2話挨拶
現代日本に存在するのは魔法や精霊魔法だけではない。それは過信し過ぎている。それだけじゃ、国は発展していかない。歴史の中で魔法という物は隠れた存在であった。だが、それが1つとは限らないのだ。そう。他にもあるのだ。魔法とは全く違う力が。それが法術。妖術、忍術、呪術、陰陽道の総称。これらの力は仏教に関わる者たちが扱ってきた隠された力だった。日本の仏教には十八宗と呼ばれる十八の宗派がある(三輪宗、法相宗、華厳宗、律宗、倶舎宗、成実宗、天台宗、真言宗、融通念仏宗、浄土宗、臨済宗、曹洞宗、浄土真宗、日蓮宗、時宗、普化宗、黄檗宗、修験宗)。この者たちが仏教の大きな宗派だ。魔法とはコインの表裏のような存在の法術は幾度となく対立を繰り返してきた。歴史を紐解いていけば、対立しているが分かる伏が幾つか見つけられる。かの有名な比叡山焼き討ち。織田信長が行った虐殺。これは平家の子孫と呼ばれていた織田家が比叡山の陰陽道に怯えを感じたことによって行われたことだ。陰陽師は式紙を用いることや供物を用いることが多かったため、燃やされてしまっては勝ち目はない。陰陽道は完璧に敗北した。比叡山延暦寺は陰陽道を教える天台宗の寺であったため、陰陽道を扱うものしか存在しなかった。また、供物を使用することなく唱えることが出来る者は生き残った。
また、その他の法術では忍術が良く時代ごとに用いられていた。特に戦国時代には忍者として、戦国大名に仕える者も多かった。鎌倉時代~戦国時代には情報をどれだけ早く仕入れるかが戦でも大きな鍵となっていた。そのため、忍者は重く用いられた。暗殺、破壊活動も行うことが多かった。徳川家、北条家、尼子家は忍者を特に重く用いた代表的な戦国大名だ。
岩瀬雪雄が幼い頃から稽古を受けている寺は伊賀忍者が後に作ったと言われている。そこの住職 森一新は元々は延暦寺焼き討ちで生き残った陰陽師の子孫である。一新の話によれば、先祖は延暦寺焼き討ち後、この地域まで逃げてきたそうだ。そこで此所大龍寺の当時の住職に助けられて、その寺で学んだそうだ。息子や他の僧侶が居なかった住職が死ぬ時に一新の先祖に明け渡して以来此処は森家の寺となっている。延暦寺で高い地位に就いて陰陽道でも優れていた先祖は大龍寺で教えられている忍術にも才能を見いだし開花させた。その2つを折り曲げた戦い方を確立し、子孫に代々繋がれていった。一新もまたその両方に優れた法術師である。法術師と呼ばれるのは2つ以上の術を扱うことが出来る者を指す。
雪雄が学んでいるのは体術と剣術、隠密術の3つだ。これも忍術では欠かせない戦闘術の一種らしい。真夜中の今でも、寺の中ではその稽古が続いている。
「全く、君は強くなったね。俺じゃ、敵わないよ。もう、抜かれたね。体術と剣術に置いては。」
「ですが、他の分野で僕は師匠に勝てていません。」
「他の分野でも負けたら、僕は自信を無くすよ。君は魔法師の家系の生まれなのにここまで忍術の末端が扱えるとは怖い怖い。」
「本気で怯えないで下さいよ。それでお願いしていた件はどうなりました?」
「ああ、最近の裏情報ね。そうだな。ここ最近、関東を中心に秘密利に拳銃、ライフルなどが海外から密輸されている。それが何の目的で動いているかは知らないけど、俺は代々の予想は出来ているよ。」
「魔法高校 関東支部への攻撃のためですね。」
「そうだよ。流石だね。」
一新は感心した表情を浮かべる。一新にとって、雪雄は今まで育ててきた人材の中で一番の才能を持っている者だと思っている。彼には魔法師として大事なピースが欠けているが、それを補えるものを幾つも持っている。もし、その欠点が無ければもっと凄いことに彼はなっていたと一新は考えている。今、現在の世界の魔法師たちを見ても、彼に近距離戦、中距離戦、遠距離戦の全ての戦い方で挑んでも勝つものは居ないだろう。勝てるわけがない。勝つことは有り得ない。この世界に生まれたのが間違いであるかのようなイレギュラーな存在それが岩瀬雪雄という人間なのだ。ある1つを除けば、魔法師としても、精霊術師としても万能な彼に敵う者はいない。世界を破壊することが出来るのが岩瀬雪雄なのだから。
「魔法高校に攻撃を仕掛けて、占領したりとか出来たことはどの支部でもありませんよね。無謀だと思いますけど。」
「そうだね、特に関東支部を襲うのは死にに行くようなものだろうね。彼処には校内三大と呼ばれる存在もいるしね。御三家と呼ばれる家の子供が沢山いる魔法師の倉庫みたいな所に彼らは行くんだからね。それで雪雄はどうするんだい?」
「僕は家からの使命を全うするだけですよ。」
「茜ちゃんはそう簡単にはいかないよ。彼女は前線で戦いに行く人間だからね。」
「だからこそ、それを監視し、危ないところを助けるんですよ、師匠。前線に行くなという言葉を茜さんにしても無駄ですし。」
「その方が賢明だろうね。」
一新も茜のことは知っている。性格から癖まで全てを。それを見て、彼女が前線で戦いに出ると結論付けたのだ。そこが彼女の良い面でもあり、悪い面でもあるのだが。それをどう守るのかは雪雄にとって難しいことは間違いない。前線で戦っている人間を後方から守るのだ。相当大変であることは目に見えている。だが、忠実な執事となっている雪雄には拒否する理由もない。それが彼の役目だからだ。
「どうするの?地下使っていく?」
「はい。」
大龍寺には地下に魔法演習場が存在する。地下全体が魔法に耐久性のある壁を使っていて、壊れる心配もない。そこで、雪雄は毎日魔法の特訓を欠かさず行っている。一新にしてみれば、する必要は無いことだと思っているが。そこで新たなる自分の魔法を開発もしている。彼は能力的に見ても、結果を見ても、世界に発表しても良いくらいの魔法を幾つも魔法理論を用いて作り上げている。また、新たなる理論も幾つも見つけている。それなのに世界に出さない理由は簡単だ。その技術を使われることが雪雄にとって不都合だからだ。それこそ、今の世界情勢で各国が手に入れれば戦争になりかねないし。日本も巻き添えを喰らうかもしれない。そうすると、雪雄の守りたい人たちに危険が及ぶ。特に、中国や新ソ連に渡ると戦争は確実なものとなってしまう。そう、彼は考えているのだ。その世界のことを一番に。
東雲家は一族の重要人物に一人以上の執事兼護衛を就けている。それは一族の子供も例外ではない。茜もまた一族の執事の中でも強者クラスに入る執事を一人就けている。また、雪雄は護衛として就いているから2人いる。今日は雪雄が大龍寺に行っているため、茜と執事である月本しかいない。茜は黙々とパソコンを打ち続ける。すると、玄関が開く音がした。茜はパソコンを閉じ、一目散に玄関に向かう。目の前には実の弟である雪雄が立っていた。彼を確認すると彼女は雪雄の胸元へ飛び込んだ。雪雄は倒れることなく茜を支えたため、何も問題はない。
「お帰り、雪ちゃん。」
「ただいまです、茜さん。」
「あ、敬語使った。言ってるじゃない、私たち2人の時は普通に話せば良いって。今は月本さんしか居ないんだから。」
「分かったよ、茜姉。」
「それで、良し。」
茜は満足そうな笑みを浮かべて雪雄と一緒にリビングに向かう。この家は東雲家が娘たちが魔法高校に通うために建てた家だ。その為、普通の一軒家と外は何も変わらない。だが、地下1階にはSHIの整備・開発室。地下2階には大龍寺の地下にある魔法特訓室と同等の部屋がある。ここで雪雄は自分自身のSHIを作り上げたのだ。因みに茜のSHIも雪雄が設計して作り上げた物だ。この家は雪雄の実の妹である滴が魔法高校を卒業するまで、壊したり、売ったりすることはない。
「そう言えばさ、何で私にあんな態度を取ったの?」
「何を言ってるんだよ。僕と茜姉は元執事と主の姉の立場なんだから、仲良く出来るわけないだろ。」
「それはそうなんだけど…それに雪ちゃんの受験結果も納得いかない。」
茜は頬を膨らませて駄々っ子少女になっている。彼女は馬鹿であるが、本質は天才だ。最も正確に言うなら、秀才に近い天才と言えば良いのだろう。馬鹿に見えてしまうのは態度が年相応しくなく精神年齢が幼いことが原因だ。幼い。他の言葉を使えば、元気一杯で明るく、正義感の強い少女。別に何か病気を持っている訳じゃない。ただ、そういう風に育ってしまっただけだ。
「晋一にも言ったけど、僕の魔法と精霊魔法は軍の機密事項なんだよ。それを簡単にバラすわけにはいかないし、そもそも入学試験の魔法技能テストは魔法の行使の早さ、魔法の規模の大きさ、魔法の強度の主に3つから判断されているんだ。更に大前提として現代魔法として、または古代魔法としてなどの理論が成立し、活用されている範囲の魔法じゃないといけないんだよ。だからこそ、僕は魔法を行使することは出来ない。だって、現代に確立されていない魔法なんだから。理論があるだけじゃ駄目なんだ。勿論、精霊魔法や契約精霊にも同じことが言える。仕方がないんだ。これに関しては。」
そう、雪雄の行使できる生まれ持った魔法は浄化と再生。その2つは両方とも世界で確立されていないある筈のない魔法なのだ。理論はあっても、現実に存在しない。作ることが不可能な魔法なのだ。彼の契約精霊も同じだ。封印された禁忌の精霊。そんな存在が契約精霊だと知られると色々と不味い状況に陥る。彼の扱う精霊魔法だって、伝説上にしか存在しない架空のものなのだ。それを見せたところで信じる者は居ないだろうし、信じられれば解剖実験の材料に使われかねない。それを考えると知られない方が良いのだ。色々な意味で。
「分かってるわよ。」
「なら、僕のことは諦めて自分のことに集中して。後期は生徒会長に立候補するんでしょ。なら、その為に頑張らないと。」
茜はまたパソコンを開き、黙々と文字を打ち始める。雪雄はリビングを出て、月本と話をする。
「すいません、一人にさせて。」
「いえいえ、貴方は東雲家の次期当主なのですからもっと自信を持ってください。」
「はい。では、これからも姉をよろしくお願いします。」
「はい。私が仕えると決めた主ですから。任せてください。」
雪雄は月本と軽く話をすると、自分の部屋に戻って寝たのだ。