生命のはじまり、火の襲来 第1章ー3
入学式が終わり、皆葉と麗がAクラスの教室に入ると、突然歓声が沸き上がってきた。ちなみに、麗の怪我は入学式の間に歩ける程度には回復していたので、さすがに教室への輸送は固辞した。
二人を褒めるものではなく、冷やかすような声が、次々と聞こえてくる。皆葉の黒い眼帯を指して、「中二病?」と言う者や、「お姫様抱っこって、どんな感じー?」等、二人をバカにした声が。
「ううう……」
先刻の光景を思い返して、麗は恥ずかしさに悶え苦しむが、皆葉は意に介することなく、席に着く。
「はーい、それでは、オリエンテーションを始めます」
担任の女教師が、教室に入ってきて皆に呼びかけた。年齢は二十台の中間ぐらいで、ショートヘアの黒髪。眼鏡を掛けた可愛らしい印象の美人で、不慣れなせいか、もたつく様がさらに愛らしさを高めている。
「えーと、今日の予定は……学校についての説明と、役員の選出、生徒間の交流か。よーし」
女教師は、軽く自分の頬を叩いて、喝を入れる。
「皆さん。まずはご入学、おめでとうございます。全国でも最難関とされる本校に入学できた皆さんは、間違いなく優秀な方々であります。今後も成長し、社会に貢献できる人間になってくれるものと、教師一同、期待しております」
当初のぎこちなさはすぐになくなり、滑舌よく、女教師は話をする。教師は、竜律華と名乗った。見た目とは裏腹に、保健体育の教師だという。さらに保険医も兼任しているとのことだ。『竜先生だと堅苦しいので、律華先生とかりっちゃん先生で良いですよー』と、フランクな感じも見せつつ、竜教師は続いて学校についての話をする。
ここ新緑高校は、全国で唯一の国立高校であり、所在地であるA県新緑市の教育区にあること。新緑市は、国が推進する循環型社会のモデルケースとして、教育区、研究区、商業区、住宅区、工業区から成り立っており、この市一つですべてが賄える。そんな都市を目指して、設計されたこと。他にも多くの情報が竜教師の口から出てきたが、地元に住んでいる者にとっては分かり切ったことなので、中には居眠りする者までいる。それに気づいた竜教師は、途中で話を打ち切って、生徒たちに自己紹介をさせる。
生徒たちは、氏名や出身校、趣味等簡単な紹介をして、話を済ませていく。全部で二十六クラスあるが、一クラスの人数は三十人程度なので、各人の自己紹介に充てる時間は十分にある。だが、それほどしゃべることもないのか、一分足らずの話で済ませる者が大半だ。
順調に自己紹介は進んでいき、皆葉の番が回ってきた。皆葉は溜息を吐いて、立ち上がる。
「神皆葉。新緑中学校出身。趣味は特になし。以上です」
そんな簡単な話をする生徒もいたので、皆葉も同じ様な紹介に留めた。だが、周りから非難が出てくる。
「もうちょっと話しろよー」
「トップ入学の人が、そんな簡単な話でまとめるなよなー」
「その眼帯って、ファッション?」
ほぼクラス全員と言って良いぐらいに、皆葉を煽る声が出てきた。
「はあ……なら、もう少し紹介しましょうか」
座り掛けた皆葉は、再度立ち上がり、竜教師のいる壇上に立った。
「僕は、神皆葉。まずは、皆さんが気になってるコレだけど、見せようか」
皆葉は、眼帯を取り外し、その右目を見せる。特に何かある、というわけではなく、左目と何ら違わない。
「見ての通り、特に何かあるわけではありません。右目を開くとビームが出てくるとか、普通の人間には見えないものが見えるとか、そんなオカルトなことはありません。ただ、何も見えないだけです」
続けて、皆葉は髪を掻き揚げ、左側の頭部を見せる。そこには、大きな傷跡があった。
「幼い頃、事故に遭って、僕の左脳は全摘出されました。なので、右目は完全に見えません。リハビリをして、右半身はそれなりに動くようになりましたが、右目だけは、どうにもなりませんでした。それが、僕がコレをつけている理由です」
眼帯を装着し直し、皆葉は話を続ける。
「これで、皆さんの疑問は解消されたと思います。あ、ついでですが、僕には必要以上に関わらない方が良いです。僕と不必要に関わると、こんな目に遭うかもしれませんので」
左側の頭を指してから、皆葉は話を終え、席に戻っていった。
「……」
皆、一様に黙り込んでいる。重い話によって、生徒は全員、沈黙を強いられてしまったが
「えーと、皆さん。自己紹介の続きをしましょう」
竜教師は特に慌てることもなく、自己紹介を進めていった。