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7、メイスが一番!

「ベル様、手を離してはなりませんよ?」


「はーい。」




  安宿を出て、朝早く農園に出勤する農夫や農婦方を避けて裏路地を行き、早起きなスリや盗人を血の気の多いミミットがねじ伏せて、人波の途切れを狙って大通りを横切ると、蔦の天然アーケードの道を通って、川に面した村市場へ。


  朝という事もあって市場中から美味しそうな匂いが風に乗ってやってくる。

 川に面したこの村には川を登って貿易商が色々な物を持ってくるので料理も武防具も雑貨も内地の町より大分豊か。


  漂う匂いはどれも砂糖やスパイスの効いた匂いばかりで、近くの農地で取れた新鮮な野菜をふんだんに使った料理は田舎村とは思えないほどのご馳走となって屋台に並んでいる。


  その光景を見たシロネコはヨダレを流して走っていった。

 お金持ってるんだろうか?




「ベル様、本日の朝食はここにしましょう。

 店主は年配の男性、ウェイターも男性です。」


「ありがと、じゃあそこにしよ。

 ミミットの嗅覚は抜群だからきっとアタリのお店だね。」


「ふふ、ミミットの嗅覚はベル様特効なので他の匂いには利きませんよ?」





  蔦の繁った古い木造の建物。

 その木扉を開けてミミットと中へ入ると小洒落た店内の一番端の席へ。

 店内は客が殆んどおらずその代わりに観葉植物がたくさん飾られ、天井からも蔓葉が繁る店内には甘ったるい蜂蜜の匂いが充満していた。




「…なんか森の熊さんになった気分だね。

 リアル熊は鬼畜だったけど。」


「ふふ、熊に襲われた幼いミミットを助けてくれたベル様の勇姿を今でも鮮明に思い出します。

 もしベル様があの時のような熊になったらミミットを襲ってくれますか?」


「うーん、なんか質問がおかしい気がするけど熊なら無差別に襲うんじゃない?」


「じゃあベル様用の熊の着ぐるみパジャマを作らなくてはいけませんね。

 卑しいミミットを欲望のままに襲ってもらう為に。」




  ミミットとお喋りしてると注文していたモーニングセットを男性ウェイターが運んできてくれた。

 この店にお姉さん属性持ちはいないから安全だ。




「これがこの店のオススメ、ハニートーストと苺カボチャのムースソース添え、ですね。」


「匂いは凄く美味しそう…。

 いただきまーす。」




  はむっと食べたその一口は僕を楽園の地へ運んでくれた。

 パリパリのトーストはバターの旨味が染み込み、口いっぱいに広がる琥珀色の大地の甘味は豊穣の女神のよう。

 幸せはここにあったのか。

 こんな逸品に添えてある苺カボチャのムースソースを付けたらどうなるだろうか。


  それを見つめる窓に張り付く白いネコ。

 イモリのようにベッタリ張り付いていた。






『あぁぁ~…美味しいですぅ~。』


『よかったね。』


「ベル様、泥棒猫などは魚でもあげていればいいのです。

 美味しい物ばかりあげますと変な癖がついてしまいますよ?」


「一応森で助けてくれた恩人だからね。」




  お店はペット同伴不可だったので店を出て市場をのんびり歩いてる。

 そのお店のご厚意でテイクアウトにしてもらって。

 ハニートーストを頬張るシロネコは満足そうにがっつき食らっていた。




「それより今なら女性客がいないから店に入ろ。」


「はい。

 …いいですか?泥棒猫、ここで待つのです。

 入ってくれば昼食を抜きますよ?」


「にゃあ~。」




  この店はペット入店禁止だけどシロネコはトーストに夢中だから大丈夫。

 でもその内野良猫や珍妙な猫として駆除されてしまうかもしれないから連れ回せる方法を考えないといけないなぁ。





「…しゃっせー。」




  店の中では気だるげな男性店員がカウンターでナイフを研いでおり、客の男性冒険者が壁一面に掛けられた武器を見ていた。

 剣や槍や斧、弓や盾など多彩な武器が陳列してあり、隣の部屋には防具まである。


  ここはブルースワン村にある武装具店の1つ。

 川による交易で栄えるこの村の市場は町ほどの規模があり、複数武器屋が軒を構えてる。

 ここはその内の1つで1番端っこの店なので人が少ない。




「鈍器コーナーは…あった!

 売り場ちっさいね。」


「鈍器は使い手を選びますし打撃スキルの所持者も少ないらしいですから。

 もしかしたらベル様が打撃スキルを発現されたのは鈍器の神様に見初められたからかもしれませんよ?」


「うーん、そうだと良いね…。」




  実際は鈍器の神様ではなく、外でハニートーストを頬張ってるシロネコのせいだ。

 【お姉さんキラー】のスキルのせいで近接してはいけないのに、全体的に射程の短い武器とスキルでの戦いを余儀なくされている。




「…両手鈍器にしようかなぁ。

 僕はリーチないし。」


「【お姉さんキラー】の効果範囲は2mでしたね。

 そうなりますとベル様が持てる両手鎚のリーチでもスキル範囲内になりますからあまり大きくは変わらないかと。

 それにベル様はショタで筋力強化スキルもない華奢な身ですから両手鎚を振り回すのは大変ですよ?」


「ぐぬぬ…。」




  次シロネコからスキル貰うときは身体強化系をお願いしよう。

 鈍器ほど筋力がもろに影響する武器はないのだから。

 あと筋力が強ければ【お姉さんキラー】が刺さった相手に拘束されても逃げられるかもしれないし。




「ベル様にはこちらがいいかもしれません。

 フレイルタイプのモーニングスターです。」


「モーニングスターかぁ…。」




  鈍器武器を物色するミミットがオススメしてきたのはメイスの頭と柄が鎖で繋がれた武器。

 柄は50cmほどで鎖は30cmほど、星形鉄球を入れても1mには届かない。

 某映画の指輪の幽鬼が振り回してたメイスの一種で、青いメイドがぶん回してたのより鎖がかなり短い片手武器だ。




「これならベル様の非力な腕でも星形鉄球の遠心力でそれなりの威力が出せますよ?

 それにモーニングスターに慣れていない相手には優勢を取れるかもしれません。」


「そだねぇ…。

 でも至近距離戦だと弱くない?

 僕はやっぱり普通のメイスでいいよ。」

 



  やっぱり使い慣れてるものが1番だ。

 メイスは重心の位置もヘッド部分とはっきりしてるので後は柄の長さと握りの感覚くらい。

 実物を握って自分にしっくりくるものを探す。




「…これだ!」


「はい、ではミミットがお持ちします。

 次は盾を探しましょう。」




  上手に焼けました、と言わんばかりに天に掲げた安物メイスはミミットに取られ、盾コーナーに連れていかれる。


  大丸盾のホプロンや騎士盾カイトシールド、三日月型の盾ペルタなど色々あるけれど、ミミットが差し出した盾は小型の丸盾パルマ。


 この世界で広く流通してる金属製のラウンドシールドと違って丸盾パルマは盾芯以外は木製品。

 僕がすぐ壊すから修理しやすく修理費も安い物を選んでくれたんだろう。


  僕にも盾スキルや回避スキルがあれば盾が壊れる事も減るのに。

 これも今度シロネコにお願いしておこう。

 ワイロを渡せばきっと持ってきてくれるはずだ。




「…しゃっすたー。」




  めんどそうな店員から商品を受け取り武装具店を出てきた。

 ワンショルダーコルセットの剣帯には鞘に入ったメイス、丸盾パルマを背中に背負って御守りタリスマンを首からぶら下げている。


  防具を良く剥ぎ取られる僕は毎回鎧を買っていられないので防御効果のあるアクセサリーでやりくりする事にしたのだ。

 肌や着衣を硬くするストーンスキンの使い捨てスクロールもあるのでゴブリンくらいはどうにかなるだろう。

 



「意外と高くついたね。」


「ベル様が無駄遣いをするからですよ?」


「でもその髪飾り似合ってるよ?」




  店を出ると軒下で寝転ぶシロネコにお店で買った衣装を着せながら小花のバックカチューシャをつけたミミットとお喋りしてる。

 お澄ましミミットの艶やかな黒い後ろ髪に飾られた白い小花と銀のチェーンがよく映える。




「ミミットにはこのような高価なアクセサリーではなく、ベル様の口づけ1つで充分なのですが…。」


「そんな事言って満足するミミットじゃないでしょ?」


「そんな事はありませんよ。

 心がこもっていれば口づけだけでもミミットを満足させられます。

 ですがご奉仕はまた違います。

 …泥棒猫、早く起きなさい。

 ご主人様の手を煩わせるとは何様ですか。」





 猫は全裸で恥ずかしいとか言ってたのでローブを買ったのに、この駄天使猫は仰向けで大股開きで寝入ってしまってうんともすんとも動かない。

 羞恥心は一体どこにいったのか。

 アホ面シロネコを抱き抱えてえっちらほっちら冒険者ギルドへ向かった。

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