そういえばハッピーマンデーってありましたね。
金曜日の夜、慌ただしく帰ってきたのですっかり忘れていましたが、月曜日が祝日なら仕事は休みだったのです。
それに気づいたのは土曜日の朝でした。
ふとカレンダーを見ると月曜日は赤い文字・・・本当にすっかり忘れていましたよ。
「ファン。今週は一日休みが多かったからどこか遠出しようか?せっかくだからこちらを案内するよ。」
朝食の席で思いつきをファンに提案してみると、ファンは「リサがいいなら喜んで。」と賛成してくれます。
「ただ・・・剣は持って行けないけどいいかな?」
ファンは寝る時も剣を近くに置いています。
「大丈夫。竜もいなければ、魔物も、襲ってくる野生動物もいないんだろ?人だけなら素手でもいい。」
人も滅多に襲ってきませんから!
「じゃあ、午前中に出かけようか。"鉄馬車"よりももっとすごいのに乗るから楽しみにしててよ。」
今日は"初めての電車"に挑戦してみようと思います。
最初は車を見る度に固まっていたファンですが、今では車が人を運ぶ手段だと理解できています。
バスも電車も説明してあるので、たぶん大丈夫でしょう。
*
ファン・・・駅で固まりました。
エスカレーターの存在を教えていませんでしたよ。
コンビニや我が家にはエスカレーターはありませんから。
手をつないで階段を上りつつエスカレーターに興味があるのかガン見しています。
後でしくみの説明が必要でしょうね。
しくみを調べてファンに説明する度に私の雑学も一つ増えます。
そしてホームに入るとファンは更に固まりました。
電車の風圧や音、長く連なった車体・・・すべて"初めて"のものですから仕方ないと言えば仕方ないでしょう。
「ファン。あれに乗るよ。」
ファンの左腕をしっかり握ってホームに入ってきた電車を指しました。
右手は利き手なので空けておきたいそうです。
ファンにべったりくっついている私と、べったり私にくっつくファン。
傍目から見たら公共の場でかなりウザイ二人だと思います。
だって、いつもよりファンの体が緊張で硬くなってるんだもん。
守ってあげたいというかなんと言うか・・・緊張するファンが可愛いとか思っちゃってます。
ごめんね、ファン。
電車に乗ってバスに乗りつぎ、ファンを連れてきた先は、動物園でも水族館でも観光名所でもなく、何の変哲もない"空港"でした。
「随分と人が集まってるな。祭りか?何かの催しか?」
それが空港に向かう人を見たファンの疑問でした。
「あの音は?」
エントランス前なので飛行機はまったく見えません。
「まあいいから。」
疑問だらけのファンをなんとか展望デッキに連れていきます。
「・・・あれは?」
飛行機を目にしたファンはそれっきりその場を動きませんでした。
「あれは飛行機。あ、ほら、もうじき飛び立つよ。」
「・・・"ヒコーキ"か。大きいな。竜の倍くらいはありそうだ。」
ファンは飛行機の素材やどうやって飛んでいるのかまでは疑問に思わなかったようです。
先に調べてあったんだけど・・・。
それにしても・・・ジャンボジェットの半分が竜サイズ?とすれば竜ってかなりジャンボですよ?
ハンターさんじゃ狩れないんじゃないでしょうか。
「竜ってそんなに大きいの?」
「竜の種類によって大きさが違うが、一番大きくなるといわれている種類でもあれほど大きくはないと思う。」
ファンの目が飛行機に釘付けになったままで話を続ける。
それから展望台の端に移動して二人で寄り添い、ファンが飛行機に飽きるまで小声でそれぞれの世界の色んなことを話したのでした。
*
「・・・興奮して眠れない。」
薄暗い部屋の中、ファンが隣のベッドでぼそりと呟きました。
「目を閉じると"ヒコーキ"や"デンシャ"を思い出す。」
ファンはまるで子供のように目を輝かせながら飛行機と電車の話をしだした。
「電車は明日も乗るよ・・・。」
半分眠りに引き込まれながら、ファンと会話を続けようと努力する私。
「・・・私も竜でも見たら、興奮して眠れなくなるのかなぁ。」
「別な意味で眠れなくなるかも。」
ファンがクスリと笑いました。
「別な意味って・・・?」
私の疑問に、ファンは怖そうな声色で「恐怖で・・・。」と答えます。
「どう・・して?」
ファンは自分のベッドからこちらのベッドに移ってきました。
ベッドがキシリと音を立てます。
「・・・あえばわかると思う。」
近くで見るのは危険とか言ってたから獰猛なのかもしれない・・・とぼんやりと思う。
するとファンは掛布団をめくって隣に滑り込んできました。
「・・・ファン。ここ・・・狭いよ。」
「毎日リサを抱きしめて寝てるから、リサがいないと落ち着かない。」
まるで匂いをかぐように顔を髪や耳、首に寄せてくるファン。
「余計眠れなくなってきた。」
「・・・もう。だから・・・別に・・って・・・。」
眠りに落ちそうになった自分についばむようなキスをしてくるファン。
何回か軽く口をついばんだ後に、唇を割って舌が侵入してくる。
「んっ・・ふっ・・。」
落ちそうになった眠りから引き戻されると同時にファンの舌に同じように応える。
しばらくお互いの口の中を探りあい、ファンの瞳が完全な欲望の色に染まった頃に唇は離れた。
「リサのキスは気持ちいい。体を繋げた時は全身が熔けそうになる。」
そんなこと耳元で囁かないで。
「リサは・・・?」
ファンは耳を軽く食んでから首筋を軽く吸っている。
まるで好物の食べ物を大事に食べるように少しづつ少しづつ私に口をつける。
「・・・私?いつも・・・ファンに火をつけられてる。初めてファンを見た時からずっと・・・。」
そこまで言った時に私の唇はファンの嵐のようなキスで塞がれた。
正直言うと本当は今日はそのまま寝たかったんだけど。
でも、ファンの唇や体の熱を感じると、愛しさと一つになりたいという欲望がこみあげてくる。
「私もファンと一緒に熔かして・・・。」
ファンの下で半ばはだけた自らの服に手をかけて生まれたままの姿になると、ファンも私に注ぐ熱い視線を隠そうとせず自ら服を脱ぎ捨てたのでした。