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4、よろしくね、シロネコ!

『はぁ…。

 スキル範囲の減少効果を持つ次のアイテムは見つかった?』


『はぁい!

 1番近くだとここナス平原を縄張りにしてるグリフィンのお腹の中と、隣のアルカセル男爵領の地下古代遺跡(地下ダンジョン)にあるそうです!』




  森の中で真っ白なお尻をおろした半裸の僕の目の前で、シロネコが二足の直立不動で自信満々に胸を張って答えてくれる。


  転生サービス職員天使のシロネコの勧めでスキルの範囲減少効果のオプションを持つ装備品を集めようという事になっていたのだ。

 皆からはデバフオプションとしてゴミ扱いされるけど、僕にとっては救世主オプション。

 喉から手が出るほど欲しているのだ。


  そしてこの族長ゴブリンから奪った骨と蔦の腕輪もその1つ。

 みすぼらしいけど僕の宝物だ。




『あの…えっと…すごく言いにくいんですけどぉ、その腕輪は範囲減少効果は極めて極少で体力減少効果の方が遥かに大きいです…。

 ベル様のHPは多分今真っ赤ですよ…?』


『え!?ゴミじゃん!』




  脳内回線で申し訳なさげなシロネコに言われて腕輪を投げ捨てた。


  ただでさえ低いショタの体力をもっと減らすとかなんて鬼畜な腕輪だ。

 ショタの筋力はゴブリンに組み敷かれるほど弱く、その体力はメイドにお尻ペンペンされるだけでガンガン減っていくのだ。

 そんな貧弱なショタの僕にとって、体力確保も重要課題の1つなのに。




『…す…すみませぇん~!

 詳しいアイテム効果は入手しない限りは職員にも分からないのでぇ…。』


『じゃあグリフィンの胃袋のもハズレかもしれないのか~。

 グリフィンとか倒すの大変そうだもんなぁ…。』




  グリフィンはナス平原の王者とまで言われる魔獣。

 僕のメイスじゃいくら振るっても倒せないし、メイドのミミットがいくら強くても大空を自由に飛ばれたら敵わない。

 それにどのグリフィンかもシロネコは分からないらしい。

 そもそも僕のランクじゃ依頼を受けられない。


 


『グ、グリフィンならきっと大丈夫ですよ!

 それに、まだ調査段階なんですけどぉ、ユニークスキル【お姉さんキラー】は精神攻撃の一種だと考えられますので精神攻撃力をダウンさせるデバフアイテムも効果的かもしれません。』


『おー、それでそれらはどこに?』


『…現在調査中です申し訳ありません!

 判明しだいサポートスタッフより連絡いたしますので、それまでは一番近いグリフィン討伐をしましょぉ!

 グリフィン討伐すればお金もガッポガッポですよぉ~!』




  シロネコがお金を夢見てクルクル踊ってる。

 天使もお金による給料形態のようだ。

 きっと良い給料貰って、チートな天界世界で快適に暮らしてるんだろうな。




『グリフィンに勝てるならね…。』


『だ、大丈夫ですっ!

 スキル発現と成長を停めてるベル様に、今回も特別に職員厳選のスキルをもってきました!

 今回は奮発してSSRなスキルもあるのでグリフィンもコテンパンに出来ちゃいますよぉ!』




  直立のシロネコが再び腰に手を当て胸を張り鼻息を吹く。

 大分自信があるようだ。

 もう甘い言葉にも泣き落としにも引っ掛からない、前回の前科もあるし期待しない、なんて思いつつも期待してしまうのが何か悔しい。




『ありがと!

 それでどんなスキルをくれるの?』


『はいっ!じゃーん!

 あたしが選んだ対グリフィン特別スキルセットです!』




  そういってシロネコは腕を広げると目を真っ赤に光らせて僕に力を送る。

 シロネコには天使の環が生まれ、羽根が大きく広がって後光を放つ。

 普段はダメ猫だけど、こういう姿は天使っぽい。


  そうして送られた力は僕の小さい体の中を駆け巡り、全身の細胞を燃やして脳を焼ききろうとしてくる。

 激しい頭痛と強い成長痛、そして脳に広がる鉄の味。

 体が塩酸プールに入って全身火傷をするような痛みだ。

 そんなプールに入った事ないから予想だけど。




『…はぁ…はぁ…。

 …うぅ…やっと終わった…。』


『だ、大丈夫ですかぁ…?

 でもスキルは無事に転送したのでこれから体内で馴染んで明日確認と使用ができるようになるはずです!

 あと、少しだけですけど戦士の経験値を入れましたのでこれでゴブリン程度ならバリバリ戦えるはずです~!』


『うん、ありがと!助かるよ。』




  頭も筋肉もまだズキズキ痛む。

 前回のスキル【腰砕き】を貰った時も痛かったけど、それより何倍も痛い。


  因みに【腰砕き】はこのポンコツシロネコが悩み抜いて選んだ迷品だ。

 もしおねしょたされたらこれで反撃しろ、らしい。




『いえいえ!

 元はと言えばあたしが撒いた種ですから!

 じゃぁ…あたしはこれから休暇に入りますので失礼しますねぇ。

 調査結果はで次第、この脳内回線でお知らせしますのでご安心下さい!

 …いやぁ~、上司に「もうお前に任せられる仕事はないから家で大人しく謹慎してろ」って言われてですねぇ。

 急にそんな長期休み貰ってもやることないし…積みゲーの消化でもしようかなぁ。』


『…え?』


『え?』




  転生サービス職員天使の言葉でシロネコと顔を見合わせて時が止まる。

 こいつ、僕を放置して遊び呆ける気か。

 けしからん。



  そんな時に急に後ろから腕を回されハグされた。

 頭には馴染みある柔い感触…この柔らかさはメイドのミミットだ。


  ミミットはゴブリンの血で染まった黒い鎧メイド着で血が滴る戦斧を片手に現れて、抱きしめるなり僕の白金の髪をはむはむしながら鼻腔いっぱいに僕の匂いを嗅いでいる。




「…はぁ~……美味しい。

 ベル様、探しましたよ。

 無事で何よりです。」


「ミミット!良かった!

 はぐれたかと思ったよ!」




  ぎゅっと抱き締められていつもの双丘に収まる僕の頭。

 血に濡れ汗をかいてもミミットは良い匂いだけど、僕は今カットソー以外真っ裸なのでちょっとまずい。

 ショタに最適化されて幼くなった僕の精神にはミミットの抱擁は刺激が強いのだ。


 でも会えて嬉しいのでやっぱり顔を埋めちゃう。

 精神もショタ化してるから仕方ないね。

 ショタに理性を求めてはいけない。




「会えてよかった!」


「ふふ、ミミットはどこにいても甘えん坊のベル様をお探しできますから。

 …はぁ~…ベルの良い匂い…。

 ですが…体から女狐の臭いがしますね。

 ……脱がされて何をされたんですか?」




  鼻の良いミミットは汗で張りつく黒髪を耳にかけて、いつものお澄まし顔の眉間を寄せると険しい表情で僕の体中の匂いをかぎだした。

 どことは言わないけどそこの匂いを丹念にチェックするのは止めてほしい。




「危うく襲われかけたけど逃げたよ。

 それより触るのも止めて…。

 恥ずかしい。」


「…1人にさせてごめんなさい、怖かったでしょう?

 後で一緒に湯浴びして臭いを落としながら襲われた恐怖を癒してさしあげますね。」


「…誰かに襲われるような気がするんだけど。」




  下心が透けて見えるミミットからメイドエプロンを腰に巻いてもらって一安心。

 ちょっと情けない姿だけど村の安宿に戻るまでの辛抱だ。




「ところでベル様、直立の二足歩行で離脱を試みる猫がいます。

 …怪しいですね。

 とりあえず処断しますか?」




  無駄に血の気の多いミミットは血濡れの戦斧を片手で素振りしてゴブリンの血を払うと、目が合いフリーズしているシロネコに向かって歩き出す。


  神式会社異世界転生サービス職員天使は現世に必要以上に深く干渉できないよう、比較的無害な動物の姿で地上へ現れる決まりらしい。

 シロネコの貧弱な戦闘能力はミミット前では皆無に等しく、鋭い目を受けて震え上がっていた。




「大丈夫だよ、ミミット。

 そのシロネコは僕のペットにしたんだ。

 これからずっと同行するからよろしくね。」




  それを聞いたシロネコは飛び上がって驚いたがミミットに見事にキャッチされた。




『…え!?

 聞いてないんですけど…?』


『…自分だけ自宅でのんびりバカンスなんて許さないぞ駄天使。

 せめてグリフィンとダンジョンのアイテム入手までは手伝ってもらうから!』


『えぇ…』




  ミミットに捕まれたシロネコはシュンとして耳が折れている。


  僕は【お姉さんキラー】によって仲間が少ない。

 そんな中で【お姉さんキラー】が刺さらないシロネコはとても重要な戦力になりえるのだ。

 仕事がなく遊ぶのなら解決するまで拘束だ。

 ちゃんとペットとして愛玩するから大丈夫。




「よろしくね、シロネコ!」


「にゃー…。」




  僕の挨拶に元気なくしなだれ返事するシロネコ。

 しかしミミットがなおも険しい表情でシロネコへ視線を突き刺す。




「…ベル様のペットになるなんてやらしい猫ですね。

 ミミットもまだペットに昇格していないというのに…

 どうやってベル様に組み入ったのです?」


「にゃ、にゃ~ん…。」


「…そうやってあざとくベル様にすり寄ったのですね。

 穢らわしい泥棒猫ですね。」


「にゃぁ…」




  怯えるシロネコはミミットから解放されるとすぐさま僕の影に隠れて助けを乞う。

 シロネコは想像以上に戦力にならないかもしれない。

 そう思いながらもミミットに手を引かれて村の安宿への道を歩いていった。

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