベルやあるいは己の拳で皇国兵を倒していた。
それにしても、驚きなのは――一般皇国兵の弱さだ。
確かに、エルフ自治区での戦い以降にアップデートした装備を惜しみなく使うことで、一度も手番を与えることなく押し進めた。
に、しても……まさかイッキ志願者たちはおろか、下男の獣人たちにすら損害がでなかったとは。
判断力の低さといい、技量の低さといい、士気の低さといい、敵ながら弱すぎて心配になるレベルである。
言うまでもないが、ロンバルドの兵たち相手ならこうはいかず、相当数の損害が出ていたことだろう。
何しろ、一般皇国兵ときたら丸腰の獣人下男相手にすら腰抜かして逃げ回っているからね。その腰につけたサーベルはなんのためにあるんだ?
確か、レイドだっけ?
占領先から兵を調達した弊害ということだろう。
優位な状況で行ってこいさせる分にはそこそこ仕事をするが、本質的にはやる気がないし、心底から必死になるということがないのだ。
「――む?」
と、そんなことをしている内にある人物を発見する。
魔法騎士たちを率いていた、敵の頭目……。
スタイン・ノイテビルクが、重傷を負いつつも気絶し倒れ伏していたのだ。
俺は自身を乗せたフロートユニット――『タニシ』を操作し、そちらへ降下していった……。




