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ノウミ城制圧戦 1

 ノウミの城といえば、旧獣人国時代から変わらぬ姿を保ち続ける、貴重な城塞の一つである。

 獣人国の文化破壊政策を徹底するファイン皇国が、あえて温情を示した理由はただ一つ……。

 この城が、旧獣人国地方における極めて重要な物流拠点であるからだ。


 そもそも、ノウミ地方自体が旧獣人国の中央部に位置しており、海に面する獣人国王都と他国とを結ぶ重要な中継地点として古来より栄えてきた。

 必然、城を普請(ふしん)するにあたっては、防衛力よりも商路の助けとなることが重視されたのである。

 結果、完成した城は平造りの大規模物流倉庫と呼ぶべき代物となり……。

 これを奪取した皇国は、あえて破壊せずそのまま活用することを選んだのだ。


 そのノウミ城には今、ひっきりなしに獣人国各地からの徴税品が集められていた。

 荷馬車などを用いて運び込まれているのは、もっぱら収穫されたヒエである。

 獣人たちが苦しい冷害を耐えしのぎ、冬への希望を託した食糧だ。


 それらは一旦、この地に集積され、仕分けされた(のち)に皇国本国を始めとした各地へ輸送されていくのである。


「――はっ!

 獣人共、ろくに飯も食えませんってツラしてやがった割に、ずいぶんと溜め込んだもんじゃねえか!

 見ろよ? もう夜中だってのに、まだ倉へ運び込んでやがるぜ!」


 防衛力には乏しいノウミ城であるが、木造りの城壁だけはなかなかに立派な構造をしており、各所には見張り台が設けられ、また、城壁の上そのものが通路として各見張り台を連結させる構造となっていた。

 そんな、見張り台の一つ……。

 城の内側を見やった兵の一人が、共に見張りへ立つ相方へそう話しかけた。


「大方、下男(げなん)に使ってる獣人共がちんたらやってるんだろうさ。

 あれから十年経つってのに、連中、まだ自分たちの立場ってもんが分かってないらしいな」


「おおよ!

 指示してる連中も甘いもんだ。

 俺だったら、適当に一人殺してせかすところだぜ!」」


「だな!」


 互いに、下卑(げひ)た笑みを交わし合う。

 この二人が着ているのは、緑色の皇国軍軍服……。

 魔法を使えぬ一般兵である。

 この地における一般兵というのはすなわち、軍役(ぐんえき)に志願したレイド人を意味しており……。

 かつて、皇国に滅ぼされた国の人間がその尖兵(せんぺい)となり、また別に滅ぼされた者たちをあざけ笑う、なんとも醜悪(しゅうあく)な光景がここに繰り広げられていたのであった。


「さて……と、あんまり内側ばっかり見てると、魔法騎士様に怒鳴りつけられちまうぞ?」


「おお、そいつはこええ!

 でもよ、その心配はないぜ?

 本国出身のエリート様が、こんな夜中に見回りなんざするはずもねえからな!」


「はは! ちがいねえ!」


「そうなると、気の張りようもないってもんさ。

 まさか、今さら獣人共に反乱を起こすような気概(きがい)があるはずもねえ。

 まして、ここは城だぜ?

 自慢のカタナも取り上げられたやっこさんらが、どうやって攻めてくるってんだ?」


「あんまり甘く見るもんじゃないぜ?

 奴らには、ほら……ホマレがある!」


「ホマレか! そいつはいい!

 ぜひとも、ホマレでこの城を攻め落として欲しいもんだ!」


「まったくだな!」


 そんな会話をしながら、互いに笑い合う。

 その、時である。


 ――轟音が、鳴り響いた。


 いや、そのような生半可な表現をしてしまって、いいものか、どうか……。

 物理的な圧力すら伴った音は、骨身どころか臓腑(ぞうふ)に至るまでも揺るがし、レイド人の兵たちは一時的に方向感覚すら失い、その場へうずくまることとなったのである。


 ――キイ……イン!


 という、耳鳴りがいつまでも耳朶(じだ)を震わす。

 果たして、うずくまっていたのはどれほどの間であっただろうか……。


「な……なんだ!? 何があった!?」


 ともかく、ようやく立ち上がることのかなった二人は、互いに顔を見合わせたのである。

 そのような声を発したのは、見張り台に立つ二人のみではない。


「――今のはなんだ!?」


「――分からん! 急にすさまじい音が!」


「――おい! 見ろ! 城壁が崩れているぞ!?」


「――お、俺は見た!

 突然、とんでもない爆発が起こって城壁が崩れたんだ!」


 下で、物資の搬入作業に従事していた者たち……。

 今ばかりは、皇国兵も獣人の下男(げなん)たちも区別なく、大声でわめき合っていたのである。


「城壁が……?」


 その言葉を聞きつけて、二人の見張りは城を囲う城壁を見回す。

 これほどの破壊であったのに、すぐさま気づけなかったのは、それほど先の衝撃が大きかっただろうか……。


 見れば……おお……。

 まるで、砂浜で作った城を蹴り崩すかのように……。

 二人から見て右手――ノウミの目抜き通り方面に存在する城門が、もろくも崩れ去っていたのである。


「ど、どういうことだ……!?」


「どういうことって、言われたってよお!?」


 あまりの光景にあ然としながら、そのような言葉を交わし合う。

 その時だ……。

 今度は、光が……。

 実に強烈な青白い光が、崩れ去った城門の方からいくつも放たれたのである。


「魔術の光!? 魔法騎士たちが起き出してきたのか!?」


「いや、なんか様子がちげえぞ!?

 それに――どうして城の外側から照らしてきてるんだ!?」


 そう、青白い光が放たれているのは、城の内側からではない……。

 城門の外から、内に向かって放たれていた。


「――くそっ!」


「――ともかく、様子を見に行くしかねえ!」


 職務に対する忠実さというよりは、ともかく現状を把握したい一心で見張り台を後にする。

 そのまま、通路となっている城壁の上を駆け抜けた。

 そうしたのは二人だけでなく、他に見張りへ立っていた者たちも同様であり……。

 駆けつけた見張りの兵たちは、城門が崩れ去ったぎりぎりの箇所へ集結することとなったのだ。

 見れば、本来は一枚の壁としてつながっていたはずの反対側へも、同じように兵たちが集まっていた。


 そうやって集まった兵たちが、両側から挟み込むようにして眼下を見やる。

 果たして、そこに集まっていたのは――獣人たちの集団であった。

 その数、おおよそ五十人ほどであろうか……。

 見た目からしてノウミの街へ住んでいる町人たちであろうが、尾を腰に巻きつけず、怒りのままピンと立てている姿は、反抗心の燃え上がりを強く感じさせる。


「獣人……?」


「奴ら、反旗を翻すつもりか!?」


「だが、あいつらが手にしている物はなんだ?」


 兵たちが首をかしげたのは、そやつらが手にしている奇妙な……両手持ちの筒に対してである。


 筒、とは言ったが、それは言葉ほど単純な形状をしていない。

 全長は、獣人共と比して考えればおよそ80センチほどだろう。

 構えられた先端部は細長くなっているが、最後部は扇状に広がり、これを肩へ当てられるようになっている。

 上部には、小さな――望遠鏡を思わせる部品が取り付けられており、下部には筒全体を保持するための取っ手が備わっていた。

 さらに、筒の先端下部にも望遠鏡じみた部品が備わっており、これが青白い光を発しているのだ。


「――おい! 貴様ら! これはなんの騒ぎだ!?」


 意を決して、兵の一人が獣人らに向けて呼びかける。

 その兵は、自分ならば下男(げなん)の一人も殺して搬入作業をせかすと言っていた者だった。


 獣人たちは、何も答えない……。

 いや、その内の一人が手にした筒の先端を……そこから発される光を、今、呼びかけてきた兵に向けた。

 すると……、


 ――ピュン!


 という、なんとも間の抜けた音が響き……。

 筒から放たれた光の線が、兵の胸を穿(うが)ったのである。

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