いよいよ金曜日
ファンの年齢を知った兄は無言で米神グリグリ攻撃をし、ティルディグ見学だけを予定に入れて帰っていきました。
と言っても、道のりの半分以上を『車を"収納"したファンの"移動"』で移動し(前に行ったことのある場所だったため)、そこからファンと私を乗せて兄の家まで連れて行ってもらいました。
時間が遅かったので美嘉さんは先に寝ていて挨拶はできませんでしたが、次回からはファンの"移動"が使えるので兄にしても私にしてもファンがいる時限定で行き来が便利になります。
兄はファンと連絡先を交換し、ファンに渡した携帯の【3】のボタンの登録は兄の番号に変わりました。
「まだまだ時間はあるんだから、今すぐ結論を出さずに亜莉紗はもう少し日本で働きながらよく考えるように。」
兄からはそれだけの言葉をもらいました。
やはりつきあった期間やファンの年齢を聞くと至極当たり前な反応ですよね・・・。
*
そんなこんなで、とうとう金曜日になりました。
私は定時より少し遅く仕事を終え、ファンは兄を迎えに行って兄だけ連れて来ていました。
私だと百発百中で可能になったようですが、さすがに兄は"呼び寄せ"は無理のようです。
『ティルディグで攫われた過去もあるし心配だから』と毎日電話をもらってから取り寄せられて帰宅です。
アオイさんもゼットさんも家に到着していて22時どころか20時には全員揃っていました。
全然関係ありませんが、曜日の呼び方はナガラー夫妻が提案した(ということになっている)ものが定着しているそうです。
もともとアオイさんのご主人が自分のスケジュール表を持っていて、だいたい一年が同じくらいの間隔で訪れていると感じ便宜的に使っていたものが広まったそうです。
だから厳密に一年が何日かはわからないし、ひと月が日本と同じでいいものかはわかりません。
文明が進めば解明されるだろうとアオイさんはのんきにかまえていました。
やりたい放題・・・いえ・・・なんでもありません。
兄は何を勘違いしたのか探検隊っぽいような迷彩模様の上下を着ています。
いつどこで買ってきたんだ?
アオイさんとゼットさんにも挨拶をし、異世界の話を聞いています。
今回はギルド登録してくるとか漏れ聞こえましたが、まさかまた行くつもりなのかな・・・。
危険があるようなら美嘉さんに止めてもらわないと、黒歴史の前歴があるだけに心配です。
そのうち美嘉さんにも私の話をしなければならない日がくるかもしれません。
あまり多くの人に知られたくないような・・・でも兄から美嘉さんにも漏れるだろうし。
・・・実はこの時点でもう漏れているとは、この時の私は思いもよりませんでしたが・・・。
*
「アオイさん、まだ20時で2時間ほど余裕がありますが・・・。」
私の質問にアオイさんはにっこりと笑って「大丈夫、行けるようになってるから出発しましょう。」と出発を促しました。
前に日本に帰る時も種明かししてもらえませんでしたが、アオイさんが知る特殊な技術で何か措置がしてあるんでしょうね。
ティルディグでは魔法の第一人者らしいし。
今日も公園側から出発です。
家から直接行けたら便利なのに・・・と、だんだん"移動"の便利さに自分が毒されてきたのに気がつきました。
大人が5人手をつないだ状態の集団で歩いているうちに、いつの間にか景色が変わっているのに気がつきました。
「二回目だけど、見事な世界間移動よね。全然違和感がないわ・・・。」
アオイさんが感心したように言いました。
突然誰かを連れ帰る時はたまに眩暈をおこした感じになることもありますが、おおむね気がつかないうちに世界が変わっていることが多いです。
最初に気がついていたら5年も気づかずにいるわけないですよね。
アルコールが入ってたから余計頭もマヒしてただろうし・・・。
「これからは曜日も関係なく移動できるんじゃないかしら。」とアオイさんはニコニコしています。
今にもどこかに飛んで行ってしまいそうな・・・あたりをキョロキョロしている兄の手をしっかり握り、「どういうことですか?」とアオイさんに尋ねる。
「前に戻った時も、今日も実は私は何もしてないのよ。できるって言葉を信じたらできたんでしょ?もともと移動の条件って思い込みじゃないのかしら?移動時に若干魔力の展開があるみたいだから、門とかの類じゃなくて亜莉紗ちゃんの固有能力だと思うわ。」
「はいい~?」
私の間の抜けた返事に「ま、いくらスムーズに移動できて魔力量の消費が少なくても、自由に移動できるようになるにはしばらく訓練が必要でしょうね。」と肩をポンと叩かれました。
「前に祖母に"門"の存在を調査するように言われた。」
後ろを歩くゼットさんが声をかけてきました。
私が攫われた日がそうだったらしいです。
ファンは先頭を歩いています。
アオイさんがいるので念のために警戒して歩いているそうです。
ここまでくれば"移動"も可能ですが、今日は時間調整のためドリューズまで歩くことを提案されました。
ぶっちゃけアオイさんは護衛は不要なほどの実力者だとか(汗)
「もう少ししたらドリューズにサリエル達が押し掛けてくるから、ゼットと私は北門で別れるわ。時間的に私たちが消えた後に到着しないとややこしくなるから。」
そういえば、まだ過去の自分たちがおやっさんの酒場にいたはず・・・。
ややこしいなぁ・・・。
とうとうドリューズの北門に着く。
兄は興奮状態になっているのでファンにも手を握ってもらった。
そういえばまだ攫われたことも話していないので、魔物や危険な人がいることを説明していなかった。
アオイさんは「亜莉紗ちゃん、あなたのおかげですごく楽しかったわ。今度はゆっくり館に遊びに来てね。今はゴタゴタするからあなたたちはギルドにでも行ってて。後は私が謝りたおせば済むから。」と私の手を握って言ったのでした。




