逢いたい・・・そして駆ける
また明日ね。
これが最後に聴いた言葉となった。
なぜ最後の言葉になったかって?
俺は死んだからだ・・・・・
5分前・・・
「もう1年もたつね。」
「意外にあっという間だったね」
「広くんが告白してくれて嬉しかったよ」
「佳奈と付き合えて良かった」
二人の頬が空の朱と重なりながら夕暮れの赤い道を歩く。
「いつも送ってくれてありがと」
「どーいたしまして」
と笑顔で返す。
「ずっと一緒だよ」
「うん」
「また明日ね」
「じゃあね」
そういうと佳奈は玄関へと消えた。
そして俺も家路にむかう。
家までは400mくらい離れている。
吹きつける風が冷たい。
辺り木々は美しく紅葉している。
綺麗だ・・・
周りの木々の美しさの中を丸いゴムをつけた鉄の塊たちが交差している。
信号が青になり横断歩道を歩きだす。
佳奈・・・・・・・もう一度逢いたい・・・・
ふっと思った。 そして空気が変わった。
ああ、死ぬんだな。迫りくるそれを見つめ思った・・・
ガッシャーン。
信号無視をしたそれにタンパク質の塊がとばされた。
かすかに赤い空が見えた。
視界が徐々に暗くなりそして真っ暗になった
しかしライトに照らされる野球グランドのように明るくなった。
そこに喪服を着た綺麗な女性が立っていた。
「あなたは死にました」
冷たい透き通るような声で彼女は言った。
「死んだのか俺は・・・」
いやそれ以前に大きな疑問がある。
ここはどこであなたは誰だと聞きたくなった。
「ここは天国です。そして私は天使です」
「俺が聞こうと思ったことを・・・」唖然としてしまった。
「私には人間の心が読めます」
「それは凄いなぁ・・・って感心してる場合じゃねぇ 俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。」
「知っています。木内広 あなたは今、すごく後悔しているはずです。でもあなたは死にました。
ですからどうしようもありません。しかし私は相川可奈との記憶を消すこともできます。
そうすればあなたは苦しむこともありません」冷たく優しく微笑む。
「なかった事になんかできるか!! 佳奈を悲しませ自分だけ忘れるなんて絶対できない、もう一度逢いたいんだ!! まだ逝きたくない。」
悲しみのしずくがほおを伝い落ちてゆく。
天使は綺麗な目で俺を見つめる。
「ではあなたにもう一度命を与えます。」
「えっ?」
「しかし10分だけです。あなたが横断歩道を渡る直前まで時を戻しましょう。そして未練を晴らしなさい」
そう告げると天使は暗闇に消え俺は交差点にいた。
「あ、戻った」
一台のそれが猛スピードで赤信号を進む。
俺はここで死んだのか・・・
そんなことより佳奈に逢おう。
俺は全速力で走った。もともと陸上をやっていたので足には自信がある。
綺麗に紅葉した木々の下を駆け抜ける。風圧でふわりと地に落ちている枯葉が舞った。
「逢いたい」ただその一心で駆ける。駆ける。駆ける・・・・
そして佳奈の家に着きチャイムを鳴らす。
はぁい と家の中から声が聞こえた。
ガチャ佳奈が出てきた。
「広くんどおしたの?」
「佳奈・・・・佳奈あぁぁぁ・・・」
涙がとまらない。
強く抱き寄せた。
「俺はもう死ぬ 最後に逢いたかったんだぁあああ」
うぐっううう止まらない、涙で佳奈の制服が濡れた
「どおしたの、急に・・・大丈夫だから。ね?」
彼女は優しく抱きしめかえす。
そして唇を重ねる・・・・
「大好きだよ 本当に愛してるよ。佳奈に逢えてよかったァぁああ ありがとぉお」
泣きじゃくりながらさらに強く抱きよせる。
「佳奈も広くんのこと愛してるよ。」
優しく優しく・・・・
人生の中で最も泣くのは生まれる時と死ぬ時だと悟った。
この匂いも柔らかさも優しさもすべてが愛おしかった。
ありがとう。
そして彼女の手の中で冷たく倒れる。
「広くん? 広くん・・・・ ひろぉおおお」
叫ぶ彼女が見えた。
ことばにできない。
再び暗くなり逝った。
気がつくと天使が目の前にいた。
何で天使なのに喪服を着てるのか聞いてやろうかと思った。
「先ほども言ったように私には人間の心がよめます。貴方の質問に答えましょう・・・何故なら私は悪魔ですから」
そう言い優しく微笑んだ・・・
どうでもいいか・・・・
と思った。
「では逝きましょう」
彼女は俺の手を取り、光輝く夜空を駆けた。
読んでくださった方ありがとうございました。
まだまだ荒いところも多々ありますが今後もよろしくお願いします。