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ノウミ城制圧戦 2

 ノウミ城を預かるスタイン・ノイテビルクにとって、今夜の出来事はまさしく青天の霹靂(へきれき)であった。

 突然の轟音と、城そのものを揺るがすほどの衝撃に、ベッドから飛び起きてみれば……。

 目抜き通りに繋がる城門が無惨に崩れ去り、しかも、そこから無数の青白い光が放たれているではないか……!?


「誰ぞ! すぐさま状況を報告せよ!」


 今年で49歳になるスタインがこの城を任されているのは、何もラトラ地方総督であるワム・ノイテビルク・ファインとの血縁のみが理由ではない……。

 年齢相応の武功を積み重ねてきたのが最大の理由であり、歴戦の指揮官にして魔法騎士である男は、この事態にすぐさま動いた。


「情報が集まるまでの間に、全魔法騎士は謁見の間へ集結!

 いつでも出撃できる態勢を整えよ!」


 小姓(こしょう)たちにきびきびと指示を与えつつ、自身も素早く(いくさ)支度を整えたのである。

 ノウミ城に詰める魔法騎士の数は総勢で百騎……。

 スタインが謁見の間へ赴くと、すでに全員が集結し彼を待ち構えていた。


 このような時に抱くべき感想ではないが……。

 赤い軍服を身にまとい、腰に銀のサーベルを下げた騎士たちが一糸乱れず整列する姿を見て、若干の満足感を覚える。

 獣人共はもとよりとして、レイド人の兵たちも士気といい、練度といい、今一つ信用できるものではないが……。


 偉大なる皇帝陛下が心血を注いで育て上げた、生粋のファイン人による魔法騎士団……。

 彼らに対しては、全幅の信頼を置くことができた。

 自分と魔法騎士たちの力があれば、どのような事態でも打開できるにちがいない……!


「皆の者、ご苦労!

 ――それで、情報はまだか!? 何が起きている!?」


 まずは魔法騎士たちをねぎらいつつ、いまだもたらされぬ情報に業を煮やしそう問いかける。

 ほどなくして、小姓(こしょう)の一人が駆けこんで来た。


「――報告します!

 獣人共が反乱を起こし、城に攻め入って来た模様です!」


「反乱だと!? 天変地異の(たぐい)ではないのか!?」


 その言葉に、聞き間違いかと思ってそう尋ねる。

 しかし、小姓(こしょう)はそれに首を振り、続く言葉を吐き出したのだ。


「間違いありません!

 いかなる方法を用いたのか、獣人共は城門を破壊し、堂々と攻め入ってきたのです!」


「む……う……」


 にわかには信じがたい言葉であるが……。

 こうまで強く断言されては、否定しようもない。

 かつて戦場を駆け抜け、自らの魔術とサーベルでサムライ共を(ほふ)ってきた男は、柔軟な思考でその事実を受け止めた。

 受け止めた上で、こう指示する。


「ならば、レイド人の兵たちを向かわせよ!

 どのような手で城門を壊したかは知らぬが、そう何度も使えるものではあるまい!

 カタナ狩りでろくな武器も持たぬ駄犬共ごとき、一蹴(いっしゅう)してみせい!」


「そ、それが……すでに兵たちは応戦しているのですが……」


「応戦しているが……?」


 ぎろりとした視線を向けるスタインに、小姓(こしょう)は身を縮こませながらも己の職務を果たす。


「恐れながら、まったく歯が立ちません……!

 獣人共は、カタナとも魔術とも異なる、極めて強力な武器を手にしているのです!」


 ――魔術とも異なる極めて強力な武器。


 その言葉に、かちりとくるものを感じながら決断する。


 ――しょせん、レイドの負け犬共など数合わせに過ぎぬということ。


 ――ならば、ここにいる魔法騎士たちでもって蹂躙(じゅうりん)すればよい!


 皇帝から直々に下賜(かし)されたサーベルを引き抜き、高々とこれを掲げた。


「――よろしい!

 全魔法騎士は、我に続いて出撃!

 獣人共を制圧するぞ!」


 その言葉に、魔法騎士たちも次々とサーベルを引き抜きこれを掲げる。

 ファイン皇国が誇る魔法騎士は、大陸にて最強……。

 どんな武器を使っているかは知らぬが、獣人共など物の数ではあるまい……。




--




 百騎からなる魔法騎士団を引き連れ、出陣したスタインが見たもの……。

 それは、これまでのいかなる戦場でも目にしたことがない光景であった。


 なるほど、城門を破壊して攻め入っているのは、獣人たち……それもノウミの街に暮らしている町人といった格好の者が大半である。

 だが、こやつらの手にした両手持ちの筒……。

 それが、


 ――ピュン!


 ――ピュン!


 と、なんとも気の抜ける音と共に奇怪極まりない光の線を放つと、それを喰らったレイド人の兵たちは次々と倒れているのである。

 それにしても、この光線……なんという威力であろうか。

 ファイン皇国の兵は伝統的に鎧というものを着用せぬが、仮に着ていたところで、気休めにもなるまい。

 何しろ、頭や胴にもらえばほぼ即死。

 運よく四肢などに狙いがそれたとしても、それだけでろくに身動きできないほどの傷を負っているようなのだ。


 夜間の上に遠目ではあるが、どうやらこれを受けた傷口は無残に焼けただれているようである。

 そうなると、魔術による治療も上手くはいくまい――レイド人ごときにそこまでする必要はないが。


「いいぞ! このまま進撃し、敵将スタインの首を討ち取るのだ!」


「間違っても、下男(げなん)として連れて来られた仲間たちに当てるなよ!」


 先頭に立ち、町人姿の獣人らを率いている者たち……。

 カタナを差し、袴をはいた獣人たちがそう叫んだ。

 おそらく、そやつらはサムライの生き残りにちがいない……。

 それが、どのようにしてかカタナを越える武器――あの奇妙な筒を相当数調達し、この反乱を企てたのだ。


「サムライの生き残りか……あんな奇妙な武器を、どのようにして手に入れた……!?」


 一方的に蹂躙(じゅうりん)されるレイド兵の姿を眺めつつ前進しながら、そうつぶやく。


「いや、それは考えても仕方あるまい……。

 レイド人共は、何をしているか!」


 不可解極まりない獣人の武装には困惑したが、それ以上に、レイド人共の情けなさに腹が立った。

 この城に詰めるレイド兵の数は、およそ三千……。

 奇襲であったため、全員が一度に立ち向かうことはかなわなかっただろうが……。

 それにしても、数を頼りに押し包めば、仮に半数が犠牲になったとしても残る半数がサーベルの間合いに持ち込めたはずである。


 羽虫にも等しい価値の命を、今こそ使わずにいつ使うというのか……!

 また、突然の事態に混乱をきたし、弓などを持ち出す余裕すらないようなのが余計に腹立たしい。


「やはり、レイド人共などなんの役にも立たぬわ……!」


 サーベルを引き抜き、背後の魔法騎士たちに指示を出す。


「総員! 散開して獣人共を押し包む形となれ!

 奴らは、一直線に本丸へ向かってきておる!

 殺しの間を作って迎え撃ち、魔術を雨あられと降らしてやるのだ!

 レイド人や下男(げなん)共の巻き添えについては、考慮する必要なしとする!」


 ――はっ!


 魔法騎士たちが威勢よく応じ、きびきびと動き出す。

 反乱者たちは、すでに物資を備蓄した倉庫が立ち並ぶ城内中ほどにまで浸透しつつある……。

 そこを、墓場とする算段だ。


 魔術という強力な飛び道具を持つのは、こちらとて同じ……。

 ならば、レイド人や獣人の下男(げなん)を盾としながら迎え撃てる上、数で勝るこちらの優位は揺るがぬ。


 その判断は、正しい……。

 相手取るのが、地上を進む獣人たちのみであったならば、だが。

 真の脅威は、上空にこそ存在したのである。

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