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"おやっさんの店"を探せ!

一度家に戻りました。


ファンはあれからずっと難しそうな顔をしています。


この調子だと約束の時間に間に合わないのかもしれません。


床に座り込んで考え事をしているファンの背中に抱きついて「このまま見つけられなくて約束の時間に遅れたらゴメン。」と謝っておきました。


「うちじゃなくて、ファンの宿に行けば良かったね。」と顔をつけたまま言うと、ファンは咳払いをして「・・・あそこは壁が薄くて音が筒抜けだから、ここで良かったと思う。リサの()を誰にも聞かれたくない。」とぶっきらぼうに答えました。


筒抜けは勘弁して!


「約束は・・・、仕事の依頼を受けるかの話をしに来ただけだったし、まだその話もしてないから縁がなかったということだ。」


「えっ、仕事の話って商談か何か?大変!」


思わず背中から顔を離したとたんにファンが振り向いて「大丈夫だから、ちょっと落ち着いて。」と抱きしめられました。


「俺もちょっと落ち着かないとダメだ。リサ。しばらくこうしててもいいか?」


「ファンなら、私はいつもウェルカムよ。」


ファンの脇に両手を回して抱きつき返します。


「・・・いい年をして迷子になるんて情けない。」


ファンが自嘲ぎみにそう漏らしたので「外国だもん、迷子になっても仕方ないよ。」と慰めます。


「確かに外国だな。」と苦笑するファン。


「良かったら今日もうちに泊ってくれる?」


ファンの空色の瞳が少し揺れました。


「ダメだった?」


脇に回していた手をファンの頬に添えます。


「ファンと一緒に・・・いたいの。」


「・・・俺は・・・。」


ファンは少し逡巡して、私のキスを受け入れてくれました。


自分でもどうして昨日出会ったばかりの人がこんなに離れがたいかわかりません。


本当に一目惚れってあるのね・・・と、二人で甘い口づけをとめどなく繰り返したのでした。







夜になって、ファンと再度"おやっさんの店"を探しに行くことになりました。


一応二人で家で食事をしてお酒も飲んで遅い時間に出発です。


今回ファンは大事な剣を家に置いてきました。


「"おやっさんの店"についたら絶対お店の名前と住所と電話番号聞いておくんだから!」


午後に辿った道を順番に二人で仲良く歩いて行きます。


でも、今日はいつも何かの屋台が出ているあたりで店をみつけることができませんでした。


「お酒が足りないのかなぁ・・・。それとも屋台は土曜日は営業してないのかな・・・。」


いつも"おやっさんの店"に行く日は金曜日の仕事が終わってからです。


「・・・どうしてみつからないんだろう。」


足が棒のようになるまで何回もうろうろと歩きました。


2時間ほど歩くとファンが「もう今日は家に帰ろう。」とため息をついて自分を家の方に引っ張っていきます。


「あれ?もううち覚えたの?」


ファンは迷いなく家の方に進むので尋ねてみると「二回も往復すれば覚える。」と言ってから速度を緩めました。


「リサ、疲れたんじゃないか?背負うか抱くかするぞ?」


えっ。


「だ、大丈夫。気持ちはうれしいけど家までそう遠くないから!」


実はすっごく足が痛いけど、ファンには言えません。


「歩き方が変だ。」


ファンが心配そうに足をみつめています。


「大丈夫だって。久々にたくさん歩いたからだよ。」


すると私の前にひざまつくと、痛いほうの足の靴を脱がそうとしています。


「やっ、いいって。」


「家の前に路線があるのなら、鉄馬車とやらに乗るか?乗り場はどこだ?」


タクシーは路線を走ってませんから、好きな場所まで送ってくれますよ。


「ファン。歩いて帰れるから大丈夫。もう立って。」


ひざまづくファンを立たせて、痛みをこらえて歩きだします。


ファンの視線が足にあるような気がしていると、ファンは無言で私を子供をだっこするように軽々と抱きあげました。


「ふぁっ、ファン!」


「リサなんて羽みたいに軽い。だから遠慮するな。」


そのままスタスタと速足で歩きだすファン。


「ちょっ。恥ずかしいって。」


「首につかまってろ。走るぞ。」


どっひゃー!!


景色がっ、ものすごいスピードで流れていきます。


願わくば知り合いに会いませんようにっ!







さすがあの剣を軽々と扱うファンです。


あっという間に家に着きました。


時間も時間なので近所の方に会うこともなくセーフです。


「リサ。鍵開けて。」とファンに促され抱っこのまま鍵をまわしました。


玄関に入ると、ファンはそっと私を座らせて靴を脱がせてくれます。


「電気・・・」と手を伸ばそうとすると「リサ、いい。俺が。」と手を出しました。




「"光よ(ライト)"。」




ファンの掌から生まれた明るい光の玉が天井に飛んで行って、たちまち玄関が明るくなりました。







「リサ。ほら、ここ血がでてる!」


ファンにソファに座らされ、足を持ち上げられている私はどうやら靴ずれで怒られているようです。


いえ、そんなことより気になることが・・・。


さっきの光の玉が私たちの上の天井にあるので、ものすごーく興味があるんですけど。


ファンは靴ずれ部分に唇を寄せてキスします。


「あっ、ちょっ、足なんて汚いって。」


「"癒しを(ヒール)"。」


今度は足の痛みがゆっくりおさまっていきます。


いま"ヒール"って言ったよね?!


驚きに目を瞠っていると「どうした?」とファンが足を戻しました。


「どうしたって・・・ファン。・・・もしかしてそれ魔法?」


「?リサも使ってるだろう?何か?」


私が?


「この部屋を明るくしたり、風呂を用意したり、厠や台所の水や、薪もかまどもないのに火を使っていただろう?昨日から疲れてるのにそんなに無理しなくてもいいのに。」


私のは電気とガスと水道だけど?!


「ファン・・・ちょっと待って。頭が混乱してる。」


魔法?


本物の剣?


鎧?


ギルドカード?


え、ちょっと待って。


これって昔の黒歴史がぶり返した私の誇大妄想じゃないの?


それとも私、まだ酔ってる?




「混乱て?」


ファンがソファの前で膝立ちになります。


「ドリューズって、アザンプールって、どこの国にあるの?」


思考が纏まらなくて頭がクラクラします。


「首都アザンプールはティルディグ国にある。」


真面目なファンの答えにまだ頭がついていけません。


知らず知らずのうちにゴクリと喉を鳴らして肝心の質問をします。




「その国は地球のどこにあるの?北半球?南半球?」




「チキューは知らない。キタハンキューもミナミハンキューも知らない。それよりもアザンプールやティルディグを知らないリサに驚いた。」


私が驚いたようにファンも驚きを隠せない様子です。


二人して酔っぱらっている訳じゃなさそうなので、今"現実に何かが起こっている"のでしょうね。




「ドリューズはティルディグっていう国にあるのね?」


これ以上ないというほど真面目に尋ねるとファンも真面目に頷きます。


「"おやっさんの店"はドリューズにあるのね?」


またもやファンが頷きます。




「私・・・"おやっさんの店"に5年くらい通ってるわよ。一体どこに行ってたの・・・。」












やっと気づきました。


7/6 誤字訂正

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