9、ギャルは天敵、姫は勝手にライバル心
「あ、ショタじゃん~!
つっかまえたっ!
いつもの鬼メイドはいないの~?」
「うぅ…離せ…!
この…!」
メイドのミミットがオカマ戦士と戦っている頃、冒険者ギルドの角で僕はばったり出くわしたギャル冒険者達にがっちり腕を捕まれていた。
このギャル達はお姉さん属性を持っていないけど苦手だ。
この2人組は会うたびにいつもからかってくるのでもうドキドキである。
「ふっふっふ~。ショタ君ショタ君。
じゃーん、今日のサラは白いレースですよ~?」
「な…っ!」
僕の腕を捕まえて鎧のスカートをチラリと捲りあげる金髪ツインテの白ギャルの冒険者。
そこにはシルクのような光沢感に透け透けのレース。
ギャルの行為とは真逆の清廉で純白な輝きに目をまんまるくして視線が離せなかったけれど、ハッと我に返って手で顔を覆う。
天使のようなハレンチだ!
かーっと顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。
ショタは顔に全て出てしまうのだ。
「や…やめてよ…!」
「あはは!ショタ君顔真っ赤っか!
クェルのも見せたげてよ!」
「え~?どうしようかなぁ。
あたし今日はTなんだよね~。
ほら、チラチラッ。」
「わわわ…!?」
「あっはははは!ショタ君!
指の間から見えてるよ~!」
もう一人の空色髪のギャルが後ろを向いてチラチラと鎧のミニスカートを上げ下げさせて綺麗な白桃を見せてくる。
その桃に縦に走る黒と紫の薄布。
ご奉仕大好きミミットも実家の実姉もお母さんもそんなえちちなのは持ってない。
顔を真っ赤にしながらダメだダメだと思いつつも指の間からついついガン見してしまった。
ダメダメショタは何事にも興味津々なのだ。
「あはは!!
ショタ君、こっちもみてみる?
ほれほれ~触ってもいいんだゾ?」
「あたしもあたしも~。
ほらほら~!」
「うわああっ!!」
ショタは全力で逃げ出した。
ミミットのに遠く及ばないけれどショタには効果は抜群だ。
ショタの精神防御は紙なのだ。
ショタキラーなんてスキルはいらない。
ただスカートをめくるだけ、それだけでショタは混乱して戦闘不能だ。
あのギャル達はショタを殺す魔物。
純情なショタでは勝負にならなかった。
ショタがギャルと戦うにはまだまだ早い。
「あれ~?こっちじゃなかったっけ?」
「わかんなーい。
もぉ~サラちぃがからかいすぎるからだよー。」
ギャル達から逃げ出して道を何度か曲がって、道端にあった空の大壺を被ってコソコソ動く。
冒険者ギルドの前には料理で使う壺や樽が並び、子供達が遊んでいるのでうまく誤魔化せるかもしれない。
「え~、だってあのショタ君の反応かぁい~じゃん?
ここの悪ガキ達と違ってついついイジメたくなる可愛さってやつ?」
「あ~ねぇ。
あれ絶対魅力極振りっしょ。
って…ちょっと!今スカート捲ったの誰だ!?
おい待てやクソガキ!お前かぁ!!」
「逃げろ!皆ぁ!!こいつのパンツふんどしだ!!」
「違うわボケェ!
全員皮剥ぎナイフで粗チン剥いてやるからそこへ並べやクソガキ!」
スカートをめくられたギャル冒険者達は罵声をあげながら悪ガキショタを追って離れていったようだ。
あんなに短い鎧スカートしてたらショタ達は探求心を抑えられないから仕方ないね。
僕もあと2年若かったらやってたかもしれない。
今でも目はこっそり釘付けだから。
でもギャルが消えてくれて助かった!
今のうちにドキドキする火照りを冷ましつつ、冒険者ギルドへコソコソ急ごう。
そう思ってヤドカリの如くちまちまと動いた矢先、違う女性の声がする。
結構近いぞ。
さっと大壺を被って道端に並ぶ樽群と擬態化してやり過ごす。
まったく…今日は何難目だろう。
「えぇ~!すごいねぇ!
あいたんか弱いプリーストだから全然ダメダメなんだよねぇ…。
あ、ショタ達が遊んでる~☆
ねぇえ、お姉さんと鬼ごっこしよ!」
「今度俺が狩ってきてやるって。
それよりあいたん、ショタと遊んでたらお昼のランチに間に合わないぜ?」
「そうでござるよ、あいたん。
あー…でもあいたんがショタ達と遊んでるとこみたいでござるなぁ。
天真爛漫なショタ達と大天使あいたんのシャイニングキラリンスマイルなコラボレーション!」
声がどんどん近づいてきてる。
大丈夫、【お姉さんキラー】は壁を貫通しない。
だからこのまま大壺を被って隠れていれば見つからない限り安全なはず。
「あはは~☆ あいたんねぇ、子供たち大好きなの!
冒険者になる前は実家の近所の子達と毎日遊んで木登りだってしてたんだよっ♪
もうショタ君とか見ると遊びたくて胸がキュンキュンしちゃう~!
でもごめんねショタ君たち、あいたん今日はランチのお約束あるからまた今度遊ぼうねっ☆」
「ぶひぃ~マジあいたんの笑顔がまぶしーッ!」
「もぉ、はずかしーからそういうの止めてよぉ~☆」
ーコンコン…コンコンコン……
誰かが大壺を叩いてる。
大壺の中だからよく響くのでシロネコが起きてしまった。
暢気にあくびと伸びをしてる。
「何してるの~?りぃりちゃん。」
「…ぜる君、何かねこの壺さっきから動いてるの…。」
「えー?嘘だー!」
「ホントだよ!
動いてたのん。
…ミミックかも?」
「…ほんとにぃ?」
ーコンコンコン…コンコンコン…
こら子供達止めなさい!
早くここから移動しないとそこのちやほやされてる自称お姉さんに【お姉さんキラー】がぶっ刺さってしまって大変な事になるんだから。
もしスキルがプリプリうるさい女の子に刺さって求愛されたら親衛隊のような取り巻きに殺されかねないんだぞ。
こうなったら…。
『いけ!シロネコ!』
『…え?』
僕の肩に乗り二度寝を図ろうとするシロネコを捕まえて大壺から子供達の前へ放り出す。
役に立つんだシロネコ。
この状況も元はと言えば、壺に隠れなきゃいけないショタにしたこの転生サービス職員天使のせいなのだから!
「あ、白猫だ!」
「にゃ、にゃあ…。」
「白猫が洋服着てるぞ!捕まえろ!」
「待てぇ!猫ちゃん!」
「にゃあ"~!?」
健闘を祈るシロネコ。
君の犠牲は無駄にはしないよ…。
よし、今のうちに…。
「…壺の中で何してるのぉ?
かくれんぼお?」
「…あれ?」
パカッと開けられ明るくなった世界に親指を噛む幼女の顔が迫る。
そして通りかかったロリ系の冒険者お姉さんと目があった。
ピンクのドリルツインテにして童顔メイクをしているが間違いなく成人済みであろう彼女は、鎧と読んでいいのか分からないフリフリのドレスアーマーに身を包み、3人の取り巻き男性を連れている。
オタサーの姫ならぬオタPTの姫だろう。
「あっ!見てみて~。
この子かぁぃぃ~。
あいたん、こんな弟がほしぃなぁ~。
胸がキュンキュンするぅ~。
かくれんぼかなぁ~?」
「それがしもあいたんの笑顔で胸がキュンキュンでござるよ~!」
やばい!見つかった!
範囲内まであと1m。
このまま接近を許せば【お姉さんキラー】が刺さっておねしょたされてしまう。
ピンクロリの姫系冒険者は目を輝かせてこちらを見ていた。
魔眼ではないけれど、ギラギラと凝視するその視線は僕を震え上がらせるのに十分なマスカラとカラコンだ。
これはメイスを抜いても十分正当防衛になるはず。
「ねぇえ、ショタ君っ!
あいたんと遊ぼ~?」
「ま…まって!
近づかないで…!」
「怖がらなくても大丈夫だよぉ~。
あいたん優しいからぁ★」
姫系冒険者は顔は笑顔で接近するが、その目は僕を歓迎してない。
不気味なまでに見開くその目は僕を飲み込み喰らい尽くそうという意思を感じる。
これはまさしく敵意。
オタPTの姫は自分に批判的な者や敵意を見せる者、特に自分より可愛い者には拒絶心を現す。
可愛いものが溢れる中で姫系冒険者の生存競争はライオンと同じで熾烈。
群れのトップで居続ける為に可愛いライバルは蹴落とし食らうのだ。
そうなんかで読んだ!
つまりこの村でプリプリしてる姫系冒険者は驚異になりえる魅力極振りのプルプルお肌の僕を食べるつもりだ!
そしてゴミと一緒にぽいぽいするだろう。
「ち…近づかないで!」
「おい、こいつ武器抜いたぞ!」
「刃がないから武器じゃないもん!
それ以上近づいたらホントに殴るからね!」
メイスをブンブン振り回して牽制する。
それを見て眉をひそめるロリな姫系冒険者はあからさまに目の奥が怖い捕食者だ。
背後にライオンのオーラも見えてきた。
か弱いプリーストなんて絶対嘘、殴りプリだ。
メイスを見て眉が動いた姫系は同じ鈍器使いという事で更に敵意が上がった気がする。
か弱いショタは生き残るために敵意には敏感肌なのだ。
「僕から離れるのだ!
僕への接近は禁止されているんだから!!」
「なんだこのショタは…。
あいたん近寄らないほうがいいぞ!」
「だぁいじょうぶ、あいたんはちゃんとショタ君に挨拶しなきゃ…★」
拒絶せよ!ショタを拒絶するのだ!
祈祷のようにメイスを振り回すショタ。
しかしショタの筋肉は豆腐のようにぷるんぷるん。
1分もしないうちにスタミナが底をついて膝もつく。
ただ眺めているだけで僕に膝をつかせるとは中々やる姫系だ。
「ぜぇ…ぜぇ…。
か、簡単にはおねしょたされないんだから…。」
「い…いこうぜあいたん。
変なショタには関わらねーほうがいいって。
早く飯食おうぜ。」
「そうでござる。
あいたんのきゅーてぃーな鎧が万が一汚れでもしたら大変でござるよ!」
「……うん、そだね。
…じゃあ、またね。ショタ君★」
フリフリの姫系冒険者は取り巻きの男達の声で気を取り直して、表向き明るい笑顔で手を振りながら去っていった。
しかしその視線と言葉はアイススピアのように突き刺さって殺しに来ているようだった。
ギャルもショタキラーみたいだったけど、この姫系は違う系統でのガチのショタキラーだ。
変なのに目をつけられたなぁ。
「ふぅ~怖かった!
ごめんね、幼女ちゃん。
大丈夫だった?
かくれんぼじゃないけど僕は今は忙しいんだ。またね!」
「…う、うん、お兄ちゃんまたね。」
ショタだからお兄ちゃんと呼ばれるのは新鮮だ。
前世でもあまり呼ばれなかったから何気に珍体験。
壺を開けて親指をかみながらキョトンとする幼女に手を振り別れると新たな女子が来る前にささっと冒険者ギルドへ向かって歩く。