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11、使ったら元の場所へ戻しましょう

「ん~いい天気!

 今日は先に冒険者ギルドの依頼からね。」


「はい、昨日は受付嬢がお姉さんでしたが今日は男性職員のはずです。」




  早朝、安宿を出て伸びをするとカラッと乾いた朝の清風を飲み込んで、身体のスイッチを入れていく。

 今日はこれからお仕事をしに冒険者ギルド出張所へ向かうところ。


  昨日は結局ミミットと冒険者ギルドで合流するも、受付が全員お姉さんだったのでゴブリン討伐戦の報酬が受け取れなかったのだ。

 あんなに苦労したというのに。 


 でも今日は大丈夫。

 ギルド職員のシフトを確認したから。

 お澄ましミミットの先導で、ウキウキ気分で冒険者ギルドへの道を行く。

 依頼を受ける時と報酬を貰うときが一番楽しみだ。





  夏が終わり秋へと向かうこの地は大陸の北側で、夏は20度くらいと過ごしやすく早朝ともなると農夫は皆長袖で出勤してる。

 農耕地では春植えた小麦が収穫されていて、出勤していく農夫達はこれからの極冬に備えて雪中野菜の雪玉キャベツや白雪人参などの植えつけ準備に入るのだろう。

 後ろ腰に備えた百科辞典の知識なので百科辞典以上の事は知らない。



  大通りを歩いて出勤する農夫達を見送って、レンガ作りの質屋の角を曲がって堅土の道を真っ直ぐ進めば冒険者ギルドの道に出る。


 早朝から教会に行く熱心な信者をやり過ごして、鐘塔がそびえた教会の2つ手前の門をくぐれば冒険者ギルド。

 煙突からはもう香ばしい匂いが漂っている。


  こうしてスムーズに村を進めるのもミミットが先導してくれるお陰だ。

 僕はミミットなしでは生きれない体になってしまった。




  注目を浴びないようそーっと扉を開ければギルドの中は閑散としており、依頼で朝帰りだったであろう疲れ顔のパーティーがテーブル席で肉に食らいつき、朝からエールを飲んでいる。


 もう一組のパーティーは軽食を取りながらボードゲームで遊んでた。

 チェスや将棋のようだけど、駒が騎士VS魔物になった2名VS2名の共闘型ボードゲームのようだ。

 残念ながら魔物チームが優勢だった。


  飲み潰れたオッサン冒険者の席を越えて奥の受付カウンターへ。

 早朝勤務は男性職員1人のようで忙しそうに書類に羽ペンを走らせていた。




「おはようございます、先日のゴブリン大討伐戦の報酬を受け取りに来ました。

 アイアンランクのベルベッド・ラインクライフです。

 こちらはパーティーメンバーのミミットです。」


「おはようございます。

 …確かに確認いたしました。

 ではお調べいたしますので少々お待ち下さい。」




  分厚いメガネの七三分けのインテリ職員は丁寧な口調と落ち着いた手で僕らが差し出した鉄のギルド証を確認すると、引き出しを開けてゴブリン大討伐戦の書類を探している。


  何でここに置いてねーんだよ、毎回ちゃんと所定の位置に直せっつってんだろ…そう小さく怒りを吐き出すインテリ系職員は椅子から立ち上がって別の引き出しを漁りだす。

 もう少し時間が掛かりそうなので、依頼板に張り出された依頼を物色してよう。




「どれどれ…ファラミーヌ討伐にミルメコレオン討伐…」


「そちらはゴールドランク以上のものですよ。

 ベル様のはこちらです。」



「…ワイルドボア狩りにゴブリンの残党狩り、草原リザード狩りにロックタートルかぁ。

 朝だから美味しい依頼はまだ貼られてないね。」




  依頼にはランク制限がある。

 僕のアイアンランクでは受けれる依頼は少なくて報酬額も低い。

 高ランクや報酬額が高いという事はそれだけ危険度も高いんだけれど、冒険者になった以上はやっぱり強い魔物をビシビシ倒すカッコいい冒険者に憧れるもんだ。


  シロネコがシューターとショタを間違えていなければきっと今頃はゴールドランクになって頭角を現し、ファラミーヌくらいはバンバン狩れてただろう。


  ファラミーヌは鱗の熊、ミルメコレオンは獅子の上半身と蟻の下半身を持つ魔物で酸の唾液を吐く。

 どっちもショタからすれば恐ろしい魔物だけど多分ミミットなら倒せるはず。

 もし勝てないとしてもミミットの防御力で負ける事はない。




「ベル様は鈍器ですからロックタートル狩りがいいかもしれません。

 素材も肉もあまり良いものではありませんが鈍重なのでベル様でも容易に戦えるかと。」


「えーヤダ!

 長期戦になって全身筋肉痛になるもん。

 前回で懲りたよ。

 ミミットが30分で倒すのを半日掛かって倒した時の僕の心境はもう…」



「すまんね、ボウズ。通してくれるか?」




  依頼板を眺め雑談する僕らの後ろを通るシルクハットにぽっちゃりスーツのおじさん。

 左胸には商業ギルドの金の証が輝いており、受付のカウンターに着くと引き出しを漁り続ける冒険者ギルドの職員に声を掛けた。




「レーン、依頼を出したい。

 急ぎだ。」


「すみません、只今別件対応中です。

 終わり次第お呼びしますので」




  インテリ系職員は探し物の書類が見つからずに少々イラついているようだけれど、丁寧な口調は変わらない。

 ただ七三ヘアーをかきむしったのか乱れていて、シャツに汗染みができている。


  僕の用件はまだまだ時間がかかりそうだなぁ。

 皆も何かを使ったらあるべき場所へちゃんと直さないと、この職員のように次の人が困ることになるので気を付けましょう。




「冒険者ギルド職員さん、そっちを先に優先していいよ。

 …まだ探し物見つからなそうだし。」


「…申し訳ありません。

 必ず書類は見つけますのでテーブルに腰かけてお待ち下さい。

 …商業ギルドの方、どうぞ。

 お待たせいたしました。」




  汗が滲むインテリ系職員さんは僕らに会釈をしたあと商業ギルドの依頼人を呼ぶ。

 その商業ギルドのぽっちゃりスーツ男は僕らに帽子を取って軽くお辞儀するとインテリ系職員に話し出した。




「…今朝来たブラウンエッグ商会の商隊が、血まみれのグリフィンが森から逃げて行った姿を目撃したようだ。

 これの調査を依頼したい。」




  おっ!グリフィンの依頼だ!

 なんと良いタイミング!

 範囲減少デバフのアイテムを飲み込んだ個体だと良いけど、もう少し盗み聞きしよう。




「グリフィンは回復すれば必ず復讐をしに来る習性がある。

 もし人間による負傷ならば人間が襲われる。

 魔物同士の負傷だとしても、森での勢力争いは商隊の使う街道の安全に影響を及ぼす。

 どちらにしても各商隊の安全を脅かすものだ。

 迅速な調査をお願いしたい。」


「かしこまりました。

 ではこちらの方に記入をお願いいたします。」




  そう伝えて羽ペンを渡したインテリ職員はファイルを取り出しパラパラとページをめくっていく。

 ここだけ見るとすごい仕事が出来そうな人に見えるけど、僕のイメージは髪を掻きむしりながら書類を探す人だ。

 強烈な第一印象は簡単には変えられない。

 前任者のせいで可哀想に…。




「…ざっと見たところ、グリフィン関連の依頼は現在届いておらず何も行われていませんね。

 依頼の報酬がない状態で冒険者が危険なグリフィンを攻撃する事はあまり考えられませんし、血だらけという事は自衛や素材目的でもないでしょう。

 森は賊の報告もなく、州主のカルヴィン閣下や村領主のウェーバー卿が騎士団を森へ派兵したという話も聞いてはおりません。」


「…となると魔物同士の縄張り争いか。」


「…その線が濃いかもしれません。

 とりあえずご記入戴いた依頼票をお預かりいたしますので、冒険者による調査報告が届き次第ご連絡いたします。

 連絡先はこちらでよろしいですか?」


「あぁ、問題ない。

 それと連絡はマメに寄越してくれ。

 交易で使う商路の安全を判断したい。

 それと…」




  シルクハットのぽっちゃりスーツの商業ギルド職員の依頼は、灰色グリフィンの敗走調査及びその討伐のようだ。


  護衛がいようが空から襲ってきて馬を鷲掴みに馬車ごと持ち去るグリフィンはかなりの脅威と痛手を商隊に与える。

 また負傷が人間の手によるものならば人間の住むこの村もグリフィンの復讐対象になりかねない。

 グリフィン狩りは確実討伐が原則で、逃がした場合は仕留めるまで追う事が依頼に明記されている。


  これは良いチャンスかも。

 討伐依頼はランク制限でムリだとしても、グリフィン調査の依頼ならアイアンの僕も受けられるはず。

 グリフィンに接近すればアイテムを飲み込んだ個体かどうかシロネコがきっと調べてくれるだろう。




 

「では依頼を受理いたしました。

 マイルズ様、調査結果の連絡をお待ち下さい。」




  出口へ向かうシルクハットの商業ギルド職員と軽く会釈をして、僕は頼れるミミットを連れて意気揚々と受付カウンターに向かった。

 

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