問題編
平成17年開通した『ルートAエクスプレス』。東京のA駅と茨城のT駅を結ぶ鉄道だ。
ちょうど中間にある『みなみのもり』駅は目の前の巨大シュッピングモールがシンボルの駅である。それを囲むようにマンションがポツポツと点在しているまだ開発途中の緑が多く残る街だ。
その日は夜明け前から激しい雨が降り続いていた。夜遅くまで続くと天気予報では言っていたその日はお出かけにはどう考えても不向きな日だった。
そんな中、東恭介と藍原桐子はデートを満喫していた。A駅で待ち合わせをして『みなみのもり』駅に向かう。
恭介はすでに何度か乗っているが、桐子は初めてだ。比較的まだ新しい路線と駅舎にちょっとテンションが上がる。景色が相も変わらず激しい雨で白くぼやけているのが残念だった。
巨大ショッピングモールへは駅出口から2階部分が屋根付きの連絡通路で繋がれており、まさしく目の前の距離だった。
1~3階が商業施設で、5~6階・屋上が駐車場エリア。車と電車の両方でアクセスできる事が賑わっている要因なのかもしれない。
2人はまず先週から公開された『真夏戦争』の映画鑑賞。昼はグルメ街のイタリアンのお店。雑貨屋で入浴剤を購入後、映画チケットの半券で遊べるゲームセンターへ向かった。
実は恭介はかなりのゲーマーだった。
だった、というのは今ではデート代節約のために抑えているが、かつては毎日通っているほどだった。主にやるのはマージャン、クイズ、クレーンゲーム、格闘系も少々。
特にクレーンゲームなんかは桐子にちょっといいところを見せるチャンスである。
もう少しで目の前にゲーセンが……というところで何やら男の大きな声が聞こえた。その内容を聞いて恭介は顔をしかめた。
俗にいうクレーマーだ。半径5mほどの円を線で引いたかのように周囲の客が避けて通行して様子を見たり見なかったりしていた。
「どうやっても獲れないじゃないか。こんなゆるいアームでこの箱をどうやって持ち上げるんだ。お前やってみろ」
「実際にプレイするのはできない事になっております」
「獲り方見せないうえに、獲れるかも怪しい。こんな不親切な店は初めてだよ! ああ、実に不愉快だ。かかったお金はどうしてくれるんだ!」
「獲り方を考えるのもゲームですし、また醍醐味でもあります。また既に獲得されたお客様もいらっしゃいます」
「お前は俺が下手だというのか! だから獲れるならお前が実演してみろよ! だったら納得してやるよ!」
「ですから――」
終始こんな感じらしい。
問題のクレーマーは50歳くらいの男性。白と紺のボーダーのポロシャツにベージュのズボン、革靴を履いている。足元にはひも付きの透明な大きな袋が2つ。外から丸見えの中身はいわゆる萌え系のフィギュアやぬいぐるみが多数入っており、おっさんに似合いそうなセカンドバックやその他荷物は見当たらない。他にあるとすれば、見えはしないがズボンのポケットに入っていそうな財布と携帯くらいだろうか。
あまりに対照的な姿・言動から言えるのはキモイの一言だ。
そして店の前でこんなやりとり。明らかに迷惑行為だ。
「最近はどの店も1回200円なおかげで趣味の為に倹約生活しているというのに。わざわざ東京から電車に乗って来ている客にこんながっかりさせるなんて最低だな。粗相を詫びて景品をプレゼントするくらいの気持ちがここにはないのか!」
ここまで傍観していた恭介だったが、流石に我慢ならなかった。同じゲームを愛する者としてこのようなヤツの存在がどれだけ業界に迷惑をかけているかヤツは知っているわけがない。
馴染みの店でちょっと仲良くなった店員と何度か話したことがあったが、相当に困るらしい。ヤツらは自分の事しか考えていないのだ。お客様は神様でもヤツらは疫病神である。
恭介は2人をよそにその台を1回プレイしてアームの状態を確認してから、クレーマーに言った。
「なぁ、なんであんた電車で来たなんてウソついたの?」
「はぁ? このガキ、お前誰だ。何を言っているんだ」
話を有耶無耶にして、すぐに否定しない。恭介はクロだと確信した。
そして男に言い放った。
「このプライズ(=景品)は獲れるし、あんたは電車で来てないし、2度もウソをついてあんたは何がしたいんだ」
どうも、作者です。
恭介がクレーマーが電車で来ていないと判断したきっかけは何だったのか?
そんなことを推理しながら読んでみると別の楽しみがあるかもしれません。
では、解決編へとどうぞ。