解決編
「このプライズ(=景品)は獲れるし、あんたは電車で来てないし、2度もウソをついてあんたは何がしたいんだ」
恭介は男、クレーマーに言い放った。
「失礼なヤツだな。電車で来てないなんてどうやったらわかるんだ」
もうこの時点で自白しているようなものである。男はそんな事を知らずに恭介との対応で必死のようだ。
「じゃあ、聞くけど。外はこんな雨だけど、傘はどうした?」
「……あ」
口から洩れた、少し気の抜けた声だった。
「確かに駅からここまでは通路があるから傘は使わないけど、自分が乗ってきた駅まで家からどうしたんだ?」
徐々に詰めろの状態になる。
「可能性としては傘をどこかに置き忘れてきたか、駅まで送迎してもらったか、駅直結のタワーマンションにでも住んでいるか……どれも苦しいな。さっきので自白しているようなものだしな。『電車で来てないなんてどうやったらわかるんだ』なんて本当に電車で来ているヤツが言う台詞じゃないもんな」
男の顔にうっすらと汗が浮き出ていた。
「……なんて追及は時間の無駄だな。車で来ているから傘があっても車内に置いてきた。ポケットに鍵があるんじゃないの?」
少し間があって男の反撃が始まろうとした。
「仮に、俺がウソをついているとしよう。でもこんな客に獲らせない台のこの店の対応なら仕方がないんじゃないか? ほかの客が獲ったなんて言ってるが、そっちこそウソじゃないか。こんな獲らせる気がないゆるいアームでどう獲れっていうんだ」
そんな男の反撃は恭介にとって蟻のパンチみたいなものだった。ニヤリと微笑んで男に言い放った。
「いいや、獲れるね。あんたが下手なだけだよ。下手くそなクレーマーほどたちの悪いことはないね」
恭介は店長に確認してお金を投入した。
店員のプレイはマナー違反となり無理だが、客である恭介のプレイを阻止する理由はない。
まずは横ボタン、そして縦ボタン。押した指を放してアームが開き、ゆっくりと下がっていく。そしてアームの先端の金属部(『ツメ』と呼ばれています)がわずかな箱の隙間に刺さった。そしてアームが上がると刺さったままの箱が持ち上がった。
「全てがつかむだけじゃないんだよ。アームが弱くても関係ない獲り方だってあるんだ。それが攻略する楽しみってものだろ?」
王手。詰みだ。
ウソもばれ、獲れることも証明された。男は2つの大きな景品袋を抱えると「覚えてろ」という昔ながらの捨て台詞を残して去っていった。おそらく男はもうここには来ないであろうし、出入り禁止になるだろう。
いつの間にか最初の3倍のギャラリーになっていた周囲から拍手が起こり、ちょっとした寸劇を見ているようだった。
恭介はその拍手に少し照れながらもまずするべきこと、店長に謝罪した。
「本当にすみませんでした。しゃしゃり出てしまって」
「顔を上げてください。こちらの方こそ申し訳ありませんでした」
店長の口からは感謝の言葉が出てきた。が、その次にとてもやさしい口調で厳重注意された。
それもそうだろう。従業員でもない1人の客が店内のトラブルに顔を突っ込んで先頭に立ち解決する。結果だけを見ればすばらしいが、店には店の事情があり、ルールがある。それを無視して1人暴走するのは良いことではない。
「兄ちゃん、見ているこっちもスッキリしたよ」
「私も貴方に獲ってもらおうかしら」
先程まで観客としていたであろう老夫婦が恭介に話しかけてきた。その場を適当に濁して恭介はやっと舞台から降り、一般人となった。
もう10分以上も放置していたのだ。それに自分がゲーマーであるのもばれてしまった。さぞかし彼女、桐子は怒っているに違いない。
キョロキョロと周囲を探すが姿が見えない。
「キョウちゃん」
そんな声が聞こえた。プリクラの方に目をやると中に桐子がいて、手招きをしていた。
「こんなところにいたのか。……その、ゴメンな。ほったらかしにして」
手を合わせて深々と頭を下げた。そして頭を戻したのを見て桐子が言う。
「もう、本当だよ。こんなかわいい彼女よりゲームが大事なの?」
腰に手をあてて、怒ったように半分笑いながら桐子がプンスカする。そしてその手をゆっくり下ろすと恭介の右腕を掴んで顔を預けてきた。
「でも、ちょっと格好よかったよ」
幸せ者のカップルがここにいた。
まず、クレーンゲームに詳しくない方、スミマセン。
本当は私がもっと詳しく説明すべきなんでしょうけど、イメージできない人は『蓋刺し』で調べてください。色々動画が載っているはずです。
この作品は別のサイトにて出題型推理クイズとして投稿したものです。
結果的にここでも出題型となりましたが、読み物であるのを意識して再編しました。
そしてこの設定ではないのですが、私が実際に遭遇したクレーマーはこんなヤツでした。
そのクレーマー曰く、
『自分は100人の従業員を抱える会社の社長である』
笑っちゃうほど「うそつけ!」と思いましたね。従業員100人も抱える会社の社長が、休日に、1人で、クレーンゲームにはまるわけがない。(すでに大きな袋2つ抱えていました)
『どんな社長だよ!』
『そんな会社で大丈夫なのかよ!』
『会社の社長がクレーマーかよ!』
『従業員がかわいそうだよ!』
自分はこっそり後をつけて住所を確認しようと思いましたが、あいにく時間がなかったもので断念しました。
そう、今回の恭介の行動は私の夢でもあったのです。
こんな怒りを元にこの作品はできました。
作品の内容もそうですが、クレーンゲームの奥深さも知っていただければ幸いです。