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月曜日は容赦なくやってくる

「あんたねぇ・・・。」


目の前で弁当をつつきつつ、同じ営業店にいる同期のユッカ(本名は優花(ゆうか))は呆れている。


ここは『あなたの町の"○○信用金庫"』の本店にある4Fの女子休憩室です。


本店と言っても地元や近隣で展開しているので支店もあわせて十数店舗程度しかありません。


「家に帰ったら金目のものが全部なくなってて、男がドロンに5000ペソ賭けるよ。」


ユッカは高いんだか安いんだかわからないレートを持ち出してきました。


「そんなこと言うなら弁当返してよ。」


弁当に手を伸ばすと、ユッカはさっと横に避ける。


今日はお弁当を二種類作って持ってきたので、メールで連絡しておいてひとつをユッカに融通したのでした。


いつもは朝コンビニで購入してくるユッカは、最初は「女子力アピール?」と笑っていたけど、理由を聞くにつれてしぶい顔になっていった。


一つはファンのお昼用。


もう一つは保険でファンの夕食用になった時のために二種類作っておいた。


今日の帰りはファンが食べられそうな冷凍パスタやレトルト食品を購入しておかなくてはならない。


うっかりしていて朝になって食事のことに気づき急きょ二種類の弁当を作った私。


ファンは食べるものにはこだわりがなく、食べられるものは何でも食べてくれるそうだ。


さすが冒険者。


今度梅干しか納豆を出してみようかと悪戯心の芽が出るが、やめておこうと心の中の良心がそれを止めた。


ファンには昨日いろいろ説明したり訓練したので、電話と電子レンジの使い方はバッチリのはず。


メールは文字の関係で打てない・読めないで不便ではあるけど仕方ありません。


ただガスの使用は不安が残るので使わないようにお願いしてきた。


家は自分の家でもあるけど、半分は兄の名義になっている。




昼休みの女子休憩室・・・普段は人がそれなりにいるが、今は忙しくて少し休憩時間がずれこんだ二人だけだった。


「知り合ったばかりのよくわからない外国の男に鍵を預けて家に残してきたなんてすごいチャレンジャーだよね。」


そうは言ってもファンにはこの世界?に家以外に行く場所はないし、連れ帰ったのは自分だから当たり前だと思う。


「ヒトメボレだからいいの。荷物が無くなってたらそれはその時よ!」


本当の貴重品は職場の貸金庫にあるからそれはないけど。


さすがに友人のユッカにも本当のことは言えなかった。


自分でも頭がおかしいと思われるのがオチだと思う。


「あんた最初の男以外ハズレ引いたことないもんね。ま、いいんじゃない?」


ユッカは「ごちそうさま」と弁当の蓋をしめている。


「今日は仕事終わったらすぐ帰るから。」


「あー、ハイハイ。ダーリンと仲良くどうぞ。」


ユッカは歯ブラシを持ち出して歯を磨きに行った。


自分も化粧直しに行かなきゃと思いつつ、先にファンに困ったことがないか電話しておく。


少し遅れて電話にでたファンは「食事はとった。大丈夫。」と言った。


遅くなる時は電話するからと電話を終わらせた。


休憩時間がずれこんだ時は最低限しか休めない。


早く仕事に戻らないと・・・。


営業時間は15時までだけど、だからと言って早く帰れるわけではない。


今日も無事に終わりますように。







しかし、現実は甘くなかった。


「99,871円?!」


その声にシャッターの降りた店内が急に慌ただしくなる。


「何その数字・・・。現金もう一回確認して。伝票も。」


「10万・・と・129円?」


皆自分の持ち場で再度チェックを始める。


ゴミ箱もチェックしている。


しばらくして「すみませーん!手数料で630円出ました!」と遠くから声がかかった。


「10万501円に増えましたー!」


「伝票合いましたー!」


「為替OKです!」


「今日エラーなかった?」


「バランスやって!」


この時点で亜莉紗(じぶん)は早く帰れないことを悟ったのでした。







「ただいま・・・。」


力なく玄関に入るとファンが心配そうに出迎えてくれました。


「リサ、大丈夫か?」


「うん。初日から遅くなってごめんね?」


家で誰か待っててくれるっていいな・・・と思いつつ、ファンが好きでここにいる訳でないのを思い出して少し凹みました。


「滅多にないけど、私の仕事は時間が読めない日もあるから・・・急に遅くなったらごめんね。」


今日は21時までには判明したけど、最高は日をまたいだこともあります。


「そういえば、ファン。ご飯食べた?」


「リサの作ってくれたベントウをもらった。リサは?」


「今日はもう食欲ない・・・。」


力なくバッグとコンビニの買い物袋を床に下ろし「化粧落としてくる。」と洗面所へ。


お風呂も億劫だけど、明日も仕事だし入らなきゃ。


どうしても入れない日は朝に入る。


「リサはただでさえ細くて軽いのに大丈夫か?何か食べた方がいい。」


ファンが洗面所までついてきて熱心に食事を勧めてくれたけど、ファンの国では細いかもしれなくても客観的に見て日本では"細い"範疇には入っていないと思います。


「んー、いいよ。もうお風呂入ったら寝るから。」


少しだけファンの腕の中を堪能して唇にチュッと音をたててキスしました。


「ファン。本当にごめんね。」


「リサは口を開けば"ごめんね"ばかりだ。これから"ごめんね"は禁止する。」


そんなに謝ってばかりだったかな。


「俺はけっこうここ(・・)を楽しんでる。リサもいるし、向こう(ティルディグ)に帰ったとしてもいつでも仕事には困らないくらいの腕もある。ちょっと勝手に休暇を楽しんでるだけだ。だから謝るな。」


「ファン。金曜日になったら、また"おやっさんの店"を探すからね。絶対向こう(・・・)に帰すから。」


一昨日から二人でじっくり話し合った結果、やはり二人の住んでいる世界は違う場所らしい。


ファンはいわゆる"異世界人"なのだろう。


ファンから見れば自分が"異世界人"になる。


最低でも月に1回(今考えると必ず金曜日)5年間は自分も"おやっさんの店"に通っていた。


だからこの先・・・絶対にファンが自分の国に帰れないとは思っていない。


向こうに帰ってもファンはあの町に住んでいる訳じゃないから、今度はいつ会えるかわからなくなる。


遠距離恋愛・・・にも程があるなぁ。


歩いていける距離にいる(・・)から案外遠距離でもないかもしれないけれど、電話やメールは通じないだろう。


もし、急に向こう(・・・)に行けなくなったらどうなるのかな。


怖い想像を頭で振り払ってファンの逞しい体をぎゅっと抱きしめた。









リサの仕事の内容で何か間違ってたらすみません。

バランス→一枚の伝票に対して、組である他の伝票の金額内容が釣り合っているか調べることらしいです。


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