3話「幼女と決意」
「お、お嫁さん? ちょっとそれはどういうことかないっくん」
「お、おいあかり。 変な誤解はやめてくれ。 それとその携帯をしまえ! 110番するつもりだろ!」
「だっていっくんが小さい子と結婚するなんて言いだすんだもん! 道を踏み外してたら正すのも幼馴染の役目!」
と、まあこのように俺の幼馴染である矢野あかりはアホなところがある。
普通幼女が「私は〇〇のお嫁さん!」とか「将来の夢は〇〇のお嫁さん!」とかその年によくありがちな微笑ましいセリフをこうして真に受けてしまう。
まったくもって馬鹿だ。
「あかり、俺は一言も結婚するなんて言ってないからな。 千代が勝手に言ってるだけだ」
「ひどい! 私にあんなことしといて!」
おい、千代。 話をややこしくするんじゃねえ。 あかりはバカなんだよ。 そんなこと言ったらなあ……
「い、いっくん……前からその毛があると思ってたけど……やっぱりロリコンなんだね!」
ほらな!
「おい俺の何処にロリコンの要素があるんだよ」
「いっくんの歴代の彼女……みんな背小さかったし胸だってぺったんこだぅた」
「……お前それは偏見だろ」
「……樹貴は私の身体が目当てなの?」
「いっくん……」
「……もう勘弁してくれよ」
︎*
「なるほど、そんなことがあったんだね」
「……やっとわかってくれたか」
一旦千代とあかりを黙らせて俺はここ二日間の出来事、主に俺と千代が出会ったきっかけを話した。
つまり俺は無理やり幼女を家に連れ込んでいるわけではないこと、どちらかというと渋々同居しているのだということを説明した。
「でもなんか違和感あるよね。 逆の立場ならともかく、いっくんが養う側なんてさ。 今まではヒモだったし」
「養うとは言っていない。 それに俺はヒモでは……それは否定できない」
今まで俺は付き合ってきた女の子に甘えっぱなしだったからなあ。
金銭的にも精神的にも。
まあ主に金銭的になんだけど。
「で、どうするのいっくん。 働いてない今のいっくんにはあの子を養えないよ」
真面目な顔つきで話すあかり。
そりゃそうだろう。 仕事を辞めた今、俺は収入源というものが何もない。
つまりは生活することが困難ということだ。
「お金なら大丈夫」
さっきまで沈黙していた千代が口を開いた。
「大丈夫って?」
「私が身体を売ればいい」
思ってもいないような言葉が聞こえて思わずむせてしまう。
いや、なんとなく千代なら言いそうな気もしていたけど。
「ち、千代ちゃん? 身体を売るってどういうことなのかわかってるの?」
「うん、エッチなことでしょ」
「……いっくん。 千代ちゃんにこんなことを言わせといていいの?」
一方的で理不尽で理由もあるのかないのかよくわからないまま俺にプロポーズしてきた幼女。
そんな幼女を済し崩しとはいえ受け入れたのだ。
相応の責任というものはあるだろう。
そんな幼女が俺が働かないがばっかりに自らの身体を売るなんて言い出したんだ。
需要があるとはあまり思え……いや、そんなことはどうでもいい。
ここで止めなきゃ人の道に反する。
それにこいつといるのも悪くない。
「……バイトからでいいか?」
「うーん、どうでしょう千代ちゃん」
「仕方あるまい。 許してしんぜよう」
そう言ってやけに嬉しそうに千代は笑った。