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ノウミ城制圧戦 3

「――む!?

 あれはなんだ!?」


 スタインの指示に従い、愚かな反逆者共を血祭りに上げるべく動き出した魔法騎士たち……。

 その内の一人が、ふと夜空を見上げながらそのような声を出す。


「空に浮かぶ光……?

 魔術ではないな。それに、一つや二つじゃないぞ……?」


 最初に発見した者へ続き、他の騎士らも上を見上げる。

 果たして、そこにあったもの……。

 それは、目撃した者が口にした通りの……不可思議な光であった。

 魔術で生み出すような、単なる光球ではない。

 まるで、渦を巻くかのような光の線が八つばかり上空に浮かび上がっており……。

 しかも、徐々に徐々に高度を下げ、地上に迫っているようなのである。


「スタイン様!?」


「うろたえるな!

 各員! 光球を放ち空を照らし出せ!」


 スタインの言葉に、魔法騎士たちが手やサーベルを天にかざし、そこから照明用の魔術を撃ち放つ。

 謎の光が位置するのは、魔術が届くよりもかなり上の高度であったが……。

 魔法騎士たちが撃ち放った光球は、しばらく滞空しごく小規模な太陽のごとく周囲を照らし出す。

 それが下から無数に放たれたのだから、どうにかその正体を暴くことができた。


 暴いて、驚く。


「宙に浮かぶ――台座だと!?」


「見ろ! 何者かが乗っているぞ!」


「あれは、騎士……なのか……?」


 そう、上空から地上に向けて降下しつつあった八つの光……。

 その正体は、空中に浮かぶ台座であった。

 台座の下部……貝殻じみた形のそこからは渦を巻くように例の光が発せられており、どうやらそれが浮遊力を与えているようである。


 そして、その台座に乗っている者……。

 それは、奇妙な……本当に奇妙な装いをした戦士たちだ。

 全身を包んでいるのは、他国の騎士が(いくさ)で着込む全身鎧のようにも思えた。

 だが、その光沢は金属と呼ぶのがはばかられるものであり、かといって、皮革(ひかく)やましてや木材とも異なる。

 しかも、それはどうやら見た目に反してごく軽量であるらしく……宙に浮かぶ戦士たちは皆、軽快な動きを見せていた。


「兜の形状と腰から伸びた尾……大小のカタナ……。

 もしや、あれも獣人たちなのか!?」


 目ざとい者が特徴を捉え、そう推測する。

 なるほど、この者たちがかぶっている襟元までをきちりと覆う兜……。

 この兜は特徴的なことに、頭頂部を獣耳のような形に加工してあり、のみならず、顔に当たる部分が黒いガラスで覆われているようだった。

 しかも、後ろ腰では尾のようなシルエットがうごめいており、これはどうやらズボンと一体の……伸縮性抜群な布地に包まれているようである。

 何よりも、腰に下げた大小二つのカタナ……。


 これらを総合すれば、結論は一つしかない。


「見たこともない鎧だが、確かに着ているのは獣人のようだ。

 それが、空に浮かんでいる……?

 いや――飛んでいる!?」


 そう、獣人と思しき戦士たちを乗せた台座……。

 それはただ、宙に浮かんでいるわけではない。

 空中を自在に……しかも、極めて立体的に飛び回り始めたのである!


 手すり一つ存在しない台座であり、そのような真似をすれば上に乗る者が簡単に落ちそうなものであるが……。

 戦士らは地上でそうする時と変わらぬように、がっしりと台座の上に立っていた。


「――おのれっ!」


「なんだか分からぬが、ともかく叩き落としてくれる!」


 魔法騎士の内、血気盛んな……かつての大戦(おおいくさ)を経験してない世代の者が、スタインの命令も待たずに魔術を撃ち放つ。

 撃ち放ったが、これは……。


「――届かんのか!?」


 実際に試すまでそれを見抜けなかったのは、実戦経験の浅さゆえであろう。

 先に放った光球のように、広範囲へ効果を及ぼす術ならばともかく……。

 十分に人間を殺傷せしめる威力の攻撃魔術となると、あの高度には届かない。


 放たれた炎の矢弾は、術者の気合もむなしく急激にしぼんでいき……。

 宙を舞う戦士の足元、十メートル程の所で完全に消え去った。


 だが、この攻撃が完全に無駄だったかと言えば、そうではない。


 ――完全に魔術の間合いを見切っている!?


 戦士らがこの高度を維持しているのはそれゆえであると、スタインに看破させたからである。


 ――だとすれば、あやつらは魔法騎士相手の戦いに慣れている。


 ――鎧の中身は、古強者(ふるつわもの)か!?


 手出しがかなわぬまま上空を睨み、しかし、次の瞬間には自嘲(じちょう)の笑みを浮かべた。


 ――いや、仮に魔術が届いたところで……。


 ――あの者らにそれを当てることなど、出来るか、どうか……。


 その事実に、思い至ったからである。

 挑発の意図を込めて、複雑怪奇な動きを見せる上空の戦士たち……。

 その動きは、ツバメか、はたまたハチかという流麗かつ自由自在なものであり……。

 これに対して魔術という攻撃手段は、あまりに遅く、鈍いものであると思えた。


 一種の諦観(ていかん)にも似た思いが、スタインの胸を支配する。

 スタイン・ノイテビルクはノウミ城を預かるに足るほどの武勲を積み立てた、歴戦の魔法騎士だ。

 皇帝がまだ意気盛んであった時代には、数多(あまた)の戦場を駆け抜け、死線を幾度もくぐってきた。


 そうして培ってきた勘が、告げている。


 ――自分は今日、ここで死ぬ。


 ……と。


「――見ろ!」


「――何をするつもりだ!?」


 魔法騎士たちの声にハッとなって上空を見やると、宙を舞う台座へ乗った戦士たちに動きが見えた。

 カタナとは別に、腰へ装着していた球……。

 球遊びにちょうど良さそうな大きさのそれを、手に取ったのである。


 そしてそれが――放られた。

 天から降ったものが、地に落ちる……。

 ごく当たり前な法則に則ったその動きが、ひどくゆっくりと、緩慢(かんまん)なものとして魔法騎士たちの目に映った。


 そこでふと、スタインは気づいた。


 ――上空を舞った戦士たちが静止した位置……。


 ――それは、散開を始めていた魔法騎士たちの上へ等間隔に並んでいないか?


 ……と。


「――ッ!

 魔術を放て!

 あの球を撃ち落とすのだ!」


 どうしようもないほどの不吉さを感じたスタインは、そう命じながら自らもサーベルを抜き風の魔術を放つ。


 ――軌道を逸らせれば!


 そう直感しての行動であり、それが彼の命を救うこととなった。

 スタインのみは、風によって狙いを外れた球の効果範囲外へ位置することになったからである。


「――くおっ!?」


 迎撃の魔術もむなしく、地面へ落下した球が巻き起こした現象……。

 それにスタインは悲鳴を上げ、吹き飛ぶこととなった。


 落下した、その瞬間……。

 何やら硬質な素材で作られたと思しき球は内側から弾け飛ぶと、半径十数メートルを荒れ狂う雷で包み込んだのである。


「――ッ!?」


 魔法騎士たちは、悲鳴を上げることすらできなかった。

 人間の魔術では到底及ばぬであろう強烈な雷の奔流に身を焼かれ、一瞬でその身を黒焦げの死体に変えたからである。


「ぐ……うう……!?」


 地面を転がったスタインは、うめき声を上げながらどうにかして身を起こそうとした。

 その結果、気づく。

 自分の右腕が、炭と化している事実に……。


 それを認識すると同時に、スタインは意識を手放した。

 諸事情により、二週間ほど仕事が忙しくなるため更新が乱れるかもしれません。

 ご了承ください。

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