お土産の"木札"
ファンとの生活で週末も近くなってきたその日。
「あーちゃん!!」
バターンという音と共に飛び込んで来たのは・・・兄だった。
今日は合鍵で登場のもよう。
「リサ、下がってろ!」
今までついていた食卓の前にファンが立ち塞がります。
「あーちゃん、その男は誰だ!」
兄がファンを見て叫ぶと、ファンも「そちらこそ何者だ。」と少し抑え目の声で聞き返します。
「お兄ちゃん、この人は私の恋人のファンよ!ファン、この人は私の兄だから!」
ファンがこれ以上前に出ないようにと出した手につかまって『兄である』と連呼しました。
「・・・先週のゼットという男はどうした。」
ぜいぜいと肩で息をしながらも、若干冷たい目で私を睨む兄。
「・・・ゼットさんはおばあさまと旅行中よ。それよりお兄ちゃん、どうしてここに?」
「どうしてでもいいだろ!それにサラッと彼は旅行で別の男が恋人ってどういうことだ。」
ファンはムッとして「リサの恋人は俺だけだ。」と兄を見下ろしています。
「ははーん。例の"よっちゃん"とやらから連絡が行ったのね?ファンがここに来て昨日の今日なのにどうしてここに?」
「ナチュラルにスルーするな!」
兄が何か言っています。
ふと思ったんだけど、よっちゃんとやらは実はストーカーか何かでうちを監視しているのでは?
兄は私の心中を察したのか、さも嫌そうに口を開いた。
「うちの裏の牧野さんがよっちゃんちだ。よっちゃんいわく二階の部屋からうちの狭い庭で朝な夕なに素振りやシャドーボクシングをしている金髪の男がよーく見えるそうだ。」
あ・・・ナルホド。
玄関のある通りがうちに対して裏面だから、そちらの通りのお宅については名前を言われてやっと思い出せるような存在感しかない。
言われてみれば庭を見下ろす位置に窓があったな。ついでにレースのカーテンをしていなければ家の中が見える位置かもしれない。
ましてやファンは冷房が嫌いだから窓全開だし。
「で、また金髪の男がいると・・・。」
ファンを下から上までじっくり観察すると「格闘家か?」と私に視線をむけます。
「まぁ似たカンジね。」
依然と私をかばうファンの腕の後ろでやりとりをすると「本当に兄で間違いないんだな?」と確認します。
こくりと頷くとファンは腕を下ろし「兄者を前に失礼した。私はファンリエッテ=マエジャーマと申します。以後お見知りおきを。」とにこりともせず、しかし優雅に挨拶した。
「ファン。こちらは私の兄の"川原 潤"よ。ちょっといきすぎた心配症なの。」
「あーちゃん!」
兄を無視してファンには席に座ってもらう。
「で、なんの用って、ファンのことね。」
わざわざ2時間も離れた町から来る理由はそれくらいしかないだろう。
「そんなことで来て美嘉さん(←兄嫁)も呆れてるんじゃないの?」
兄はムッとしたまま「美嘉はおろおろ心配するくらいなら行って来いと言った。」と勝手に食卓につきます。
美嘉さんこんな兄でゴメン。
「二時間もかけてくるくらいなら電話すればいいじゃないの。」
冷蔵庫から麦茶を出してドンと兄の前に置く。
「で、ごはんは?」
「車で食べた。」
兄は麦茶を口にすると「前の男とは別れたのか?」とこちらの様子をうかがっている。
「ゼットさんは彼じゃないわ。事情があってうちにいただけよ。」
ファンのほうをチラと見て「お前は彼氏じゃない男と抱き合うのか。」と吐き捨てるように言った。
ファンがグラスをカタンと音をたてて置いた。
「・・・どういうことかな?」
目が笑っていない。
「あれは・・・まっ、」
兄に魔力を感じる練習中と言っていいものか。
ファンの耳に手を当ててボショボショと小声で「兄が来た時に魔力を感じる練習をしてた。」と伝える。
「・・・いや、俺の過失だ。それにアイツも悪い。」
ファンの声が少し震えている。
「ごめん。」
ファンと二人小声でやりとりしていると兄が「そこ、二人の世界に入らない!」とつっこんでくる。
私はため息をつくと「・・・お兄ちゃんに大事な話があるの。」と兄を見つめた。
兄はぶるぶると震えだして「あーちゃんはまだ嫁にはやらんぞ!」と、まさにシャウトする。
「ファン、ごめん。うちの兄は重度のシスコンで口癖みたいなものだから気にしないで。」
「"しすこん"?」
・・・ファンの知らない言葉だったらしい。
「えーとね、姉妹が大事すぎてちょっと行き過ぎになっちゃった人のことよ。」
残念な兄をチラリと見る。
「ちょっと待ってて。」
私はバッグの所まで行ってスマホとギルドカード(仮)を持ってきた。
木の角に穴が開いていたのでストラップをつけてある。
「なんだその通行手形みたいな木札は。」
兄がギルドカード(仮)に手を伸ばす。
「どこの土産モンだ。」
これと今の話に何の共通点が?と疑問をアリアリと浮かべている。
「これ、私のギルドカードなの。」
「何?ネットでオンラインゲームでもしてるのか?」
兄らしい発想に私は首をフルフルと振った。
「ファンの見せてあげて。」
ファンは少し逡巡して"収納"からカードを取り出した。
「手品か?」
兄は空中からカードを取り出したファンの手に注目する。
銀色の不思議な光沢のカードだ。
自分の指輪を見比べてやはり同じような金属だと確信する。
「仮がとれたら鉄製に、Bランクから魔法銀カードになる。」
「・・・あーちゃん。」
兄が沈痛な面持ちでこちらを見ている。
「その男は現在進行中で厨二病・・・」
私は皆まで言わせず「ファン、"光"お願い!」と遮る。
ファンは即座に"光"を発動した。
兄は事態を飲み込めずポカンと"光"の光を見つめている。
ここで私は超特大の爆弾を落とした。
「お兄ちゃん。私、ファンのプロポーズを受けたの。」
正確にはプロポーズの前フリみたいなものだけどね。




