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プロローグ

「俺さ、大人ってもっと楽しいものだと思ってた」

「何だよいきなり」

「でもさ、なってみたら全然そんなことなくてさ。 毎朝満員電車の揺られてさ、会いたくもない人たちに会いに行って好きでもない仕事をしてさ。 ずっとこの生活が続くと思うと……思うとこがあるよな。 とどのつまり俺はさ」

「鳩になりたい」

「何言ってんだよお前」

「いや、だって鳩って自由そうじゃん? 公園でおじいちゃんとかにエサもらって生きてるわけだろ。 人生楽そうだなあって」

「はあ……何バカなこと言ってんだよ。 そんなことよりお前どうすんだよ会社やめちゃって」

「あはは、何とかなるって」


 そう。 俺、千賀樹貴は大学を卒業してから入社した会社をたったの半年でやめてしまったのだ。

 理由は特にはない。

 強いていうならばモラトリアムの延長だ。

 ……そういうとなんか聞こえがいいのかもしれないがただの甘えだ。

 正直に言おう。 

 とにかく俺は働きたくなかったのだ。


「いくら今が売り手市場だからってなあ。 今のご時世、一年も働いてなきゃ再就職なんて難しいぞ」

「いいんもーん。 俺、ヒモになるからいいんだもーん。 目指せ専業主夫」

「お前なあ……そんな甘い考え方できるの今のうちだからな。 それよりお前金はあるわけ?」

「大丈夫だ。 大学の時から貯めてた貯金があるし一年は何とかなるだろ。 しばらくニートしてお金少なくなったらバイトでもするつもりだ」

「はあ……お前のこれからが心配だよ俺は」


 三雄はそう言うと席から立ち上がった。


「どうしたんだよ三雄」

「どうしたんどよってもう帰るんだよ。 明日は月曜日。 普通の社会人は仕事に行かなくてはならないのだよ」

「えー、まだ22時じゃん。 せめて終電まで付き合えよ」

「やだね。 明日は会議があるからいつもより早めに出勤しなきゃいけねえんだよ」

「こうして三雄は社畜になっていくのであった」

「うるせえニート」


 三雄は俺の肩をポンと叩く。


「じゃあまたな。 あんまりお金、使いすぎないようにしろよ」

「へーい」


 三雄はそう言うと本当に帰って行った。

 さて、と。 どうすっかな。 俺もそろそろ帰ろうか。

 うーん、でも明日は何もないし。 ていうか明後日もその次も何もない。

 そう、俺は自由だ。 何でもできるんだ。

 ……財布と相談しないとだけど。



 ……結局、まっすぐ家に帰ってきてしまった。

 1LDKの安いボロアパート。 半年前入居した時は今よりかは幾分かの希望を抱いていたはずなのにな。

 どうしてこうなった。

 ベッドにうつぶせになりながらそんなことを考える。

 やめてしまったのだから考えても仕方ないのだけれど。

 朝、目を覚ますとそこは異世界で……なんてことは当然なく俺はごく普通に目を覚ました。

 そして会社を辞めた昨日のことを思い出す。

 そっか、俺会社やめたんだ。

 壁に掛けてある時計を見ると朝の六時を指していた。

 いつもの習慣で六時起きたけどそういえばもうこんなに早く起きる必要はないんだよな。

 二度寝……するか。

 気付けば俺は再び眠りについていた。


 ︎*


 チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。

 ああ、朝か。 ってさっきも朝だった気がするけど。

 もしかして二度寝で丸一日寝てたりしてな。

 まあそんなわけないか。

 さて、そろそろ起きるか。

 そう思い目を開くとある違和感を感じた。

 違和感、というか何故か目の前に小学生低学年くらいの女の子、つまり幼女がいるのだ。

 それもまあ俺を頑なに見つめている。

 その眼差しは年相応のあどけないものではあるがどこか大人びたものを感じる。

 クリッとした大きな目、きっと世の女性はこんな顔立ちに憧れるのだろうと思わせるほどの形の整った鼻と口。

 つまり、えらい美少女がそこにいた。

 しかしまあ、相手が幼女だというのにこんなにも可愛いとドキッとしてしまうものなのだな。

 俺は断じてロリコンとかそういう類の人間ではないのだけれど。

 ……しかしまあ、どうしたことか。

 さっきからずっと俺を凝視してくる謎の幼女。

 一体どこから入ってきたんだとか何故ここにいるのかとか多々疑問はあるがとりあえず、だ。


「……なんか食うか?」


 グーッとさっきから腹の虫が鳴る音が聞こえていた。

 勿論、その音の主は俺じゃなくて幼女のものだ。

 俺が問うと幼女は小さくこくりと頷いた。


 ︎*


 幼女の食べっぷりは凄まじいものだった。

 まるで何日も食事にありついていないかのような食べっぷりであっという間に俺が作ったナポリタンを完食してしまったのだ。

 腹が減っては戦もできぬとはよく言ったものだ。

 今、ナポリタンを完食したあとの幼女にはさっきまでの無表情からは考えられないほどの笑顔が宿っている。


「美味かったか?」


 俺が尋ねると幼女は体をビクッとさせ我に返ったのか笑顔が消え恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 それでも美味かったようでゆっくり頷く。


「そうか、そりゃよかった」


 どうやら腹も満たしたようだしそろそろ良い頃合いだろう。

 本題に入るか。


「迷子か何かか?」

「…………そうだけど違う」

「なんだそりゃ」


 思わず笑ってしまう。

 そういえば幼女は初めて俺に対して口を開いてくれた。

 幼女らしい年相応の可愛らしい高い声だ。


「じゃあなんだってんだ?」


 俺が再び問うと幼女は俯いてしまった。

 そしてまた顔を上げか細い声でこう言った。


「……私と結婚して欲しいの」


 意味がわからなかった。

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