兄 来襲
ぬるい空気を冷たくすることもなく雨が降り続いていた。
日曜日の午前中、特にすることもなく観るテレビもなく、食事も終えた私は今異世界間交流をしている。
・・・ゼットさんの膝の上で(汗)
*
気のせいかもしれないけど、昨日よりも密着度が上がったような気がする。
ファンもそうだったから、気にしすぎなのかもしれないけど、何か腑に落ちないような・・・。
でも真面目に修行?しているなら、照れたらゼットさんも恥ずかしいだろうと平気なふりをして魔力を感じる努力をしつつゼットさんと会話を続けた。
「ねぇ、ゼットさん。魔力ってどんな感じがするの?」
私の質問に「それを言ったら、アリサがそう思い込んで違うものを感じようとするかもしれないから秘密。」とにべもないゼットさん。
せめて魔力を感じるための"ヒント"が欲しかったけど、そう言われてはこれ以上聞きづらい。
「じゃあ・・・」
ゼットさんが何か言いかけた瞬間、急に後ろから自分を抱きしめる力が強くなった。
へ?また拘束ですか?と思っていると、全身をピリッとした感覚が走る。
「誰だ?」
後ろのゼットさんから聞いたこともないような鋭い声がした。
「だ、誰って?」
リビングには私とゼットさんしかいませんが?と言おうとして、正面の窓に人影が見えた。
「ぎゃっ!」
外側から両手を窓についたずぶぬれのうらめしそうな・・・顔だけの男・・・。
一瞬オバケと叫びそうになった自分をきつく抱き締めたままのゼットさんの拘束を解こうと身をよじった。
「あ、あれ・・・兄です!」
「兄?」
ゼットさんの拘束が緩んだところで、窓へと駆け寄る。
「お兄ちゃん!なんで玄関から来ないのよ!」
窓をガラッと開けるとむわっと生ぬるい空気が流れ込んでくる。
「玄関にまわって!」
兄が何かを言いかけたが、それだけ言ってピシャンと窓を閉めた。
*
「あーあ、こんなにずぶ濡れになっちゃって!美嘉さんに怒られるわよ!」
ちなみに美嘉さんは兄の奥さんです。
玄関先でバスタオルで兄の濡れた頭を拭いてやる。
「暗黒時代の着替えとその前の着替えとどっちがいい?」
ファンとゼットさん用に出した服が洗濯済みなので、どちらでも対応できます。
「あ、その前のじゃ入らないか。暗黒一択だったね。」
「暗黒暗黒言うな!」
黙って頭を拭かれていた兄がやっと再起動したようです。
さっきまで自縛霊かというようなうらめしそうな雰囲気だったのに、普通の状態に回復しました。
「あーちゃん。この兄に何か言うことは?」
「風邪ひく前に風呂入ってこい?」
「違うだろ!」
三和土部分に立っている兄は、段差の高い部分に立っている私とほとんど同じ目線の高さだ。
その状態で凄まれたって怖くないし。
身長169センチ(自称170センチw)暗黒時代を経て今は体重が戻りつつあるが貫禄のある(ものはいいよう)兄は、言いたくはないがベースとなるつくりが私にそっくりである。
「アリサ。」
喧嘩寸前の私たちの後ろから、ゼットさんがすっとやってきて私の腰をさらった。
「アリサのお兄さんですね。お初にお目にかかります。私はゼット=サガラと申します。挨拶が遅れたことをお詫び申し上げます。」
にこやかに挨拶するゼットさんの行動に唖然としつつ、兄の方に視線を戻すと何やら怒りの表情をしていて驚いた。
しかし兄の口から出たのは「亜莉紗の兄の潤だ。」とごくありきたりな言葉だった。
兄は靴を乱暴に脱ぐと「邪魔する。」と家に入ってきた。
*
無理やり風呂場に押し込んだ兄にシャワーを浴びさせる。
「ゼットさん、なんかゴメンね。兄の機嫌が悪くて。」
何と説明すれば良いのかわからないけど、兄はシスコンと言ってもさしつかえないほどの男だったりする。
結婚する時も一緒に暮らしたいと言われたが、私が断った。
まぁ両親を事故で亡くしたり、最低な男にひっかかったりと兄のシスコンを悪化させるような出来事が色々あったのも事実だけど。
美嘉さんが兄と一緒になったのも奇跡的だったと思う。
そんな状態なのに、何が悲しゅうて新婚の二人の邪魔をする小姑にならなきゃいけないのよ。
最初は自分がアパートを借りるつもりだったけど、兄の転勤でここから車で二時間ほど離れた市に異動になり、兄夫婦はそちらで新生活をスタートしたのでした。
「・・・自分にも妹がいるから気持ちはわかるような気がする。」
ゼットさんの言葉に思わず「妹さん。」とオウム返しになってしまいました。
「妹が交際する時に相手の男の人となりを調べてみたなぁ・・・。」
懐かしそうに問題発言をするゼットさんに若干引いてしまいました。
兄と同類なのかも・・・。
そう思っていると「自分達も早くに両親を亡くして妹と二人で祖父母に育ててもらった。だから変な男にひっかかって欲しくなくて、つい。」と苦笑した。
ゼットさんのプライベートの話を聞くのは初めてだった。
「妹の選んだ男を信用しない訳ではないが、それでも妹自身じゃなくて彼女に付随するものに魅力を感じる人間も多くて・・・。」
そこまで口にした時にゼットさんが風呂場の方に視線を向ける。
そこにはTシャツとベージュのイージーパンツに着替えた兄が立っていた。
「よっちゃんにメールをもらった。」
よっちゃんて誰?
「あーちゃんを信用してたのに・・・。」
思わず「はぁ?」と語尾が上がった。
「こんなことならやっぱり一緒に暮らせば良かった。」
・・・。
「お兄ちゃん!26歳にもなる妹が何していようといいでしょーが!」
思わず腕を組んで仁王立ちになって雷と落としてしまいました。
「それをっ!こそこそ幽霊みたいにのぞき見してるなんてサイテー!それにメールって何よ?」
兄からはひんやりとした視線を返される。
「よっちゃん・・・牧野から、あーちゃんが金髪の外人と同棲してるって聞いた。なのに来てみれば別の男といちゃついてるし。」
マキノ?マキノ?よっちゃん?誰だっけ?
「そんな娘に育てた覚えは・・・。」
「育ててもらってないし!」
兄の言葉を一蹴する。
ファンと暮した二週間を兄の知人の誰か見られていたのだろう。
今はゼットさんだけど(汗)
「まぁまぁ、お兄さん。」
ゼットさんが紳士的な笑顔で間に入ってくる。
そしてさも当然のように私の肩を抱くと
「妹さんとのことは真剣です。ですから安心して下さい。」
と言ったのでした。
うわっ!ゼットさんツラッと真顔で嘘ついた。
私たちいつそんな関係になったよ?




