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ギルドでお茶を

「お茶おいしいですね。」


何かのハーブっぽい匂いのするお茶を飲みながら、ダリヤさんとほっこりしています。


たとえ目の前のダリヤさんが怪しげな灰色のローブのフードが顔の半ばまで覆われていても気にしませんたら気にしませんとも!


同じく喫茶コーナーには、荒くれ男(笑)と思われる人たちが同じようにお茶をすすっていた。


ギルド内のこのスペースではギルドカードを提示すれば、お茶だけは何杯でも無料でいただけるシステムになっている。


カードがない場合は5スウェン(かなり安いらしい)でお茶の提供があり、今も待ち時間をつぶしたり、お茶を片手に何か相談している人達も何組か見受けられます。




正直なところ、初めての"冒険者ギルド"は市役所か銀行のような場所に思えました。


カウンターには3人のおじさまが座っていて、その奥には数人の職員らしき男の人が何か作業をしています。


そしてカウンターの並びには換金所?と個室があり、その個室はトイレや着替え場所ではなく、人に見られたくない人用の換金所とダリヤさんに聞きました。


この大きな建物は冒険者ギルドだけではなく、魔術師のギルドと商業ギルドの出張所(支部)も入って・・・というか、同じ階の並びにあります。


壁には何種類かの掲示板があって、そこには依頼が貼ってあるよう(字が読めないのでダリヤさんに聞いた)です。


私のように字の読めない人向けにカウンターの並びには相談コーナーもあって、レベルにあった依頼を斡旋してくれるとか。


この世界の識字率は思ったほど高くないようで、ギルド内では字が書けない人向けに代筆サービスもありました。


「24番でお待ちの方どうぞ。」


自分たちが呼ばれたので、渡された番号札をもったダリヤさんと一緒にカウンターに向かいます。


まさに日本のどこかで見た光景。




「ファリサ=カーラさんの仮カードが用意できました。こちらのカードは・・・」


私のギルドカード!


3人のうちで一番ダンディーなおじさま(*私の評価で)が、カウンターの上に乗せたのは・・・




焼 印 の 押 さ れ た 木 札 で し た 。




・・・ファンのは不思議な銀色をした金属のカードでしたが?


仮カードだから木なのでしょうか。


おじさまの説明を聞いていると、ダリヤさんが急に「すみません!ちょっと急用ができましたのでここでお別れしてもいいでしょうか?」と焦った様子になりました。


・・・?


急用ってトイレとか、知り合いでも見かけたのでしょうか?


「あ、はい。ここまで送っていただいてありがとうございました。」


私が頭を下げている間にダリヤさんは走って行ってしまいました。


「説明を再開してもよろしいですか?」


目の前のダンディーなおじさまが説明の続きを聞いて理解できたのは、正式なカードを持つのに指定された初級ランク以上の依頼を10回こなさねばならないということでした。


そういうことで私はまだ初級ともいえるEランクにもなっていない状態です。


本当にこの最初でつまづいてしまう人がいるそうで、そういった人(主にやる気にない人?)を対象に(ふるい)をかけるために仮カードシステムがあるとのことでした。


「(仮)がとれるまでは、この裏の10個あるマスに印をつけていきます。最初の10回だけは成功報酬に対して税金がかからないシステムになっていますのでご安心を。また途中でカードを放棄された場合は返金したしませんのでご留意下さい。そしてこれは大事なことですが、どのような依頼でも悪意を持って途中放棄した場合は違約金と制裁が発生いたしますのでしかと忘れぬようにお願いいたします。」


なるほど木札の裏には5個並んだマスが二段あり、ポイントカードのようだと思ったのでした。


「カードの説明は以上です。後は正式なギルド員に昇格されましたら追って説明いたします。それでは健闘をお祈りしております。」と、おじさまはにこやかに私を追い払ったのでした。


木の札だけ持ってお茶の置いてあるテーブルに戻ります。


テーブルの上には空になったカップがあるはずが既に片づけられていました。


他の席を見ると喫茶コーナーでお茶をくれたおじさんが片づけています。


おじさんに近づいて「片づけていただいてすみません。」と頭を下げると、「全員が席を離れたらトラブルや毒物の混入などを避けるために片づけるから覚えといて。」と教えられました。


日本のように荷物置きっぱなしにしたら一発で消えそうです。


「わかりました。ありがとうございます。」


そろそろ"おやっさんの店"に移動しようと思っていると、冒険者ギルドの入り口からまた真黒な上下を着たゼットさんが入ってきました。


サリエルさんといいゼットさんといい、黒・・・好きですね。


夜道で会ったら黒くて気づきませんよ、きっと。


ちなみに私の知る限り、ファンはアースカラーが好きです。




ゼットさんは喫茶コーナーの方はまったく見向きもしないでカウンターに進んだので、どうしようかと迷った後にとりあえず挨拶しておくことにしました。


番号札をもらったゼットさんが振り返り、私とばっちり視線が合います。


「ゼットさんお久しぶりです。」


「ア・・リサ?どうしてここに?」


ゼットさんの疑問にこたえるように「じゃーん」と仮カードを見せました。


すると微妙な間があって「・・・登録したのか。」とあまり歓迎されていない様子の反応があり、視線を喫茶コーナーの方に向けて「少し茶を飲んで待っていてくれないか?」と背中をポンと押されました。


ゼットさんはきびすをかえし、カウンターで何やらやりとりをして番号札を戻しました。


そして当然のように個室に入って行きます。


・・・何か見られたくないものを換金しているのですかね?




個室の方をぼんやりと眺めていると、奥からバタバタと人が走ってきてたぶん個室の後ろに入って行きました。


急がしたから慌てて係の人が来たのかな。


係の人が入った直後にゼットさんは個室から出てきました。


早っ!


まだお茶を一口飲んだだけなのに。


「アリサ、夕食はまだか?」


「・・・はい。"おやっさんの店"でテキトーにつまむつもりだったので夕食は考えていませんでした。」


ゼットさんは少し考えてから「・・・じゃあ、"おやっさんの店"で食べるとするか。」と私の横に座りました。


「ゼットさんもお茶はいかがですか?」


お茶を勧めるとゼットさんは私の耳に口を寄せ「ここだけの話だが、その茶には鎮静効果のある薬草が入っている。」と小声で教えてくれたのでした。


鎮静効果・・・。


小声で囁くところを見るとおおっぴらには言えないことなんでしょうね。


「飲むと何かまずいことでもあるんですか?」


私もゼットさんに耳に口を寄せて小声で囁きました。


「いや。単に気分が落ち着くだけだ。」


なら小声で言う必要はないんじゃ・・・?


私の顔を見て「"素"でああいう奴もいるからな。落ち着かせるためにわざわざ"無料配布の措置"なんだ。」とカウンター前で喧嘩腰でやりとりをしている男性を視線でさすゼットさん。


要はハーブティーみたいなものなんですよね?


こっちの人はリラックスするためにそういうお茶を飲む習慣がないのでしょうか。


よくわからないので首をかしげていると「言ったら無料でもわざわざ飲まなくなるからな。」と苦笑されたのでした。


8/25 誤字訂正

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