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14、ショタは走る

  ベルは走る。

 小さな体で一目散に駆け出して、樽を覗こうとするゴブリンの後頭部を抜いたメイスで思いっきり殴打する。


  ドスッと頭にめり込むメイスを引き抜いて丸盾パルマを振り回して後続のゴブリンを牽制すると、丸盾を構えてゴブリンに突進。


 丸盾にゴブリンの骨剣が当たる感触に続いてゴブリンの体にぶつかる感触。

 ゴブリンは突っ込んできた僕の丸盾をドッジボールのように捕まえたので思いっきり頭をメイスの柄で殴りつけてやった。




「ゴブリンめ!森へ帰れ!この!この!」


「ゲヘヘ…ニンゲン…マルゴロシィ…!」


「それを言うなら皆殺しだバカゴブリン!」




  何度も頭を殴打する。

 しかしこのゴブリン、硬い熊の頭蓋骨ヘルムを被っていてダメージを与えられない。

 密着してるからメイスも上手く振れないし、スキルも発動する為の予備動作が取れない。




「ゲヘヘ…アェ?

 オマエ、ネトリノショタダナ…ミツケタゾ…!

 ジョーオーサマァノ…カタキノカタワレェ…!」


「寝取ってないからその渾名(あだな)は止めろ!

 ついでにヘルムを脱げ!このバカゴブリンめ!」


 


  丸盾を押し合いながら、オレンジの炎の下で骨ヘルムを巡って攻防戦を繰り広げる。

 僕は引っ張り、ゴブリンは押さえる。

 ショタボディーの僕の背はゴブリンより少し高いけれど、筋力は僅かにゴブリンが上だった。




「ぐぬぬぬ…!さっさと脱げ!骨付きゴブリン!」


「グヘッ…ショタハ…オスモ…ヌガセテクル…!

 ヘンタイショタダ…!」


「うるさい!良いから脱げ!」


「ゲヘヘ…デモオィ…ニンゲンノジャクテン…シッテル!

 インランショタ…プレゼントダ…!

 ハアアァァァァ…!!!」


「うげええ…!くっせえええッ!!!」




  膠着した攻防をぶち壊すゴブリンの秘技。

 ゴブリンブレス!

 生まれて一度も口を洗わないゴブリン渾身の腐臭の息だ。

 スキルではないけれど、超至近距離から浴びた僕には効果は抜群!

 思わず顔を背けてしまった。

 その瞬間振りかざされる骨の剣。




「ゲヘヘ…シネ!ネトリノショ…ブへッ!?」




  そのゴブリンの頭へ窓から飛び出したシロネコが着地してヘルムがズレてゴブリンが慌てると、すかさずメイスで殴りつけて蹴り離す。

 ゴブリンは骨剣を落として、血が流れる緑の顔面を手で押さえてる。




「ゲヘヘ…オマエハ…オワリ…。

 オーガ…イッパイ…ツレテキタ…!

 カタキィノオンナ…コロシタラ…ツギオマエ…ゲヘヘ。」


「黙れゴブリン!」




  スキル【兜割り】で振り下ろしたメイスは赤い光跡をひいてゴブリンの骨ヘルムを砕き脳漿を散らした。

 潰した砕いたすりおろした、そういう感覚が手に伝わるのが鈍器の嫌なところだ。




「ありがと。

 天使は人間の争いには無干渉だったんじゃないの?」


『あたしはただ着地しただけですよぉ。』


「そっか。でもありがと。」




  着地して汚れを払うシロネコにお礼を言うと、木樽をノックして声をかける。



「…おーい、出ておいで。

 隠れんぼはもうおしまいだよ。

 教会まで逃げるよー。」


「…んゅ?」




  木樽から顔を出したのは幼女。

 この前ギルド酒場までついてきリィリちゃんだった。

 親指の爪を噛むリィリちゃんは首を傾げてキョトンとしてる。




「いーい?手を離さないでね。

 教会まで走るよ。」


「なんでぇ?」


「競争だから。」


「わぁった!」




  手を繋ぐと言ったのに競争と言った途端走り出すリィリちゃん。

 子供は競争という言葉に弱いのだ。

 キャッキャ言いながら走るのを必死に追いかけ、前方のゴブリン目掛けてシロネコをドッジボールのように投擲する。

 シロネコは見事にゴブリンの頭へ着地し、視野を奪われあたふたするゴブリンの胴に【腰砕き】を叩き込んで地に倒して再び走る。




『投げるなんてひどいです!』


「あとでいっぱいモフってあげるから。」


『そんなのでは騙されませんよ!

 後で…あぁ~っ!』




  再び投げられたシロネコはゴブリンの背に爪を立ててしがみつき、振り払おうとゴブゴブしてるゴブリンの頭に【兜割り】を落とすと教会が見えてきた。




『ひどいです!酷すぎます!

 賠償金を要求します!!』


「はいはい。僕が生きて帰れたらね。」




  教会前は教会に入れない人で溢れ、冒険者ギルド職員達の作ったバリケードがゴブリン達を阻んでる。

 そのゴブリンの背にメイスを叩き込んで、それに気付いた冒険者がリィリちゃんを抱き止めた。




「えへへ!りぃりの勝ちぃ~!」


「おい!幼女とショタがいるぞ!

 逃げ遅れか?」




  リィリちゃんはキャッキャはしゃぎながら抱き抱えられて教会の中に連れていかれた。

 これでひとまずは大丈夫。

 ここは守護してる冒険者の他にも自警団や衛兵もいて防御は高そうだ。

 その内の1人の冒険者がバリケードの中から手を伸ばしてきた。




「あのときの眼帯ショタ君ね。

 君もこっちに来なさい!」


「僕は冒険者だからいいよ。

 それより状況はどうなの?」


「北門と東門が破られたわ。

 敵主力は北門と考えられていたけれど東が主力だったらしいの。

 手薄な東門が突然現れたオーガの攻撃で崩壊したから防衛線を下げてるわ。

 でももうすぐ隣村の援軍が来るはずだから、ショタ君は何も気にしないで早くこっちへおいで。」




  柵や机椅子に壺や木樽などで築かれたバリケードを押し退けてやってくる大弓を持ったメガネポニテの女冒険者。

 オレンジの灯りで浮かび上がる煤にまみれた優しい微笑みは慈愛に満ちたお姉さんの顔だ。


  そのお姉さん冒険者の言葉を聞いて一目散に走り出す。

 東門はミミットが向かった門だ。




  オーガ。

 百科事典には平均3mの赤い巨体の鬼属と記されている。

 声帯は未成熟ながら言語を理解できる程度の頭脳を持ち、プライドが高く力主義によるヒエラルキーを構築。

 例え強者でも他種族に従属する事を極端に嫌い、戦いによる死を望む戦闘種族。

 


  そんなオーガでもミミットは討ち取れないだろう。

 でもオーガはミミットを倒せなくともその太い豪腕なら疲弊したミミットを連れ去る事は出来る。

 鉄壁だろうが無敵だろうが無抵抗なら殺す手段は多数あるのだ。




「あ!待ちなさい!ショタ君!

 そっちは危ないわ!

 …ベイト!」


「あぁ!おめえはここ守ってろ!

 俺が行く!」




  眉なし強面のモヒカンバーサーカーが編まれたヒゲを揺らしながら獅子頭の両手斧を片手に、ショタを追って走り出した。




『…シロネコ。

 スキル成長の制限解除をお願い。』


『えーっと…解除はできますけど、多分戦闘スキルは発現しないと思いますよ?

 あたしがあげたスキルもショタルートのスキルじゃないのでレベルは上がりませんし、【お姉さんキラー】とか【オートアンチエイジング】とかのレベルが上がるだけかと…。』


『それでも生き残れる確率が0.01でもあがるならお願い!』




  モヒカンベイトの手を逃れて木樽から屋根に登って屋根伝いに東へ走る。

 屋根上からならゴブリン達の妨害を受けずに真っ直ぐ向かえる。

 藁葺き屋根に足を取られて転がりながらも必死に走って隣の家に飛び移った。

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