墜落非行
世界から落ちてやりたかった。
こんなどうしようもない、僕を縛り付け痛めつける世界から、別の明るい光の世界へと旅立ちたかった。
ここは世界のフチ。
そこから先は終わり。
俯瞰する風景は矮小で、どこまでも続く広大な風景。それは絨毯の模様のように独特の形状を生み出していた。
そこは浮世であり。
底は地獄。
地面を覗きこむと、お腹を空かせた地面が僕を飲み込もうと手を伸ばす。
風が僕の肌をぬめりと嘗める。
ここは終わった世界だ。終わった自分だ。
足を一歩踏み出すだけで、地面へと降りることができる。
死へと向かうことができる。
“死にたい”――。
切実に何度も反芻していた言葉。それは僕の生涯最大の目標なのかもしれない。
さぁ、はやく死のうじゃないか。
死んだらどうなるのだろうか。何もなくなるんだろうか? 何かなくなるんだろうか?
そんなこと、死ぬことができるならどうでもいいのだけれど。
僕は――足を向こう側の空へと伸ばした。
「…………はぁ……」
誰かの溜息が聞こえた。僕のものではなかった。
その風にかき消されそうなほど弱い溜息で僕の自殺行動は停止した。
僕は足を戻し、そして後ろへ体を回す。
そこには、儚い花があった。
赤と白の衣をまとった、黒い髪を滑らかに伸ばす――巫女の姿が。
その巫女の身体は小さく細く、一輪の花のようだった。
顔はやわらかで、しかしそこに浮かぶ表情はあきれ顔だった。
そのあらゆるものを皮肉ったような顔は、僕に向けられている。なにかを百万字ほど言いたそうな顔だった。
「あなた、本当に死にたいの……?」
巫女は僕へ呆れた顔で問う。
僕は巫女を見つめる。よく見るとその顔は小さな子供の様に可愛らしい。
僕は巫女に、笑顔を投げかけようとする。
「ああ、死ぬほどな」
そう告げて、
僕は屋上から飛び、
そして墜落した。
墜落する途中、なにか飛行するものとすれ違った。
あれは――蝶だ。
蝶は空を飛び、僕は地へと落ちたのだ。