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ファンの場合

やっと相方登場です。

俺には二人の兄がいる。


二人の兄は"眉目秀麗"とにかく"優秀"であるとしか表現できない。


文武両道で親の期待通りに優秀な成績を修め、長兄は家を継ぎ、次兄はその補佐となった。


これで家も安泰と語っていた両親に自分は空気のような存在で、俺は三男でいてもいなくてもいい存在・・・のはずだった。


昔から両親の望む方向に進まず、反抗的だった自分は使用人と仲良くしたり、市井に降りて好き勝手した挙句、成人してすぐに家を出て冒険者になった。


兄達はその事実を把握していて目をつぶってくれていたが、両親がそれを知っていたかは定かではない。


家を継ぐ者・そしてもしものための継承者が揃った時に、次は家と家をつなぐための駒・・・つまり政略結婚させるために"女"が欲しかったらしい。


自分が生まれた時に"ファンリエッテ"という名前が用意されていたのもそのせいだ。


もはやどうでもいい話だが、女に生まれなかった時点で親の期待に背いてしまったらしい。


この国ではかろうじて男名でも通るが、本来なら女名のそれは本当はあまり好きではなかった。







「・・・で、どうして家から出てはいけないと?」


久々に俺と会った母親は、労働を知らない白魚のような手に芸術的な絵を施された紗の扇を持ち、顔を半分隠している。


その表情は隠しようもない嫌悪に彩られていて、現在の自分の姿がお気に召さないようである。


よく手入れされた金色の巻き髪は高く結い上げられ、リサが好きだと言ってくれた俺と同じ空色の瞳、そして柳眉を逆立て、上品に化粧された顔には口に刷かれた紅だけが異様に目立ったが、先ほどからそれは扇で隠されていた。


絹のドレス・・いや、あの光沢は魔物である蜘蛛のものだろう。


知っていたら母親が着るとはとうてい思えないそのドレスは一着で庶民が家族で何十年暮らせるかわからない高価なものであった。


いつもそのようなドレスだが、今回のは群を抜いているはずだ。


母の後ろには無表情の侍女が二人つき従っていて、母の一挙一動を逃すまい・・・いや勘気に触れないようにだろう・・・としている。


「ファンリエッテ。そのように山賊のようないでたちをしていないで、すぐに身を清めておいでなさい。なんですか、その頭は。マエジャーマの家の恥にならないようになさい。」


母親は実際に山賊など目にしたことはないと思うが、自分は彼女の想像の中では山賊と同じレベルの姿をしているようだ。


自分はいつもの冒険者の着る"斬る力に強い編み方をしたシャツ"を身につけ、火や熱に強い繊維の草色に染めたズボンを身につけている。


もともと見栄えを良くするための衣装ではないので、外でも目立たないような自然の色をしたものだ。


確かに見た目は薄汚れているように見えるかもしれない。


頭のことも、成人の時に伸ばした髪を庶民のように短く切ったことを指している。


ティルディグでは昔は男女ともに髪を伸ばす慣習があった。


だが、それは今となっては薄れつつあり女性のみ長い髪の毛を大事にするにとどまっていたが、いまだに上流階級では昔の慣習が根強く残っている。




「母上。私はどうして家から出てはいけないかと尋ねているのですが?」


母親につきあう気はサラサラない自分は鼻白んで話を元に戻した。


そもそも今日もここに来る予定ではなかった。


次兄が病に倒れたと言伝があり、ここにやってきたのだ。


その病気とやらの兄は宮廷に伺候しているらしい。


「晩餐で話します。」


意図的に自分と距離をとっている母親に「私にも都合というものがあるのです。明日にはトランセットに向かう予定ですので。」と告げると「そのようなものは取りやめてしまいなさい。」と返答があった。


そのようなもの?


「母上。私は冒険者です。もう依頼も受けておりますし、その依頼を放り出すことは信用にもかかわります。用があるなら今おっしゃってくださるか、時間があるときにでもまたお願いいたします。」


温度のない瞳と抑揚のない声でそう告げると「冒険者などと野蛮なっ・・・。」とつぶやきが聞こえた。


「その野蛮な冒険者だった先祖が、時の王よりマエジャーマの姓を賜ったと記憶しておりますが、母上?」


母親には何を言っても話が通じないのはわかっている。


都合が悪くなった母親は「・・・では晩餐で。」と踵を返して部屋を出て行った。




誰もいなくなった部屋で深くため息をつく。


病気でなくともどうせ家に来たのなら兄には会いたかったが、このまま晩餐まで滞在すれば面倒に巻き込まれると自分の勘が告げていた。




首都の貴族街から自分の部屋のある下町までは門が3つある。


入門の資格があるように見えない今の自分が門をあがってここまで来るのはそれなりに面倒だったが、そうも言ってられないようだ。


こんな所で堅苦しい食事に面倒を押しつけられそうな話をするよりは、下町の安くてうまい酒場の方が自分には合っている。




今日はこのまま逃げてしまおう。


そして自分の部屋でゆっくりと休んで明日に備えよう。




自分の部屋もいいが、リサに会いたい。


リサの手料理を食べて、一緒の寝台に二人で眠りたい。


こんな冷たい家じゃなくて、二人だけの温かな生活が懐かしい。


自分勝手な願いだが、早く自分の元に来るように頼んでみようか・・・。




今度リサに会って謝ったら、あの時のことを(ゆる)してもらえるだろうか・・・。


自分が剣を向けていた相手と共に消えたリサ。


あの男と二人でリサの世界に戻ったのだろう。


そう思うと、胸が苦しくてやりきれなくなる。




ああ、早くリサに会いたい。

ファンの名前は【ファンリエッテ=ルガル=マエジャーマ】で、ほとんど女名のため【ファン】とのみ名乗っています。

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