SENRIGAN.exe
翌日。
「ねぇ、特殊性癖くん」
サツキが酷い呼称で僕を呼ぶ。
「ちょぉーっと、放課後屋上に来てほしいんだけど」サツキが笑顔を投げかける。
「屋上というより、神社に来てほしいんだけどね」と付け加える。
「今度は何の用なんだ」
「まぁ、用はその時に話すから、ちゃんと来るのよ。ドMの虐められっ子くん」
サツキは颯爽と去っていった。
「こんばんは、治くん」
校舎の最上階の秘密の花園、そこに一輪の花のような少女が立っている。彼女は巫女装束を羽織っている。その容姿は紅白色の花のように見えた。いつもの焼ける夕焼けを背景に真っ直ぐ花瓶に生けた花のように立っていた。
「何なんだ、今回の用は」
「ええとね、治くん」サツキは僕の方をくるりと向いた。
「実は昨日いろいろと考えてみたんだけどね、やっぱり虐めって駄目だと思うのよ!」
思いがこもってるのかこもってないのかよくわからない口ぶりでサツキは言った。
「そうよ! 虐め反対! せんせぇーい! 虐めはいけないと思いまぁーす!」
何かのセリフのようにサツキが言う。
「それを僕に言ってどうしろというんだよ……」
「そうね。それを言うべき相手は浜田よね。それとも先生かな?」
とぼけるように彼女が言った。
「治くん、君は昨日、愛されたいがために虐められてるとか、そんな風に言ってたわよね」
「ああ……」
「そのことは、生理的にはよくわかんないけど、理屈的にはそこまでおかしな話ではないと思うのよね。でも治くん、君は誰かを傷つけたくなくて虐められてるって言ったわよねぇ。虐めてる側は何の傷も追わずむしろスカッとすると。でも、それはおかしな話だとは思うわよ、治くん」
「おかしい、のか」
「ええ。だって虐めてる側がほんとうになにも傷を負わない、なんてことはないと思うのよ。だって人を殴れば手が痛くなるでしょ。人を痛めれば心が痛むこともあるでしょう。必ず反動が返ってくるのよ。傷つけるということは、自分を傷つけることにもなるのよ」
「そうだな……」僕はつぶやく。
「僕は傷つけないために虐められたんじゃないんだな。そうじゃなくて……僕は傷つけてもいい人間を傷つけていただけなんだ」
傷つけてもいい人間。
死んでもいいような人間。
そんな人間、いないという人もいるかもしれないが。
たとえば極悪殺人犯。
たとえば卑劣な恋敵。
たとえば……自分を虐める人間。
それらは、死んで当然の人間だ。
「そうよ、治くんを傷つけることによって、浜田自身も傷ついていく。虐めなんてやっぱり酷い行いよ。誰にも救いのない行為なんだからねぇ」
「浜田のやつも……傷つくのか……」
「そうねぇ。大抵の虐め加害者って頭がくるくるぱぁだからなのか、そういうことをしても何も感じないこともあるのよねぇ。でもね、それでも傷ついていくのは確かなのよ」
「傷つくって……」
「人間性が傷ついていくのよ」サツキが真顔で言った。
「虐めがエスカレートしていって人間性がなくなっていくのよ」
人間の行動はエスカレートしていく。
エントロピーが増大するように、火が燃え広がるように、虐めも時間と共に大きくなっていく。
最初はちょっと相手をからかうだけだった。
でも、そこから暴力を振るうようになり、そして様々な非人道的なことに手を伸ばしていく。
最後には目をふさぎたくなるようなおぞましいことに……なったりする。
その過程で被害者が自殺をしたりすることも……。
「虐め加害者は虐めのせいで極悪人へと変貌してしまうのよ。まぁその虐めをしてるのはその本人だから自業自得なんだけどね。まぁつまり虐めってのは悪循環なのよ。やった方もやられた方も不幸になるのよ」
やった方もやられた方も不幸になる。まぁしかし、事の発端と事の責任はすべて加害者にある。だから、その悪循環を生みだしたのは加害者だから、加害者は本当に極悪人なのだ。
「とにかくねぇ、虐めっていうのは何とか阻止しないといけないものなのよ。日本には“和”という言葉があるでしょう。人と人との和、それが崩れればひどいことが起きてしまうわ」
なんかお坊さんの説法みたいだなぁと僕は思った。
「そーれっでねぇ、治くん、君に話しておかないといけないことがあるんだけど」
そう言うとサツキは懐から小さな長方形のカードのような紙を取り出した。
そしてそれを僕に差し出す。
その紙の表面の文字を見て、それが名刺だということが分かった。
「わたくし、こういう者でございます」
そこには、
“墜落非行防止委員会会長 夢見ヶ原サツキ”と書かれてあった(その下には電話番号らしきものが二行あった)。
「墜落非行防止委員会……なんだこれは」
「墜落非行防止委員会、それすなわち落ちていく墜落飛行機のごとく非行に走り堕落していく事を防ぐ委員会、簡単に言うと、不良たちを取り締まる委員会のことよ」
「そんなけったいな委員会があるんだな」
「まぁ、会員は私一人だけなんだけどね」サツキは言う。
「それにまぁ、私が一人で勝手にやってるものだからね。ボランティアというか趣味みたいなものよ」
不良の取り締まりを趣味にするとはサツキも善人だなぁと一瞬だけ思った。
「というわけで治くん、私は不良を取り締まってるのよ」
「はぁ」
「その取り締まる不良の中に、治くんも入ってるのよ」
「はい……?」僕は疑問する。
「治くんも自覚はあるでしょ? 飛び降り自殺したり、先生に刃物を向けたりして、どう見ても不良じゃないの」
それはごもっともだ。
それに僕は生物学的にも“不良品”だしなぁ。
「なるほど……だからずっと僕に構ってたのか」
僕が、不良だから。とか言ったら学園もののドラマっぽい感じがする。
「まぁ構ってたのは、君がすごい体の持ち主だってこともあるんだけどね」
サツキは一呼吸置く。
「まぁでも今は、別の不良のことについて取り締まりと調査をしているんだけどね」
「別のって……まさか浜田か?」
「そうよ、ほかならぬ虐めっ子大将、浜田健二の虐めについて調査してるのよ」
なるほど、だからさっき虐めについて話をしていたのか。
「さっきも話したけど、虐めってのは極悪なことなのよ。許されざることよ。聖徳太子も言ってたわ、“和をもって貴しと為す”って。和を乱す奴は何とか取り締まらないといけないのよ」
「取り締まりねぇ……」
「鉄は熱いうちに打てと言うしね。なんとかこの虐め問題を解決しないと」
「…………」
虐め問題を解決しようという精神はご立派な志だと思うが、しかしその志で僕が虐められなくなるのは困る。
確かに虐めは悪いことだけど、悪いことだからやめられないんだ。
僕には愛が欲しい。大切な人を傷つけず、どうでもいい人間を傷つける、そんな奇妙な“虐待なる愛”を。
虐めを阻止しようとするサツキを阻止せねば。
「治くん、じつは今日は治くんにすごく面白いものを見せようと思ってるのよ」
「すごく面白いもの?」
「うん、結構面白いわよ」
退屈という退屈を謳歌した不老不死の僕が満足するような面白いことなど果たしてあるものだろうか。
「じゃーん、ノートパソコン」
サツキはおもむろにノートパソコンを取り出した。
そのノートパソコンがどこから現れたのかは少し興味が行ったが、しかし所詮はノートパソコンだ。これだけでは何もおもしろくない。
そんな僕をしり目に、サツキは床のタイルの上にパソコンを置いて、自宅にいるように地面に寝そべってパソコンに向かい合っていた。そののんびりした雰囲気は僕の心を癒した。パソコンの電源が入り、ファンの音がする。
「さぁーて、それでは治くん、ちょっと画面を見てくれるかな」
僕は画面が見える方、サツキの足元の方へと移動する。サツキの後姿を見たら、少しどきりとしてしまった。
僕はサツキの背から目線をそらし、ノートパソコンのディスプレイを覗く。
「よぉーし、それじゃあ今からアダルトビデオ観賞会よ!」
「…………」
僕は小さく溜息をついた。
「ねぇ、治くんはどういう系のアダルトビデオが好きなの? 凌辱系とか?」
「いや……特にない」
そう言うものも、ビデオというものができる以前から飽きてしまっている。どんなひどい光景も見慣れてしまえば何でもないのだ。
「とまぁ、冗談は置いといて」
冗談だったのか……。
「まぁ、これを見てみなさいな」
サツキはデスクトップ上のあるアイコンにカーソルを合わせ、ダブルクリックする。
甲骨文字で書かれた『目』の文字のアイコン。そのアイコンの下に記されている名称は――SENRIGAN。
センリガン、千里眼……?
しばらくすると画面に“SENRIGAN present by Node-y”と書かれたロゴが表示される。それに次いで名刺ほどの小さなウィンドウと長細いウィンドウが展開された。
小さいウィンドウには検索機能のような文字を入力するスペースがある。長細い方のウィンドウにはログのような表状のものがある。
「ええとね、まぁここに人の名前入力すれば……おもしろいものが出てくるのよ」
「だから、その面白いものってなんなんだよ」
「運命よ」
「えっ?」僕は声を出して驚く。
「名前を書いた人の辿る運命が現れるのよ」
サツキの突飛な話に僕は困惑した。
そんな僕をしり目に、彼女は黙々とパソコンを叩く。
名前を入力するスペースに、『浜田健二』と名前が書かれる。
パン、とエンターを押すと、その上にウィンドウが展開される。そのウィンドウは動画再生ソフトのようなウィンドウだった。
「ええと、時間を入力してと……」
そう言って、サツキはカーソルで時間のところをクリックし、そこに日時を入力した。
5月15日午後4時0分、と明日の日にちを入力していた。
「それでは、レッツ再生スタート!」
サツキはウィンドウ下部の再生ボタンをクリックした。
すると、画面中央に動画が現れる。
その動画に映っていたのは……
血塗られた腕の浜田健二と、
うずくまる一人の男子生徒の姿だった。
「ほぉら、面白かったでしょ? 治くん」
サツキは悪魔のような笑顔を僕に向けた。
「なんだったんだよ、あれは……」
「だから言ったでしょ、名前の書いた人の運命が現れるって。だからさっきのは、浜田健二がこれからたどる運命の一部だったのよ」
「これからってことは……未来のことなのか?」
「未来、というより明日のことね」
5月15日午後4時0分。
浜田が男子生徒を嬲り、そして殺す。
――それが、予見されたというのか。
「ほんとうに……これが浜田がたどる運命なのか……」
「そうよ」
「そんなのがどうやってわかるっていうんだよ」
「分かるもんは分かるのよ。このSENRIGAN.exeでね。このソフトは人間の運命を動画で出力してくれるありがたいものなのよ」
「だから、どうして運命なんてもんが分かるんだよ。そんなの神様しかわかんねぇじゃないか」
まぁ神様なんて信じてないけど。
「私も詳しいことはわかんないけど、でも確かにこれは運命を現すソフトなのよ。たしかに信じられないかもしれないけど、でも不老不死の人間がいるなら、千里眼のごとく運命を見通すソフトがあってもおかしくないんじゃないの?」
サツキの意見はどうにも納得しがたい意見だ。サツキの性格から考えると、僕に嘘をついていると考えるのが妥当だと思う。
しかし……考えてみると……、浜田が人を殺している映像なんてものはそうそう手に入れれるものじゃない。浜田は今はまだ人を殺していないし、いくら合成の映像とかが作れる世の中だとしても、あんなリアルには難しいだろう。
ということは……サツキが言っていることは、本当なんだろうか。
「半信半疑って顔をしてるわね」サツキが言った。
「よかったらもっとちゃんと見てみる?」
「ああ……」
僕がそう言うと、サツキはくるりと寝返りを打ってパソコンの前の空間を空けた。
僕はそこにしゃがみ、SENRIGANの動画を5月15日午後4時0分から再生する。
⇒⇒⇒⇒
「う、うわ、なんだよこれ……」
凄く素っ頓狂な声が聞こえる。浜田の声だ。浜田はぶるぶると震えながら銅像のように立ち尽くしていた。
さすがに、人を殺したとなると浜田のやつもビビるようだ。
「う、うわぁぁぁぁああああああああー!」
とまぁベタな叫び声を上げながら浜田が狂ったように逃げている。その後ろを仲間3人が付いて走っていく。
後に残ったのは男子生徒の死体。
そこで映像が黒の齣に代わる。
ずっと黒齣――――。
■■■■
「おい、これから先はないのかよ」
「ああ、そこから先は欠けてるのよ」
「欠けてる?」
「SENRIGANも万能じゃないからねぇ。運命の一部しか読み取ることができないのよ」
まるでSENRIGANが本当に真実に運命を読み取り出力する機械であるかのように説明する。もしかしたら本当のことなのかもしれないが。
「そーゆー時はスキップを押せばいいわ。再生ボタンの隣にあるでしょ?」
僕はスキップボタンをクリックした。
⇒⇒⇒⇒
「……よって容疑者浜田健二を有罪とする」
裁判所の映像だ。
浜田が捕まったようだ。
しかし告げられた刑期はかなり少ない、というか刑期と呼べないくらい少ない。
■■■■
「浜田も一応まだ未成年だからねぇ。日本の法律は未成年のぼっちゃんたちには優しいからね。あ~甘い甘い! 甘すぎるわ!」
サツキが口を挟んできた。
画面が黒齣になったのでスキップをクリックする。
⇒⇒⇒⇒
それは、目を見張る光景だった。
男たちが、一人の女性を強姦していた。
女性が涙を流しながら何かを叫んでいた。
男たちは笑っている。
「はははは! 泣いてるぜこいつ! そんなに悲しいならおれが慰めてやるぜ」
後ろの男たちも続けて笑い出した。
■■■■
「あらぁ、刑務所から出たと思ったらお盛んなことね。ブタ箱の中でたまってたのを発散してるのかしらねぇ。でもそれで他人を傷つけるなんて外道よねぇ。あいつら、そんなに人を傷つけるのが好きなのかしらねぇ」
スキップをクリックする。
⇒⇒⇒⇒
「ほら、おっさんよぉ。はやく俺たちに金よこせよ!」
蹴る。囲んで蹴る。
真ん中に、おびえている小動物のような、中年サラリーマン。
額から血が流れていた。
大人になった浜田たちは散々無残にサラリーマンを嬲ってから、ぼろ雑巾になった男のポケットから財布を取り出す。
「ははは! 結構稼いだぜ」
■■■■
スキップし続ける。大人になってからの浜田たちの『虐め』の情景が繰り広げられる。
僕にしていたことより酷い悪行をへらへら笑いながら、飽きることなくやっていく。
まるで、呼吸するかのように虐める。
⇒⇒⇒⇒
そして、日付は出所してから5年後。
「お、おい! どうするんだよこれ!」
へらへら笑っていた男たちが顔を青くして叫びあっていた。
男たちの目の前には、頭から血を流して倒れている女性。おそらくその女性は死亡しているのだろう。誰が殺したのかは火を見るより明らかだ。
女性の身体には殴られた跡がいくつか。
「お、俺知らねぇぞ! 殴ったのは浜ちゃんだろ!」
「な、何言ってんだよ。俺は殺そうとしたんじゃ……これは事故で……」
事故だとしても、非があるのはお前だ。
おまえが殺したも同然だ。
⇒⇒⇒⇒
「……よって容疑者浜田健二を有罪とする」
どこかで見た景色。どこかで訊いたセリフ。既視感。デジャヴ。
繰り返し。
浜田が捕まった。
当然のことだけど。
さすがに今回は刑期が長い。懲役20年。その長さが妥当なのかどうなのかわからないが、少なくとも僕には短すぎると思った。
桁が少ないじゃないか。
少なくとも4ケタは必要だ。
もしくは、死んで償うかだ。
人を殺した奴は、死んで当然だ。
■■■■
「以上! 極悪外道浜田健二くんの半生でしたぁ!」
サツキが声を上げる。
「いやぁ、ホント酷い奴でしたねぇ、浜田健二って男は! 外道を絵にかいたような男ですよ! まったく、ほんとどうしようもない運命ですねぇ!」
解説するように、皮肉るようにサツキは言った。
「ほんと、こういう人間って死んでほしいものですねぇ。死んで当然ですよ。日本の法律は甘すぎますよ。人殺しは死ぬべきですね。人数なんかかかわらず、死ぬべきですよ。そう思いませんか、治くん」
「…………」僕は沈黙を返す。
なんだかもう、このSENRIGANとやらが本物かどうかなんてどうでもよくなっていた。
そんなことよりも、恐るべき浜田の最悪末路のほうが興味深い。
人の運命って、案外面白いものだと思った。
「ねぇ治くん、これで浜田ってやつがどんなに悪い奴か改めて分かったでしょう」
「まぁな」僕は答えた。
「浜田健二は人を2人も殺すような悪魔へとこれからなるのよ。いろんな人を傷つけて、自分の人間性を傷つけて……。はぁぁ。酷い運命だわね。どうにかこんな運命、書き換えられたりできないものかねぇ~」
サツキは意味ありげに、僕の方に変な顔をむけながら言った。
「……運命って、書き換えたりとかできるのか?」
「そうね。運命っていうのは書き換えられるわね。さっき見せたのはあくまで今現在予測される運命だからねぇ。これから何かの因果が崩れて、運命が書き換えられてしまうことだってあるのよ」
運命が書き換えられるか……。
たしかに、運命は決まったことじゃないから、変わるかもしれない。
浜田の運命も、こんな蛆虫みたいな運命じゃなく、アゲハチョウのような立派な運命に換わる……こともあるのだろうか。
「運命は過去の小さな出来事で変わるかもしれないわねぇ。たとえば、過去に起こした事件のこととか……」
過去の事件……というのは、浜田の運命の最初に見たあの事件……男子生徒を嬲り殺した事件のことを指しているのだろうか。正確には明日の、未来の話なんだが。
「浜田が殺人を起こさなければ、少なくともあそこまで酷いことにはなっていなかったかもしれないわ。殺人っていうのは人類最大の悪だからねぇ。変わってしまうのも無理がない話よね」サツキは言った。
「今の時点では浜田は殺人を起こしていない。今がターニングポイント。人間に戻るなら今しかないわね。人を殺してしまえばもう戻ることは無理だわね。とにかく、明日浜田が殺人するかしないかで、彼の運命がどうなるか決定してしまうのよ」
ターニングポイントか。
僕的には、その日どうすればいいのだろうか。
虐められ続けるためには、浜田を殺人犯にしてはいけない。刑務所に行ってしまっては虐められなくなってしまう。
「治くん、どうにかして浜田が殺人するのを止めてくれないかしら」彼女が言った。
「なんで……僕に言うんだ」
「だって君、このままじゃ浜田に殺されちゃうのよ」
僕は殺される。あの動画に映っていた男子生徒は『僕』だった――僕はどっからどう見ても浜田に嬲り殺されていた。
「別に、殺されてもいいんだけどな」僕不死身だし。
「あなたはそれでいいでしょうけど、さっきも言ったようにターニングポイントなのよ。人を殺した浜田は人間性を喪失し、さらなる極悪へと変貌してしまうのよ。あなたのせいでね」
「あなたのせいでって……僕は被害者なんだがなぁ」
「被害者なら被害者らしく被害者面しなさいよ」
僕はちっとも恐怖を感じていなかった。それが顔にも表れているようだ。
「とにかく、あなたはちゃんと殺人を阻止するのよ」
「殺される側に殺人を止めろと言うのか? それはおかしいと思うぞ。それなら……浜田のやつに直接言った方が筋が問うってると思うんだが……」
「浜田にそんなこと言って聞き入れてもらえると思うの?」
そうだよなと僕は思った。
「とにかく全力で阻止しなさいね、治くん」
僕は、おそらく人類史上もっとも奇妙なお願いごとをされたと思う。
これから殺されるから、それを阻止しろ。
そうでないと、殺そうとするやつが、後に極悪人となるぞ……と。
“墜落非行防止委員会”なるものを組織しているサツキにとってはそれは阻止せねばならないものだろう。
僕にとっても虐めてくれる人間がいなくなると寂しくなってしまうので、やはり阻止しなければならない。
「とゆーわけで、明日お願いね、治くん」
サツキは再度僕にお願いした。