まさかまさかの・・・
ファンの隣でぬくもりを感じて眠りについて夢を見ました。
*
土曜日からずっと探していた"おやっさんの店"だ。
「あっ、ファリサちゃん!珍しいね、こんな日に。」
常連のタムさんが声をかけてきた。
実はタムさんて田村さんの愛称かと思ってました。
ちなみにファリサとは"アリサ"と言ったのに通じなくてファリサになってしまったという経緯がある。
同じく名字の"川原"も何故か"カーラ"になっていて、私はここでは"ファリサ・カーラ"というらしい。
恥ずかしいので自称"リサ"で通している。
一体私は何人やねん!と密かに突っ込んでいたが、異世界と知ってからは納得した。
うまく言葉は翻訳されているようだけど、名前はきちんと伝わらないようだ。
「タムさんお久しぶり!あ、おやっさん、いつものお願いします。」
いつものように決まった席に座っておやっさんからお酒を受け取ると「この前一緒に帰った冒険者どうした?」と聞かれました。
「そうなんですよー。聞いてくださいよ。ファンは今うちにいるんですけど、なんか帰れなくなっちゃって困ってるんですよー。」
「何、怪我でもして動けないの?」
「元気ですよー。ただ、何かわからないけど帰れないんですよね。お連れの人探してたんじゃないですか?」
そこでおやっさんが鶏肉にハーブをふって焼いたものを出してくる。
「なんか行き先を尋ねられたなぁ。ファリサちゃんの家知らないし。」
「あははー、ごめんなさい。でもファンは約束があるからちゃんと帰る予定だったんですよ。なのに不思議な事にここまでたどり着けなくて。」
「とか言って気に入って監禁でもしてるんじゃないの~?」
タムさんが口をはさんできた。
「何言ってんですか、タムさん。あんな屈強な人をどうやって監禁するんですか。」
「屈強って、ぷっ。」
おやっさんとタムさんは顔を見合わせて笑っている。
「あんなぼうず・・・ファリサちゃんの手管でメロメロにしてベッドに縛りつけてるんじゃないの?」
ぶっ。
タムさんの言葉に思わずお酒を吹いてしまった。
「何、その手管って!私どんな女なんですか、もう!」
プリプリと怒って焼いた鶏を食べる私。
「だってなぁ・・・。確か成人したてくらいの若造だろ?純情そうだし、言い寄ってきた年上女にどっぽりはまったっておかしくないもんなぁ。」
「おやっさんものらないでって・・・え?成人したて?そんなに年下だったの?てっきり同じくらいかと思ってた。」
「ファリサちゃん初めてここの店に来てから5年だろ?最初はどこのガキが来たかと思ったけど、もう21かぁ・・・早いよな。」
「そうそう、私は成人してます!ってタンカきってたよね。なつかしいなぁ。なのに今じゃ立派な嫁き遅れに片足突っ込んでさ。丁度いいからあのぼうずたぶらかして嫁にしてもらえや。・・・いや、ファリサちゃんは"家名持ち"だから貰う方か。」
・・・今、何か聞き捨てならないことを聞いたような気がします。
私・・・26歳です。
21じゃなくて27って言ったんだよね?
「誑かすなんて人聞きの悪い。私、ぜっんぜん誑かしてませんよ!」
お酒をあおるとマスターは「もう十分たぶらかしたんじゃないの?連れをほったらかして戻ってこないしねぇ。」とニヤニヤ笑いました。
そ、そりゃあ年下とは知りませんでしたが、合意の上です、合意!
「もうちょっとしたら、ファンと一緒に絶対またここに来ますから!」
散々からかわれて、お酒をカウンターにどん!と置いた瞬間に目が覚めてしまいました。
*
「リサ・・・?」
目覚めた瞬間にビクッとなってしまったせいか、一緒に寝ていたファンを起こしてしまったようです。
「あ・・・ごめん。夢見てたみたい。」
「また"ごめん"て言った。」
ファンに額にそっとキスをされて「"ごめん禁止"だったね。」と、そっと笑いました。
「あんなに探しまわったせいか"おやっさんの店"に行った夢見ちゃったよ。店の名前聞いてくるの忘れた。」
「リサは夢でまで律儀だな。」
ファンの声がおでこのあたりから響きました。
「・・・夢の中で、みんなにファンのこと誑かして監禁してるんじゃないかってからかわれて、怒った瞬間に目が覚めたの。」
「はは。半分くらい当たってるかも。」
またファンは額にキスをします。
「リサがいるここから帰りたくない気持ちもあるし、リサを向こうに連れて行って返したくない気もする。自分がどこにいるかわからなくなって、・・・正直言うと最初はリサは自分を誑かす魔物か魔女か何かで、ここに閉じ込める魔法でも使ってるのかって疑ったこともある。」
「えっ、そうなの?!」
思わず胸に手をついてファンから抜け出そうとすると、ファンに強く抱きとめられてしまいました。
「今はそうは思ってない。もし、リサが俺を誑かす魔女でも、そのまま"誑かされてもいい"と思ったのは本当だ。」
ファンはそのまま私の髪の中に手を差し入れて唇を寄せてきました。
「んっ。ふっ。」
激しい口づけの応酬を繰り返し、二人はお互いに服を脱がせあいました。
えっと・・・まだたぶん夜中だよね?
明日・・・いえ、"今日の朝"まで時間もあるし、いいや、もうどうにでもなっちゃえ!
「私が誑かすんじゃなくて、一目見て・・・たぶん・・・私がファンに魅入られたの。大好きよ、ファン。」
*
「・・・そう言えば、今さらだけどファンて成人してるよね?」
夢の中のおやっさんやタムさんがやけにリアルだったので、つい質問してしまいました。
ファンは「もちろん。もう成人して二年も経つ。」と私の髪の毛や耳をいじっています。
・・・良かった。22って若いけど4才差くらいならアリだよね?
「リサはあの店は長いみたいだな。すっかり常連みたいだ。」
ファンの指がくすぐったくって頭をちょっと振ると、「成人式の日に初めてあの店に行って、えーと5年くらいかな。もうすっかり顔なじみになっちゃった。」と答えました。
「なかなか成人してすぐにあの店に入れる剛毅な女性はいないぞ。」
ファンは可笑しそうに私の髪の毛を指で巻いています。
「かなり酔ってたからね。私は成人してるから、ミルクじゃなくてちゃんとお酒下さいって啖呵切ったみたい。今でもからかわれるもん。」
「出会ったあの日も酔ってたな。だから本気かどうか測りかねたし、俺はかなり迷った。」
今度はファンがチョンと指で鼻をつついた。
「これでも私、人生で初めて男の人を口説いたのよ。黙って帰ったら絶対後悔するって思って必死だったし。」
「へえ。」
あまり信用してないような目で見られているような気がします。
「家まで連れて来た人なんて今までいないんだから。」
一昨年まで兄が家に住んでいたという事情もありますが、そこは黙ってます。
今度は私がファンの髪の毛をいじります。
「いい眺めだ。」
ファンは私じゃなくて胸の方を見ていました。
さんざん見て、触って、な、舐めたりしたくせに何を言ってるのでしょう。
「もう!」
ファンの顔を両手で視線が会うように持ちあげます。
「私の方がファンより年上なのに、全然いいようにされてばっかり。」
両手で挟んだ顔の上の方・・・ファンがするように額を狙ってキスをしようとすると、ファンは唇を合わせてきました。
「年上っていっても3つくらいだろ。リサは年より若く見えるからそれくらいでもいいんじゃないか?」
「3つじゃなくて4つ上よ、ファン。」
後でしづらい話は先にしておきましょう。
「そう?21じゃなくて22か。別に気にならないけど。」
え、また21?偶然?
「ちょっ、ちょっと待って。ファン、今何歳?」
「待・た・な・い。」
また唇を首に落とすファン。
22ひく4・・・
「あ、首に痕つけちゃダメ!・・・もしかしてティルディグの成人って、16歳?!」
首にキスをして少し吸おうとしていたファンはそのままの体勢で「何を今さら。」と言いました。
その時、頭の中に一番に浮かんだ言葉は 青 少 年 保 護 育 成 条 例 違 反 ? でした。