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緊急クエスト・Ⅳ 『カースドビースド』退治

「あ~……おめえたちも……食ってやるう」


 人語を喋る魔物がのっそりと動き出す。

 腹の奥底からわきあがる生理的嫌悪感。


 こいつは生かしておける魔物ではない。

 いまここで滅ぼさなくては、未曽有の大災害が起こってしまう。


「セレーネ、ヤツには絶対に触れるな」

「うん。でも、どうやってやっつけるの?」

「試して、分析する。それを何度でも繰り返す」


 人語を喋ろうが、魔物は魔物だ。生きているなら殺せる。

 俺は腰に下げたポーチから、手投げ弾を取り出す。炎の魔法を込めた小さな爆弾だ。

 距離を取り、投げる。

 狙うのは本体ではなく、足元だ。


 吐き出される粘液に捕まることなく、手投げ弾が地面に落ちる。

 炎が吹き上がり、草を伝って火が魔物を巻き込んだ。


 だが———


「あ~……うぼえあああああ!」


 気色の悪いえずきとともに粘液が吐き出され、炎は消された。


「ならば……!」


 次は氷の魔法を込めた冷える爆弾。着弾した箇所から冷気が立ち込めて魔物の足を止める代物だ。

 ダメだ、通じない。多少凍らせただけで、すぐに動き始める。


 冷えないのは体温が異常に高いことを意味する。


 ちっくしょーーーーーーーー! 高価な爆弾を消費してしまった。許せん、必ず滅ぼしてやる。


「ケイオス‼」

「セレーネ! 挟み撃ちだ!」


 左右に別れて、セレーネはブレスを。俺は再び手投げ弾を使用する。


「あ~……めんどくせ~ぞ」


 魔物は体全体から粘液を周囲に放射。

 俺たちは攻撃をやめて下がらざるを得なかった。


「近づけないとなると、打つ手がない」


 調査の依頼だから武器の類はあまり持ってきていない。

 いまになってそれが仇となる。


「こうなれば!」


 俺の切り札である影魔法を発動。生じた魔力を使い影へと干渉する。


「≪影ノ槍(シャドウスピアーズ)≫」


 伸びた影が槍となって魔物に襲いかかる。

 槍は刺さった。しかし、ぶ厚い肉に阻まれてダメージはない。


「こんの~……カスがあ~」


 怒らせただけだ。

 

「ますます手がない」


 セレーネのブレスは通じない。粘液によって相殺されてしまう。

 爆弾は尽きた。影魔法も効果は望めない。

 考えろ、ケイオス。分析をするんだ。


 発動するのはスキル≪眼力≫と≪眼識≫。精度を限界まで上げ、どこまでも視る。

 体表はぬめりによって守られ、肉は厚い。物理攻撃は通じないだろう。

 腕力は高く、そのぶん動作は緩慢。つけ入る隙があるとすればそこか。

 となればやはり距離をとっての属性攻撃。

 冷気は効かなかった。

 炎が届けばあるいは、とも思うが。

 炎、か。

 セレーネのブレスをなんとか決めることさえできれば———


「げっげっげ……おめえたちは黙って食われればいいんだあ……おらあニンゲンを滅ぼしてやる~ みんなおらあの餌になればいい~」


 悦に入った表情で話し始める巨人型魔物。

 

 俺はいったん考えるのをやめた。

 滅ぼしてやる、だと?


「……なぜ、人間を滅ぼす?」

「知らねえんだよお……おらあ生まれた時から……人間を喰い殺すって言われてんだあ……」


 聞き捨てならないな。

 ()()()()()()()()()()


「聞かせろ。いつ、誰に言われた? 貴様の後ろにいるのは誰だ?」

「ううるせええ……おらあはニンゲンを滅ぼすんだあ……そう決まってんだあ」


 これ以上は意思の疎通ができなさそうだ。

 いいさ、こいつから聞くことは、もうない。


「セレーネ、ブレスを」

「え? でもこいつには効かないよ?」

「説明している暇はない。こいつはいまもなお、竜人たちを蝕んでいる。時間がない」


 俺は考えた。そして、閃いたのだった。


 セレーネが炎の息を放つ。予想通り、粘液で相殺。

 さらに続けて放つブレス。

 スキル≪眼力≫で見るのは、魔物ではなく、()()()()()()()


「セレーネ、俺が合図したら炎の息を」


 真っすぐに彼女を見つめる。

 俺の意図を理解した———かどうかはわからないが、セレーネはうなずいた。


 魔物から距離を取り、再び挟み撃ちを狙う。

 手持ちの武器はない。

 だったら、作ればいいと考えた。


「今だ!」


 声で合図を送り、彼女は大きく息を吸いこむ。

 そして俺も、大きく息を吸いこんだ。


「≪炎の息(ボル・ドア・ルー)≫‼」


 わずかにタイミングをずらし、俺もまた叫ぶ。


「やってやれないことはない! ≪炎の息(ボル・ドア・ルー)≫‼」


 口前に集約した魔力が太い炎の線となって、放射。

 成功だ。

 俺は———ドラゴンのブレスをものまねした。


「ムオオオオオオオオオオオオ!」


 魔物は咆哮を上げて粘液を周囲にまき散らす。

 セレーネのブレスに気を取られていたヤツは、こちらのブレスへの対応が間に合わない。


「熱いんだあああああああああああ!」


 炎は届いた。

 魔物の表面を覆っていたぬめりが消えて、煙を出している。

 そこへさらに容赦なくセレーネのブレスが決まる。


 ぶ厚い肉が焼けただれ、腐った生ごみよりもひどい臭気を出す。

 俺は地を蹴った。

 剣を抜き、跳ぶ。


「終わりだ。貴様は地獄にもいかせない。ここで消滅するがいい」

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 剣を逆手に持ち、醜悪極まりない呪いの魔物へ切っ先を突き入れる。

 刃が脳天からあごまでを貫くと、黒い血が噴き出した。


「……あっ」


 魔物は一度だけ震え、巨体を地面に倒した。


「影魔法……≪影ノ槍(シャドウスピアーズ)≫‼」


 とどめの一撃は、ヤツの体を串刺しにする。

 終わった。

 呪いの魔物は薄汚い命を終えたのだ。


 天を見上げて息を吐く。

 かなり疲れた。というか今すぐ眠りたい。


「ケイオス!」

「やったな、セレーネ」


 彼女は信じられない物を見るような目で俺を見ている。


「どうしたんだ?」

「ケイオスって———」


 セレーネが言いかけた時、突然魔物が爆発した。

 大量の粘液がぶち撒かれて、俺たちに振りそそぐ。


「なんだと……くっ、最後の最後で……」


 最悪だ。臭いうえにべたべたする。なーんで爆発するんだよ。アホか。


「やだ! なにこれ気持ち悪い!」

「!?」


 俺はセレーネから目を逸らした。

 粘液を頭からかぶったせいで衣服が濡れ透けだ!


「ケイオス?」

「……」

「どうしたの?」

「あ、いや、うん、まずは泉に戻ろう。粘液を洗い落とさなければ」


 首をかしげるセレーネ。

 何も言わないでおこう。うかつなことを言ってブレスを喰らいたくはない。




 

 ファヴギルの泉まで戻り、交代で粘液を洗い流す。

 彼女は俺がいることなどお構いなしに服を脱ぎ捨てて水浴びを始めた。

 いやおかしいでしょ。

 どうなってんだこれ。


「あ」

「……」


 ようやく俺の存在に気づいたか。

 遅いだろう。


「ケイオスのスケベ! えっち! ヘンタイ!」

「顔をそらしたから見てはいない」

「嘘!」


 彼女は体の各所を隠して顔を赤らめている。

 嘘じゃないよ? しっかりとは見てないから。


「ちゃんとあっち向いてて!」

「もちろんだ。俺は紳士だからな」


 やれやれ、と後ろを向く。

 そうして俺たちは水浴びを終えてぬめりを落とし、帰還の準備を始める。


 魔物は討伐した。あとは里に戻り、呪いが解除されたかどうかを確認して依頼を完了とする。


「あの……ケイオス」

「うん?」


 さっぱりしたセレーネが俺を見つめてくる。

 そういえばなにか言いかけていたな。


「ケイオスってなんなの? 実は竜人?」

「いや、俺は人間だが」

「嘘。だってブレス使ってたし」

「分析してものまねをした。俺の天職は『分析士』で『ものまね士』だからな」

「分析とものまね……?」


 わからないのも無理はない。

 俺だってびっくりだ。

 

 ただ、ドラゴンブレスの仕組み自体はそう難しいものではない。

 魔力を凝縮し、特定の言語にてアクセス。力を解き放つ。


「よくわかんない……ケイオスってやっぱり竜人でしょ?」


 違うな。

 だが、そう聞かれれば、このように答えるしかない。


 俺はケイオス。


 魔物ハンターであると———

 おまけ・人物紹介


 なまえ  ケイオス

 ねんれい 十八

 せいべつ 男

 ジョブ  分析士 ものまね士

 スキル  眼力≪レベル9≫/眼識≪レベル8≫/瞬間模倣術/影魔法/ドラゴンブレス←NEW

 ランク  パーティーランクなし 個人ランク 三級(仮)

 しょぞく アイツフェルン・冒険者

 かぞく  なし

 こいびと なし

 ちょきん ちょっと

 みため  黒髪・黒瞳



 という感じです。


 死線を超えて、ケイオスはまた一つ強くなったわけですが、今回はドラゴンブレスを習得しました。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 よろしければ感想、コメントお待ちしております。

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