表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/164

生命のはじまり、火の襲来 第1章ー1

 (まどか)(れい)は、慌てていた。


(ああ、もう! どうしてこうなるのよ!)


 高校に進学して心機一転、今までとは違った人間関係を構築するべく、執事の送迎を断ったは良いが、通学時間がここまでかかるとは思わなかった。車なら十分程度で着くのに、歩きだと倍以上かかるとは、想定外だった。時間に余裕を持って、自慢の艶やかな金髪を整えて出てきたというのに、途中から走っているので、髪が乱れてしまっている。


 息を切らせて走っていると、校門が見えてきた。時計もどうにか、遅刻しないで済みそうな時間を指し示している。


 しかし、安堵する余裕はない。勢いを止めることなく、曲がって坂を駆け上がろうとしたところで、麗は何かとぶつかってしまう。


「きゃっ! いたた……」


 起きあがると、目の前には一人の少年が同じように、衝突の痛みに苦しんでいた。


「ごめんなさい」


 麗は、倒れた少年を起き上がらせようとするが、


「あ……つぅ!」


 足に痛みが走る。どうやら、挫いてしまったようだ。


「……」


 麗の様子を見ると、少年は立ち上がり、麗を抱き抱えた。俗に言う、お姫様抱っこの様な形で、少年は麗と共に校内へ入っていく。


「え? ちょ、ちょっと!」


「何だ?」


 少年は、麗の抗議に鬱陶しそうに応える。


「何って、貴方、何で私を抱っこしてるのよ!」


「君が、足を痛めたからだ。そして、僕は歩けるし、幸いにも僕が抱えられるギリギリの重さだから、こうしているだけだが?」


「ギリギリの重さって……私はそんなに重くないわよ! それより、貴方が私を抱える必要なんて、ないでしょう!?」


 そう。麗が足を痛めたのは、彼女が不用心に走ってきたからだ。だから、少年には彼女の世話をする理由はない。その問いに少年は、


「別に、僕はできるからやるだけで、君が拒むなら置いていっても構わないよ。でも、君は入学式に出るのだろう?」


「それが?」


「なら、時間には間に合った方が良いと、僕は思うよ。人数の都合上、入試の成績上位者しか入学式には出席できないのだから、出ないのは勿体ないよ」


「それは、そうだけど」


 入学式に出席できる成績上位者には、学費免除どころか、国から奨学金をもらえる。裕福な家柄である麗には別段必要ないものだが、今後家の力に頼らず自分の力で行動しようと思うと、惜しい気がしてくる。


「で、でも、連絡しておけば、問題ないんじゃないの?」


「甘いな。入学式の案内を見ていなかったのか?」


「入学式の案内? ……はっ!」


 麗は思い出す。『理由を問わず、入学式に出席できなかった者、遅刻した者には、学費及び奨学金の特典は失われるものとする』と、確かに入学式の案内にはあった。


「だから、君がその特典を捨てても良いというのでなければ、僕の両手に揺られていくしかないわけだ。それに」


 少年の足が止まる。二人の目の前には、入学式の会場である、体育館がそびえ立っている。


「もう、着いた」


 麗を片手に抱え直し、少年は扉を開く。


「ま、待って!」


「何だ? 後一分で始まるぞ?」


「は、恥ずかしいから、降ろしてー!」


「……」


 心の底からの願いを、少年は無視して、体育館へと入っていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ