どうやらとんでもない悪役令嬢になってしまいました
初投稿です。自由に書いていく予定です。誤字脱字、ガバガバ文法は許してください。
今、私は生きている。間違いなく私は死んだはずなのだが…
死んだという事は自覚している。
しかしながら何故死んだのか、そして今は生きている理由はわからない。
視界に広がるのは西洋風の庭園。
どうやら私は二階の部屋の窓から外を見渡しているようだ。目の届く範囲には人は居ない。
私は振り向いた。
体を180度回転させる、つまりはそれだけのことなのだが、私は気がついてしまった。
一つ目の発見は体格が生前(?)とは違うということ、
二つ目の発見はこの体が女性の肉体であること、
最後に腰にあるべき重さが感じられないという事だ。
これらのことから考えるに私の生前は男、体格はこの少女(?)よりは大きく、腰に何かをつける習慣があったということだろう。
明らかに記憶の欠落があるらしい事は分かってきた。
記憶がなくても違和感は残る。
ここから推測すればある程度は自分が何者かわかるかもしれない。
振り向くと、当然だが部屋があった。ベットがあるという事は寝室なのだろう。しかも天蓋付きだ。外の庭に相応しい豪華な部屋で見るからに高級だとわかる調度品が置かれている。
部屋の真ん中にはまたまた高級そうな丸い机と椅子があり、机の上にはベルが置いてある。なんとなくだがここは私の部屋なのではないだろうか。
どうやらこちらの世界の私はかなり裕福なようだ。このベルを鳴らせば下手すると執事もやってくるかもしれない。状況を把握するためには他人とコミュニケーションを取るのが一番早い。私はベルを鳴らした。
「お嬢様、お呼びでしょうか。」
ベルを鳴らして5秒。気配は感知できたが音はしない。足音も立てずに私の部屋に入ってきたのは銀髪の少年だった。まだあどけなさは残るもののなかなか良い顔立ちをしているようだ。
執事らしく燕尾服を着ている…まてよ?私はこの少年を知っているような気がしてきた。そうだ、妹のゲームとやらの画面に移っていたぞ、この少年は。
あと私には妹がいたようだ。
「私は君に3つほど聞きたいことがある。一つ目は私が誰なのかということ、二つ目は君の名前だ。最後にここはどこなのかが聞きたい。」
執事は口を開いて話しだした。真顔を保つ様に努力しているのは分かるが困惑を隠しきれていない。
「お嬢様。一つ質問よろしいでしょうか?」
「良い。なんだ?」
「今日どこかで頭を強打したりしませんでしたか?普段のお嬢様と随分様子が違いましたので…」
これは自分の情報を聞き出せそうだな。少年の立ち方、手の動きや目線を見るになかなか身体能力は高そうだ。それも素の状態ではなく武術家の動きに近い。しかし精神面にかなり不安があるな。実際戦闘になった時にこのタイプは実力を万全に発揮出来ない可能性がある。
「なるほど、では普段の私はどの様な人間なのか?今は何を言われても怒らないからありのままを伝えてくれればいい。」
少年は目を見開いている。もはや困惑を隠せなくなったようだ。
「本当によろしいのですか?真実はお嬢様の精神的衛生に良くないと思うのですが…」
「構わないといっているだろう?隠すことなく全てを話せ。命令だ。隠し事をするなら怒るぞ」
少年は困惑を通り越して恐怖しているようだ。そこまで恐ろしい人物だったのか私は。やがて観念したように少年は話し始めた。
「ふ、普段のお嬢様は一人称はわたくし、語尾にはお嬢様言葉を使っております。高い自尊心を持っており、お嬢様の趣味は身分の低い人間をいじめることでご自身のの自尊心を満たすことです。」
「ほう…なかなか愉快な人間であったようだな私は。だが安心しろ。どういうわけか私は昨日までの記憶を全て忘れているのだ。君の言う通り頭でも打ったのだろう…だから君に罰が下る事はない。今までの私と今目の前にいる私は別人だと思ってくれ。」
「畏まりました。お嬢様。」
「まぁそんなことはどうだっていい。早く質問に答えてくれないだろうか?」
「お嬢様の名前はエルローザ・グレスティン、このカルミア王国三代公爵家の一つであるグレスティン公爵家の長女でございます。お嬢様のご家族はお嬢様のお父様である現当主エルランド・グレスティン公爵様とお嬢様のお母様であるグロリア・グレスティン様の二人です。兄弟や姉妹などはいません。」
公爵家。どうやら私はかなり高貴な血筋を引くようだった。それに「エルローザ・グレスティン」という名前には聞き覚えがある。かつて妹は「このエルローザって女ほんとクソみたいな性格してるんだけど、ルックスが良すぎて憎めないんだよね〜」みたいなことを言っていた気がする。
「なるほど。続けて。」
「ここはグレスティン家の別邸で、お嬢様の為に作られた館です。ここに住んでいるのは使用人を除けばお嬢様一人です。場所はグレスティン家の本邸から南に馬車で2日ほどの位置にあります。」
流石は公爵家…まさかこの巨大な家がまるごと私の家であるなんてのは予想外だった。公爵家ともなると少女に家を買うなんてことは当たり前のことなのだろうか?
「それで、君の名前は?」
「アイシャと申します。お嬢様の執事長を勤めております。あと、お嬢様は使用人の名前など覚える必要はございません。どのような呼び方でも呼んでいただいても構いません。」
アイシャは使用人達を纏める立場にあるようだった。見るからに中学生にしか見えない彼はかなりすごい人の様だ…でもアイシャ?
「アイシャ?それって女の子の名前じゃないか?誰が名付けたんだ?」
「お嬢様です。孤児であった私を拾っていただいた時に命名されました。お嬢様曰く、『少女の様に可愛い顔をしている貴方には男の名前は似合わないわ。貴方は今日からアイシャよ。古い男の名は二度と口にしてはダメよ。よく覚えておきなさい。わかるわね?』と仰っておりました。」
前任者はかなり拗らせている様だった…男の子に女の子の名前をつけて呼ぶのは使用人が不憫でならない。しかし自分自身で言ったことを取り消すのは不自然だろう…まぁとにかく最低限の必要な知識は揃った。ここからは後任者としての役割を果たすべきだ。
「ありがとう、アイシャ。あとお願いなのだけれど、わたくしが記憶を失ったことは誰にも言っちゃだめねよ。たとえお父様であってもね。守れない様なら…わかるわね?」
独特のイントネーションである前任者の『わかるわね』にはどのような意味が込められているのか?とりあえず私は使ってみた。
「う、承りました。誰にも口外しない事をこのアイシャ、命にかけて誓いましょう。」
アイシャの顔は真っ青になり、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうだ。彼にとってお嬢様の『わかるわね』という言葉は首にナイフを突き立てられるのと同義なのかもしれない。なんて恐ろしいんだ。エルローザお嬢様…
「ねぇアイシャ?わたくしの『約束』を守れずに死んだ使用人は何人いたかしら?教えていただけない?可愛いわたくしの執事のアイシャちゃん?」
アイシャはもう限界のようだった。彼には自分は、エルローザお嬢様は恐怖の魔王にでも見えてるのだろうか?だとしたらそのイメージは早急に払拭しなければならないだろうなぁ…
「エ、エルローザお、お嬢様の『約束』を違えて今月処刑された使用人は…、馬丁が18人、メイドが56人、執事が21人、コックが10人、衛兵が6人、家庭教師が1人の104人です。」
前言撤回。ここからイメージをよくするのは無理だ。エルローザお嬢様ヤバイ、マジヤバイ…エルローザお嬢様は何処かの国の独裁者か何かだったんですかね…
どうやら私はとんでもない悪役令嬢になってしまったようだった…