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説明で費やす一日ワンスモア

目が覚めたのはかなり日が高くなってからだった。


部屋が微妙に酒臭いような気がするし、自分もそういう臭いがしているような自覚がある。


「・・・あー、昨日風呂入らないで寝ちゃったか・・・。」


窓を少し開けて寝たが、暑かったのか寝汗のせいか頭もぐちゃぐちゃだ。


ベッドからのっそり起き上がって「シャワー浴びよ。」と独り言を言いつつ階下に降りる。




「アリサ、おはよう。」


一階に下りてリビングのドアを開けた時に一番に目に入ったのは、兄の古着のTシャツ姿のゼットさんだった。


・・・



昨日こっちに連れ帰っちゃったんだった!


思わずドアをバタンと閉め「すみませぇ~ん!」と二階の自室に逃げ帰る。




寝起きの姿見られた・・・!




頭はボサボサ、顔も洗ってない、しかも酒臭い(臭いまではわからないだろうけど)、暑かったからタンクトップにショートパンツ・・・向こうじゃはしたない格好だよ・・・。


シャワーを浴びる前に着替えるのには抵抗があるけど、ゼットさんの前を通らないとシャワーは浴びられないので苦渋の選択をしました。


ノースリーブだけど、コットンのマキシ丈のワンピでいいか。


髪の毛を手櫛で整えて、再度階下に降りました。




「・・・おはようございます。」


ドアの隙間からそっとゼットさんを窺って挨拶しました。


「アリサ、おはよう。」


ゼットさんはにこやかに挨拶します。


こんな明るい時間にゼットさんを見るのは初めてです。


「何か不便はありませんか?」


「宿のベッドより寝心地は良かったよ。」


ゼットさんに特に困った様子がないようなので安心しました。


「なら良かったです。」


食事の支度もせずに寝こけていたので、シャワーの前に食事の用意をしないと。


「遅くまで寝ていてすみません。すぐ食事の支度をしますので。」


「あ、気にしないで。携帯食料食べたから。」


ええっ。


「すみませんっ!」


勝手にこっちの世界に連れ帰って食事もなしで放置なんて私ったら・・・!


ペコペコと頭を下げる自分に「いいから頭をあげて」とゼットさんは目の前までやってきました。


「リサの家に泊めてもらってるだけでもありがたいのに、そんなに気を遣わないでいいよ。」


「いえっ、巻き込んでしまったのは私ですから!」


なおも頭を下げようとした私を制止しようと、ゼットさんは私の両腕をおさえて前屈しようとするのを止めました。


私は中途半端な礼のような状態で動けなくなってます。


「だから気にしないでいいって。冒険者としてはこの新しい土地にも興味があるし、旅行にでも来たとでも思うから。」


ゼットさんええ人や~!(エセ大阪弁で)


「本当にすみませんでした。食事がいらないなら私、ちょっと身支度してきます。その後にこの世界の説明をさせて下さい。」


「急がないからゆっくりどうぞ。」


ゼットさんはいつもの茶化すような笑いでなくて、やさしげな微笑みでそう告げたのでした。







シャワーを浴びて、身支度を整えるとかなりサッパリしました。


食事は今食べると昼食が中途半端な時間になるので、野菜ジュースだけにしてゼットさんに説明をはじめます。


この世界(というか日本)のこと。


生活するのに必要な社会や交通のルール。


剣や魔法を人前で使わないこと。


簡単な部分だけを説明し、後は外に出て実地で体験&補足説明です。


人間を襲ってくるものはそうそういないので、ファンの時は外出時にまず私のそばにいてもらい、都度説明をしていたのでゼットさんにもそうするつもりです。




ゼットさんは真摯に私の話を聞いてくれました。


「どんな時も相手に違和感を持たれず、平常でいればいいのかな。」


ゼットさんの出した結論はそんな感じでしたが、なんと言うかうーん・・・それでいいのかな?


ファンの時はパスポートを持っていないとバレなければ問題ないと思ってましたが、ゼットさんの容姿なら日本でも違和感はない感じだし、騒ぎさえ起こさなければ大丈夫!・・・なはず。


「じゃあ、今日はこの近くを二人で歩いてこちらの世界に慣れましょう。」


私がそう締めくくるとゼットさんが「世話になってばかりで悪いな。何かできることがあれば世話になる礼をしたいのだが・・・。」とファンと同じようなことを言い出しました。


「私が連れてきてしまったのですから・・・と言いたいですけど、冒険者の方って一方的に受け取るだけというのは主義に反するんですよね?」


ファンも"ギブ・アンド・テイク"的な関係でないと世話になれないと言ってたしなぁ・・・。


私の言葉に頷くゼットさん。


律儀というか・・・。


でも、きっと冒険者の中にはファンやゼットさんと違って悪い人やいいとこどりだけをしたい人もいるんだろうなぁ。


ファンやゼットさんがいい人で良かった。




何かしてもらうと言っても・・・ファンには最終的には家事をしてもらったけど・・・うーん。


何かないかな・・・。


そこまで考えて、ハッとひらめきました。




「魔法ですよ!魔法!私に教えて下さい!ゼットさん使えますよね?ゼットさんにしかできないことですから、教えていただければ助かります!」




いきなりハイテンションで詰め寄った私にゼットさんは少し動揺していたようですが「アリサがそれでいいなら。」とOKを出してくれました。


「で、何の術を?」とゼットさんが口にしましたが、私はまだ魔力を感じることもできません。


「実は、まだ魔力を感じる練習中でして・・・。最初の最初からお願いします。」と頭を下げました。


ゼットさんは少し目を見開いて「本当にここでは魔法が使えないのか・・・。」と独りごちました。


・・・そうなんですよ。


「目標は"(ライト)"です。」


そう告げると、ゼットさんは気の毒そうな視線でこちらを見ています。


私・・・ゼットさんにしてみれば可哀想な子なんでしょうね。


「こんな年でスタートですが、魔力は少しはあるみたいなのでよろしくお願いします!」


「あ、頭は下げないで。こっちも世話になるからよろしく。」


ゼットさんに手で制されて、頭を下げるのをとめました。


「じゃあ、これから二人で出掛けて、ついでに昼食もとりましょう。」


今回はエスカレーター体験も最初につける予定で。




こういう事はたびたびないと思うけど、ゼットさんの連絡用と次にファンが来た時のために私名義で携帯を購入することにしました。


スマホだとファンもゼットさんも使えないんじゃないかな・・・と思って、もちろん老人にもやさしいタイプのボタンの大きいやつです!


・・・まだ売ってるのか心配ですが、なければキッズ携帯でも可。




ゼットさんは兄の古着のTシャツから元の黒いシャツ(形は日本のシャツと同じ・布もそれなりにきめ細かい織り方でボタンだけが少し不揃い)と皮っぽい黒いズボンに着替えています。


外にいてもあまり違和感はない姿だけど、一週間もいるなら着替えもいるし買い物もしないとなぁ。


ファンの時は靴はゴツめのトレッキングシューズを買って、そのまま向こうにはいていっちゃいましたが、ゼットさんにも靴がいるかな。




実のところ今月に入ってかなり散財しています(汗)


ま、実家住まいで家賃はいらないしボーナスも手つかずだったし貯蓄も少しはあるので生活に困ることはないけど、それでも来月は質素に暮さなければ・・・!


ファンから向こうのお金を渡されても日本じゃ換金できないし、何かいい方法ないでしょうかね。




「アリサ。驚いて急に動いてしまうかもしれないから、腕を組んでもらってもいいかい?」


ゼットさんの申し出に「利き手じゃないほうはどちらですか?」と尋ねると「両方同じくらい使えるからアリサの組みやすい方で。」と言われ、ファンと同じように左手にしました。




ファン、これは浮気じゃないからね!




心の中でファンに謝って、ゼットさんにこちらの世界を体験してもらうべく二人で一緒に歩き出したのでした。






実は女性の肩・腕丸出しも向こう(ティルティグ)ではアウトです。


半袖くらいがギリギリのラインかな。


ゼットさんはわかってて何も言いませんでした。


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