社会人と言う名の戦士
アイアム・ウォーリアー。
『月曜日』
腹立たしい目覚まし時計にチョップをかまし、私は自分が今まさに地獄にいる事を実感しながら目を覚ます。
時刻は五時半。ノロノロとゾンビのごとくベッドから這い出し、酔っぱらいのような覚束ない足取りでバスルームへ。
軽いシャワーで寝汗を流したら、下着をつけてYシャツだけ着る。青少年が見たら劣情を催しそうな格好だが、生憎私は独り暮らし。ついでに彼氏もいない。……言ってて悲しくなって来たのは内緒だ。
適当な格好のままリビングに戻り、サプリとグラノーラを胃に入れる。朝食は五分で素早くが、私のモットーである。
うっすらと化粧して、髪の毛をセットして。スーツを着込む。
姿見を見れば、さっきまでの淫らな格好をした女は影も形もなく。パッと見は、出来る女がそこに立っていた。
余談だが、私が同性からよく言われる言葉ベスト3は見かけ倒し。意外と抜けてる。乳袋。
酷いと思う。特に最後。さんざん罵倒した挙げ句それだと、私がそこしか取り柄がないみたいではないか。てか、取り柄ですらない。寧ろコンプレックスだ。脱ぐと実は形汚いし。
「死ねよポンコツ」
鏡の自分を罵倒して、私は家を出る。
今日も職場という戦場で、仕事という名の戦争をするのだ。
休みの余韻は抜けきれていない。だが、体力は残っているので仕事は出来る。
時折私の身体にボディタッチしてくるアホ……もとい同僚に肘鉄をかまし、今日という日を乗り切った。
ミスがなければ上々。ミスしたら……。怒られて、平謝り。要領が悪いのは昔からなのだ。
※
多少の残業の後、部屋に帰宅。ご飯を適当に済ませたら、後は趣味の時間。
漫画やゲームをするもよし適当に動画を見て、笑い転げるもよし。後は……。
今日はどうかな。と思い、テレビやらパソコンの音を切る。静寂に包まれた部屋の中で、そのまま壁がわに寄りかかってみる。
「おお、今日もか。お盛んなこって」
気を付けなければ耳に入らないそれ。隣から微かに響く、ベッドが軋む音と艶かしい女の喘ぎ声。
私の隣はカップルが同棲している。
しかも大学生。どういう事だってばよ。と、言いたくなる。どちらかの部屋に入り浸るとかではなく、本当に一緒に住んでいるのだ。何それ何てエロゲー。
で、男女が一つ屋根の下。となればもう必然に……ズッコンバッコンである。
ただ、ここ一年お隣さんだけど、週平均四~五回はさすがにどうかと思う。少なくても三回。
一晩で何ラウンドしてるのかまでは数えなかったけど、たまに朝や休日の真っ昼間から営んでる時もある。
どんだけ仲がいいんだと言いたい。別に羨ましくなんかない。ないったらない。
しかも彼氏も彼女も普通に整った容姿をしているときたら、もう世の中の不公平を嘆きたくなる。
私は男ならおじさまが趣味だから、彼氏さんに揺らめきはしないけど、彼女さんがヤバかった。
実はレズっけもある私からしたら、極上過ぎて鼻血が出る。
髪はサラサラのストレートロング。お尻は小さめだけど柔らかそうだし、おっぱいは……限りなくDに近いCと見た。美乳に違いない。腰も引き締まっている。極めつけは脚だ。何かスポーツでもやっているのか、絶妙な脚線美。ぶっちゃけ滅茶苦茶エロイ脚だ。あんな可愛い子とほぼ毎晩あ~んなことや、こ~んな事しているであろう彼氏に殺意が沸く。お前ちょっとそこ変われ。
ギリギリと、無意識に歯軋りする。
結局、ゲームを再開したら、寝るのが遅くなってしまった。
深夜二時半。月曜で良かった。休日に休んだ蓄えがあるから、まだまだ戦える。
一応ベットに入る前に、再び部屋中の音を消してみた。耳を済ませば、ほらほら聞こえる。ギシギシという軋むような音と一緒に……。
「……っ、ぁ……、も……ダメ……。ダメぇ……!」
こんなに嬉しそうなダメがこの世にあるだろうか。いや、ない。……明日私は仕事だっていうのに。楽しそうだなぁお前ら。
※
アイアム・ソルジャー。
『火曜日』
上司は今日も糞でした。
お茶汲みの女の子の脚を舐めるように視る、視る。
私の乳をまるで弾力でも確かめるかの如くつつく、つつく。
営業の美男子の尻をそれはそれは愛しげに撫でる。撫でる。
……あれ? 最後おかしくない?
社会人になれば、何気ない発見が多くなる。
職場の人間関係の裏表。
自身の行く末に光が見えるか。
上司がズラだという事実。
残業を効率よく潰すノウハウ。
舐められない為の心意気。
上司がズラだという事実。
意外と自分がタフだと気づく。
私の年収。
上司がズラだという事実。
休日までの残り労働時間の瞬間計算法。
痴漢や逆ナンに効く撃退のしかた。
上司はハゲ。
他色々だ。今日も新たな発見をしてしまった自分が恐ろしい。
「オラ、新井ィ! とっととプレゼン出せやぁ!」
そんな細やかな幸せをぶち壊すが如く、上司の怒号が響く。黙れや変態。という言葉を飲み込み、「申し訳ありません、ただいま!」と、へこへこしながら私は上司のパソコンへデータを送って……あ。
間違えて私の癒し(ライブ映像)送っちゃった。
「新ァ井ィイチァアァン!? 仕事中なのに何でこんなものが出てくるのかなぁん?」
フヒヒッ、サーセン。たまに見て癒されるんです。
まだまだ身体は動かせる。生きるために明日も頑張ろう。適度に。
※
帰り道で、ファミレスに寄る。親子連れ、学生、会社員、お爺ちゃん、お婆ちゃん。実に多種多様な人間を眺めながら、私は食事が終わった後にブラッドオレンジジュースを飲む。趣味の一つに人間観察がある私。今日のターゲットは、少し離れた席にいる、スーツ姿の男女だ。
若い女の方が、中年……位の男に「警部、今夜空いてます?」何てモーションをかけている。どうやら二人は税金泥棒……ゲフンゲフン! 刑事さんらしい。
「間に合ってんだよ。バァカ」と、男は答えた。うわー。勿体ね。女の方、流し目が色っぽいのに。
「なんで私には春がこない?」
思わずそんな独り言が出てきた。
主にこの可愛くない性格と、倒錯した趣味のせいですね。わかります。因みに過去最速は一週間破局だ。原因? おっぱい触られて、たまたま機嫌悪くて張り倒したから。あの程度で根を上げるなんて軟弱だと思う。
※
アイアム・リベンジャー
『水曜日』
そろそろ休日が恋しくなり、仕事が嫌になってくる。
この辺からは仕事に奇行を挟むことによって乗り切るようにしている。
取り敢えず私の肩を揉むフリをして、然り気無くブラ紐なんてマニアックな部分をなぞる痴漢……。もといバカ。とも言えるハゲ。的な上司のお茶に唾を投下しておく。ザマァ。
だが、問題は渡してから気づいた。
あれ? これ御褒美じゃね?
仕方がないので、上司がお気に入りな営業の美男子のに投擲した。間接的な復讐兼嫌がらせだ。
だんだん思考が回らなくなる。仕事疲れた。ストレスがヤヴァイ。早く休み。休みをプリーズ。
※
帰り際に道行く学生達を見た。
高校の頃楽しかったなぁ……。と、回想に浸れたらいいけれど、生憎そんな楽しい思い出はない。当時の学友の名前をフルネームで言え。と言われてもすぐに出てこないレベル。それくらいにつまらん日々だった。
なら中学校は? 正直覚えていない。楽しい。と、思うようにしていたとだけ記録している。回りが夢中になってる事。共通の話題。それがない奴はつまらんやつ。そんな感じ。ハハッ、羊の群れ乙。
じゃあ大学は? 当時は楽しかった。けど、もっとやり方があっただろうにと思う。
あれ? 私、今まで生きてて、輝いていた日がないぞ?
呆然とその場に立つ。ふと、電柱の影に女を見た。長い長い髪が、目元を隠す。が、よくよく見ればそこは、青い光が見えた。
ゾクリとするような眼光。それが行く先は……。一人の男子学生。ああ、なるほど、そういう事ね。
「輝いてるなぁ」
歪んでいるけど、今はただ、羨ましかった。
※
アイアム・バーサーカー
『木曜日』
疲労で心どころか、思考がピョンピョンしはじめた。
ついでに嫌がらせ現場を営業クンに見られた。
見られたんだけど……。君、なぜそこで顔を赤くする。そっちの気? ドM?
あまりにも反応が可愛いから、ついつい虐めてしまう。美男子よりは、おじさまがいいんだけどなぁ。これは新しい境地が開拓できそう。……ちょっとつまみ食いしようかな。
取り敢えず、残りの仕事は狂いそうになる思考を制御……するのは止めた。
以降私は、仕事をする機械と化した。
※
仕事終わり。電車で帰るのだるい。と、思ってたら営業君が車で送ってくれる事に。
着いた先はまさかのラブホだった。Mだと思ったら肉食だったらしい。……いや、私が昼間目覚めさせちゃったというべきか。
疲れてるからなすがまま。濡れてる=感じてると思う勘違い系だったらしい。気分も勿論あるから完全に外れではないけど、あれ自己防衛もあるからね。だから人一倍自分が可愛い子は凄い場合とアイアンメイデンな場合がある。私は前者らしい。
だから淫乱と解釈されるのは実に遺憾である。
なので仕返しに寝顔と営業君のあらぬ姿だけ写メってから脱出してやった。財布からタクシー代をチョロまかすのも忘れない。一万円札と引き換えに入れたレシートにマジックで「サービス券」と書いておこう。ナニをサービスしたかなんて言わずもがなだ。
タクシーを求めて駅まで歩いてる最中、閑散とした公園を通りがかった時、不思議な二人組を見た。
片方は幽霊みたいな青年だ。街灯の薄ぼんやりとした光の下でも、彼が纏う陰鬱な雰囲気が感じられるのだから相当なものだろう。その傍らには、黒いセーラー服の……S級な女の子。なにあれしゅごい。顔や身体の造形が、同じ人間とは思えない程に美しい。そんなヤバイ子が、幽霊青年にもたれ掛かり……いや、そんな生易しいレベルじゃない。腕を回し、べったりくっついて、その首筋に濃厚な口づけを落としていた。
今更だけど、あのセーラー服、都内で有名な御嬢様学校のだよね? 別名、良妻賢母製造校。それでいいのか御嬢様。
「昼は淑女、夜は娼婦であれ……ってか?」
男の理想ってたまに気持ち悪いものが見え隠れするよね。
まぁ、女の理想は逆にエゴイズムなものが多いけど。
なんて呟き、考えてたら、青年と少女がこっちを振り向いて……。
※
アイアム・リビング・デッド
『金曜日』
そこで目が覚めた。斬新な夢だ。
もはや夢や現すら曖昧だ。何か首筋が痛痒いのは謎。
疲労がピークに達していた。故にもう私はなにも考えられず、なにも怖くない。
無我の境地へと入る。まさに天衣無縫の極みである。
因みに、営業君は欠勤してた。心底どうでもいいけど。
※
帰路についていた私は、端から見たらゾンビだろう。駅で軽い貧血を起こしふらついたら、近くにいた夫婦が心配してくれた。
最近偏差値高い女性によく遭遇するなぁ。いいことである。因みに奥さんはイギリス出身らしい。あ、旦那という名の幸せ者は普通でした。日本人でした。
週末デートですって。羨ましいな。輝いてるな。
「何してんだろ。私」
夫婦と別れた後、人知れずそんな言葉が口から漏れた。
部屋に帰り、鏡を見れば、濁った瞳をした平凡な女がそこにいた。
「まるでドブに捨てられて腐ってく、魚みたい」
あの夫婦は、幸せに生きるだろう。生まれてくる子どもは、その愛を一身に受けるに違いない。私とて、条件はほぼ一緒だった。パパとママは今も仲がよくて、立派な家に住んでいる。私を愛してもくれた。結果がこれだ。
教えて欲しい。何がここまで、私を黒く塗り潰したのだろう。タバコに蝕まれた肺だって、まだマシな色をしてるだろうに。
何の気なしに携帯を見る。暗い感情はそこまでだった。金曜日。つまり明日は……休み?
「ヒ、ヒャッハァアア!」
魚とか肺とか、お先真っ暗とか、もうどうでもいい。
私は……自由だ!
※
アイアム・ウインド
『土曜日』
風だ。私はまさに自由なる風だ。休日って、いいよね。人が木になる日。つまり根を張り、悠々と過ごせという話だ。何が言いたいかって休日最高!
オンラインゲーム、『ホライゾン・ラグナロク』を楽しむ。五十を越える職業。拡大され続ける広大なマップに加え、ダンジョンやクエストも多数完備。領地で内政してよし、ダンジョンの探索者になってよし、お店を経営してよし。貴族になったり、どっかの国の騎士団になるもあり。何もしなくてもいい。やり込み要素満載な、異世界に移り住んだ気分に浸れる人気ゲームだ。
因みに私は冒険者ギルドに所属するBランク冒険者。
今はとある平原に出たという、ミノタウロスを狩りに来たんだけど……。
「マジかー」
画面では、ミノタウロスがドラゴンの炎で炙り焼きにされていた。現地に行ったら、先に来てた冒険者が仕事を終えていた件。
ドラゴンライダー、SYOUGO。界隈じゃ有名な上位プレイヤーだ。
ギルドに所属していない、流浪の冒険者。変態レベルに強化したドラゴンに乗り、各地を放浪しては適当なクエストをこなしていく自由なるソロプレイヤーだ。共闘したり居合わせたプレイヤーにはドロップアイテムも山分けしてくれるんだとか。
案の定、私にもミノタウロスの肉と角をくれた。ええ奴や。
クエストの協力プレイを依頼したら、快く引き受けてくれた。いい人や。
お仕事の後は、隠れ家の一つにも招待してくれた。神か。
ただ、何故か居合わせた女魔法使い――一応SYOUGOの仲間らしい。が、こっちにガンガン攻撃魔法を撃ってきたのにはムカついたけど。MAHIRUめ。プレイヤーキルは嫌われるぞ。
SYOUGOの愛竜による蘇生ブレスがなかったらどうなっていたやら。
ありがとうSYOUGO。ファッキンMAHIRU。
こうして休日は過ぎていく。
※
アイアム・フリーダム。
『日曜日』
休日! 休日! 休日! ああ、素晴らしきかな休日! 営業君のラインは既読スルーする。
ホライゾン・ラグナロクをまたやろうか悩んだが、ここは敢えて町に出る。
おしゃれなカフェで、優雅にくつろぐ出来る女を演出してたら……。近くの席にカップルらしいのが座りおった。凄いぞ。この一週間でほぼ毎回男女のペアに遭遇してる。
私は一人。むなしいことこの上ない。まぁ、見る女の子が皆S級だからいいんだけど。だがMAHIRU。テメーはダメだ。可愛くてもダメだ。
さて、今日の女の子は……。S級でした。亜麻色のセミロング。肌も白くてお人形さんみたいだ。着ている服もふわふわな分かりやすく女の子したもの。極めつけは目。凄く不思議な色合いだ。青紫っていうのだろうか。あと巨乳。隠れなんてレベルじゃない。あれは多分形もいいな。最強か。私のなんて。私のなんて……乳輪の大きさが違う上に……! 止めよう、悲しくなってきた。
腹立たしくて、お相手の男を見る。……あ。
その日、私は見てはいけないのを見たのかも。お人形さんな女の子といたのは、隣に棲む女子大生の彼氏さんだった。
……あー。やだやだ。人間ってめんどくせ。
まぁ、誤解かもしれないよね。ただの友達かも。
パフェをあーんしたりくらいする親しい友達なんだろうさ。ほっぺについたクリームを、所謂ひょいパクしちゃうくらい仲がいいんだろうね。ハッハッハ。
荒れてるのは、月曜日が来るからだ。
明日から私は、再び戦場に舞い戻るのだから。
※
アイアム・ウォーリアー。
『月曜日』
腹立たしい目覚まし時計にチョップをかまし、私は自分が今まさに地獄にいる事を実感しながら目を覚ます。
時刻は五時半。ノロノロとゾンビのごとくベッドから這い出し、酔っぱらいのような覚束ない足取りでバスルームへ。
軽いシャワーで寝汗を流したら、下着をつけてYシャツだけ着る。青少年が見たら劣情を催しそうな格好だが、生憎私は独り暮らし。ついでに彼氏もいない。……言ってて悲しくなって来たのは内緒だ。
適当な格好のままリビングに戻り、サプリとグラノーラを胃に入れる。朝食は五分で素早くが、私のモットーである。
うっすらと化粧して、髪の毛をセットして。スーツを着込む。
さぁ、戦争だ。
カレンダーを見る。当たり前だけど、日付は一週間進んでいた。
「……ああ」
思わずため息が出る。
結婚するかわからない。
世の中の柵の中で生きる以上、お金は必要だ。
仕事は止められない。
つまり結論として……。
「これが……この地獄みたいな疑似ループが、あと何十年も続くのか」
神様がいるなら、ぶん殴りたくなった。




