プロローグ
現在、西暦2115年。
現代魔法と呼ばれる力と精霊との契約して扱うことの出来る精霊魔法と呼ばれる力が現代世界では確立されている。第二次世界大戦後、世界は平和に向けて少しずつではあるが歩みを進めた。経済を発展させ、経済大国又は先進国と呼ばれる国々が欧米や一部のアジア諸国に幾つも君臨した。2000年以降も、次々と成功と挫折を繰り返しながら、経済は回っていった。その中で、問題も様々あった。拉致被害、紛争、テロ、新たなる国を名乗る組織、独立賛否、財政破綻、人種差別など挙げていけばきりがない。そんな中、魔法と呼ばれる力が現代に正式に認識されると無駄な争いや戦争の火種になるのは明白だった。世界の中心と呼ばれるアメリカ合衆国を始め、元世界最強国イギリスなどの欧米又は先進国から研究は開始され、島国 日本も先進国として魔法の研究を始めた。それに数年遅れて、新興国や発展途上国が、これから10年以上遅れてまた20年以上遅れて後発開発途上国が研究を始めた。そして、魔法を扱える者たちを作り上げたのだ。多大なる研究費を使い。魔法を扱える者たちを世界はこう呼ぶことにした。魔法師。魔法師として作られた彼らは国々が求める新たなる人材には持ってこいだった。魔法を発見して確立したのが2030年。確立した魔法のことを現代魔法と呼ぶ。それから、20年後、戦争は起きた。
西暦2050年 第三次世界対戦が勃発。この戦争を世界魔法対戦や20年戦争と呼ばれたりもする。その名前から察せられると思うが、世界を巻き込んだ大きな戦争が行われた。経済難から領土拡大をし、経済回復を目指したアフリカ諸国が戦争の火種となった。これを押さえるべく、先進国も軍を派遣したが、止まらなかった。それに乗じて、社会主義国 ロシア、中国の近隣国への宣戦布告や欧州の不和から先進国同士の争い。それを止めるすべは何処にもなかった。戦争反対派であったアメリカもカナダからの攻撃を受けて、重い腰を上げ、カナダとの戦争を開始させた。イラクやサウジアラビアなどの西アジア諸国は領土拡大を目指した戦争をした。その中で島国 日本は自衛隊を日本軍という名に変え、どの国に戦争を仕掛けられても良い状態にした。
戦争の中で新たな発見があった。欧米やアジアの一部には元々魔法を扱える者たちが存在していた。宗教ごとに現代魔法と同等の力を得る教えがあったそうだ。欧米諸国が信仰するキリスト教には魔法と呼ばれる力があった。後にこれは古代魔法、中世魔法、近世魔法、近代魔法にそれぞれ別れることとなる。東アジア諸国が主に信仰する仏教には法術と呼ばれる力が、西アジア諸国が信仰するイスラム教やユダヤ教にも魔法と呼ばれる力があった。イスラム教やユダヤ教の魔法もキリスト教の魔法と同じく時代ごとに区別される。日本も例外ではなく、仏教の中の密教や宗派ごとに法術と呼ばれる力があり、後に最古魔法、古代魔法、単体魔法、多勢魔法と呼ばれる魔法を扱うことが出来る家があった。後に名家と呼ばれる家だ。更に、名家の有力分家や名家の後に出てきた高家と呼ばれるようになる家も存在した。
第三次世界対戦の結末は、国の激減と新たなる巨大国家や同盟国家、共同国の誕生だった。北アメリカ大陸はアメリカ合衆国が全ての領土を得て、北アメリカ合衆国と新たに名乗った。南米はブラジルが殆んどの領土を支配し、一部を複数の国が小国となった国々が支配する形になった。欧州は東西に分裂した結果、西EUと東EUという共同国を作り上げた。西は主にイギリス、フランスを中心とした国となり、東はドイツ、ポーランド、ノルウェーなどを中心とした国となった。戦争の火種となったアフリカ大陸は国という物が無くなり、組織などや人種ごとに戦いを繰り返す大陸へと変貌した。西アジアは領土の4分の1をイスラエルが、2分の1をカザフスタン、イラン、イラク、サウジアラビアなどの西アジア連合国が、残りの4分の1を複数の小国が支配する形になった。東アジアは中国がインド、ミャンマー、タイ、ベトナム、モンゴル、朝鮮半島などを吸収して、中華人民社会共和国と名乗り、ロシアは欧州にある旧ソ連の領土を再吸収して、新ソビエト社会主義共和国連邦と名乗り、オーストラリアは何事もなく国を維持した。東南アジア諸国は1つの国となりアセアンと名乗った。日本は中国や新ソ連の侵攻を防ぎ、自国を守り抜いた。
西暦2115年の現在でも、この構図は変わっていない。新ソ連や中国は新たなる領土を、北アメリカ又はN.U.S.Aは平和を推奨し、日本と再同盟した。欧州は安定を、アフリカ大陸は内戦を繰り返し、南米は一定維持を、オーストラリアは安泰を、西アジアは領土拡大を、日本はアメリカと共に平和を掲げた。
そんな現代日本の名家と呼ばれる家に入る東雲家の長男 東雲雪雄は今年で5歳だ。名家の息子でありながら、彼が扱うことの出来る魔法は未だに分かっていない。使えるのは無系統に属する基礎の魔法防止結界や魔法阻止という物から使える者が少ない魔法破壊などの基礎である。東雲家は代々 魔法と精霊魔法の両方を扱うことが出来る精魔術師と呼ばれる人材を輩出してきた家だ。その為、魔法が分からなくても精霊との契約で扱うことが出来る精霊魔法を使える可能性があった。だが、実際は違った。何が違ったのか。それは精霊との契約が出来なかったのだ。父である影雄は心配した。そして、哀れに思った。結局、この事は他の名家や高家にも伝わってしまった。落ちこぼれ。他家は雪雄をそう呼んだ。何の力も持たない無力な少年。そんなレッテルが少年に貼られたのだ。それを見ていた1つ上の姉 茜は雪雄と1つ下の妹 滴を連れて、噂となっていた東雲家の地下に向かった。噂とは、東雲家の地下には禁忌の精霊が封印されていると言うものだった。
「姉ちゃん、もう帰ろうよ。父さんに怒られるよ。」
「男の子がそんな弱々しいこと言わないの。私と滴は雪雄のことを考えて決めたんだから。ねえ、滴。」
「うん。」
東雲家長女 茜と次女 滴は東雲家の生まれとしてちゃんとした血を受け継いでいる。その証拠が2人は家に恥じない精魔術師として今も修行を続けている。母親である沙耶香が年齢に合わないほどに若さが衰えない美女であるように2人も将来は美女になることが分かるほどに可憐な少女になっている。彼女たちが纏うオーラは流石名家の娘と言わしめる程の物だ。3人は地下の長い道のりを進む。地下に向かって早くも一時間は経っている。滴はまだ、4歳ということもあり、体力が限界に近付いている。そんな状態でついに地下の部屋らしきドアを見つけた。
「は、入るわよ。」
「「うん。」」
部屋の中には人型の精霊が5体居た。男らしき精霊が3体、女らしき精霊が2体。男は美男子と怪力であることが分かる体格の男と老人で、女は過去に存在した美女に劣ることのない美女だった。全員が黒きオーラを纏い、殺気を出している。これで倒れない3人は、やはり名家の子供なのだろう。すると、老人の容姿をした精霊が話し掛けてくる。
『汝達、このような場所に何のようだ?』
「私たちは貴方たちに此処にいる弟がどんな魔法を扱えるかを知りたくて来たの。」
『お前は東雲家の子供だな。憎き名家の子供か。まぁ…良かろう。小僧、前へ出ろ。』
「分かった。」
『ん?お、お前は…実在したのか…我らと契約出来る存在が。』
「で、僕の魔法は何なの?早く教えてよ。」
老人の容姿をした精霊は驚き、他の精霊に伝える。他の精霊も驚きの声をあげる。精霊達は何やら相談をしている。老人の容姿をした精霊はゆっくりと口を開ける。まるで信じられないような表情で雪雄の顔を見る。
『お前の魔法は浄化と再生だ。お前は力を望むか?』
「うん。僕は家族を大切な人を守れるようになりたいんだ。」
『なら、我らと契約する気はないか?』
3人は驚愕する。此処にいる精霊は間違いなく古代時代に封印された禁忌の精霊だ。その精霊から契約しないかという申し出があったのだ。驚くのも無理はない。だが、雪雄の声が発するのに数秒の時間もなかった。
「強くなれるんなら、僕は君たちと契約する。」
『決まりじゃな。なら、唱えろ。契約に使う誓いの言葉を。』
「禁忌の精霊達よ、僕の契約精霊となり僕に従え。」
その言葉と共に眩しすぎるほどの光が部屋全体を包む。それと同時に雪雄は床に倒れこむ。茜が脈を計ってみるとまだ生きているのが分かる。茜は急いで父の所に向かった。部屋に着くと、茜の慌てぶりに流石に心配になったのか、影雄が声を掛ける。
「どうした、茜?」
優しい穏やかな声。子供3人が慕うことがこの声で分かるほどの優しい囁き。茜は今まで起きたことを全てまとめて影雄に話した。
「まずは雪雄の所に行かないと。茜はここで待っていろ。」
影雄が地下に向かうと大声で泣き叫ぶ滴と呼吸はしているが床に倒れ危うい状態の雪雄が居た。影雄は雪雄と滴を連れて、家へ戻ると東雲家専属を目的とした家である佐薙家に連れて行った。
雪雄の意識は中々戻らなかった。脈も正常で、呼吸も安定しているのに雪雄は一向に目を覚まさない。それから1週間後、雪雄は唐突に目を覚ましたのだ。そして、体は何処もかしこも変わっていない。全てに安定している。その後、3人は影雄に説教を受けるがこれはまだ、後の話。
目を覚ました雪雄は自分の魔法と精霊魔法の練習と研究、毎日続けていた東雲家が支援している寺で体術と剣術の稽古の毎日を送っていた。
そして、2年後。
影雄はある決断をする。それは雪雄を一時的に養子に出すということだった。養子に出す家は東雲家専属執事や侍女を輩出してきた岩瀬家だ。
今年は名家、高家、第三次世界対戦で活躍した魔法師の新たなる家である新家の7歳になる子供達のお披露目式がある。そこに雪雄を息子として連れていきたくない父親としての判断だ。雪雄のことを大々的に知れば、東雲家の知名度は下がり、家の恥になる。更に、雪雄が惨めになるだけだからだ。
また更に、9年後。
雪雄は今年で16歳になる。彼は魔法大学付属高校 関東支部に入学する。今年一年は滴の執事としての任を解かれ、自由に過ごすことが出来る。これは実の父である影雄が少しでも高校生活を楽しめるようにと決めたものだ。誰も咎める者も居なかったため、実現した。更に、雪雄は6年前から日本軍 独立混合部隊に所属している。これは影雄の命令と部隊の隊長である森田透大佐の推薦があったからである。軍内では市場太一という偽名を使っている。入隊した同じ年に中国の沖縄侵攻やソ連の北海道侵攻などを防ぐなどして活躍。更に他にも実績を挙げた為、今の階級は中尉となっている。また、世界には非公開の市場太一中尉専用の特戦略級精魔術師でもある。
そんな彼が魔法大学付属高校に入学した訳は実の姉である茜が1年前に色々とやらかしてしまい、それで狙われた時に守る者が必要という理由からである。茜には羽柴という東雲家が雇っている執事では最強クラスに入る人が執事として就いてはいるが、学園内では守れないという理由もあり、雪雄が茜の護衛役として出された。
平穏。それは平和に静かに過ごしたい者が使う言葉だ。東雲雪雄いや、岩瀬雪雄もそうだ。のんびりとした学園生活を望みたい。これが彼の中にあった。