表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】竜帝さまの専属薬師  作者: 藤浪保


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/25

第22話 竜帝さまとの約束

「竜帝さまっ!」


 建物の中に入ろうとした竜帝を、沙羅が呼び止めた。


「沙羅。どうした?」


 振り向いた竜帝が嬉しそうに駆け寄ってくる。


「えっと……その……」


 沙羅は視線を足元に落とした。


「わたしと添い遂げてくれる気になったのか?」


 竜帝が冗談めかして言った。


「まあ……端的に言えばそうです」


 沙羅が視線を下に向けたまま肯定した。


 竜帝は何も言わなかった。


 さんざん断ったくせに、と怒っただろうか。いまさら、と笑われるのだろうか。


「竜帝さま?」


 沈黙に耐えられなくなって沙羅が顔を上げると、竜帝は固まっていた。


「竜帝さま」

「……今のは幻聴だろうか。沙羅がわたしと契りを交わしてくれると言った気がした」

「そこまでは言ってません」


 うわごとのような言葉に沙羅が反論すると、はっと竜帝が沙羅を見た。


「わたしの言葉を信じてくれる気になったのか?」

「正直、片割れだというのは信じていません。自覚もありませんし。だけど、竜帝さまが私の事を好きだというのなら、まあ……そばにいてあげるくらいはいいかな、と」

「沙羅!」


 竜帝が感激した声を上げて、沙羅を抱きしめた。


「ああ、沙羅。わたしの魂の片割れ。唯一の花嫁」


 沙羅はぐいっと竜帝を押しやった。


「竜帝さま。私は、竜帝さまが私の事を好きだというのなら、と言ったんです。片割れだからという理由なら嫌です」

「わたしにとってはどちらも同じだ。だが沙羅が望むなら、この想い、いくらでも伝えよう」


 竜帝は沙羅の顔に手を添えた。


「沙羅、好きだ。愛している。わたしの想いを受け入れておくれ。わたしの花嫁になってほしい」


 真剣な顔で言われて、沙羅は顔を赤くした。どきどきと心臓がうるさい。耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。


「本当に?」

「本当だ。あの夜までこの気持ちに気がつかなかったのが不思議なくらい、沙羅を深く想っている。沙羅はわたしが幸せにする。愛している。わたしと共に生きてほしい」


 やっぱりずるい。突然片割れだなんて言い出して、今さら好きだなんて。


 だが、この一年、ずっと沙羅は竜帝を拒み続けてきたのに、竜帝は諦めようとはしなかった。その気持ちだけは本当なのだと信じてもいいのではないか。


 沙羅は、本心から、沙羅が魂の片割れであるという竜帝の言葉を信じていない。


 出会った時から、花嫁を待ちわび、寂しさを耐える竜帝を見てきた。


 花嫁が偽物だったとわかったときのショックはいかほどだろうか。すぐ側に娘のように可愛がってきた沙羅がいたら、錯覚してしまっても無理はない。


 竜が魂の片割れを乞い焦がれる気持ちは、戦場の兵士が薬師を特別に想うような、傷心の娘が慰めてくれた青年に恋をするような、そんな簡単なものではないだろう。


 いずれまた、間違いだったと明らかになる。


 それは本当の花嫁が現れた時かもしれないし、ただ竜帝が目を覚ました時かもしれない。


 それでもいいと思えた。


 竜帝が沙羅のことを好いていてくれるのなら。たとえ錯覚だったとしても、この一時(いっとき)だけでも、沙羅を愛していると心から想ってくれるのなら――。


 金色の瞳が沙羅を見つめている。柔らかく細められたその目が、沙羅が(いと)しいと訴えていた。


 沙羅は急に恥ずかしくなって、ぷいっと顔を横に向けた。

 

「……仕方ないですね。竜帝さまがそんなに言うなら、花嫁になってあげてもいいですよ」

「沙羅っ!」

「わっ」


 竜帝は感極(かんきわ)まって沙羅を抱き上げた。そのままくるくるとその場で回る。


「ちょ、ちょっと竜帝さま」


 沙羅の慌てた声を聞いて、竜帝は動きを止めた。ぎゅっと沙羅を強く抱きしめる。


「沙羅、愛している。わたしの花嫁。絶対に離さない」


 竜帝が少しだけ体を離し、金の瞳が沙羅の目を射抜く。


 太陽のように温かく、月のように光り輝くきれいな色――。


 ゆっくりと竜帝の顔が近づいてきた。


 沙羅は静かに目を閉じた。


 唇同士がそっと触れ合う。


 ふわりと体が浮き上がるような心地がした。


 黒竜の上にいるときのような、温かく柔らかなものに包み込まれているような気持ちになる。


 そして、竜帝から沙羅へと何かがそそぎ込まれたような感覚がした。


 竜気だ、と沙羅は思った。


 それはお腹のあたりでぐるぐると渦巻き、じんわりと沙羅の体に馴染んでいく。


 沙羅の胸が高鳴った。


 好きな人とキスをしているからではない。


 これは――これは――。


 沙羅はぴたりと体を寄せ合う竜帝の体の中に、瞳の色と同じ、金の光を放つ魂の存在を感じた。


 同時に、自分の中にも同じ物があることも。


 根拠などない。ただそうであると確信できた。


 惹かれ合い、引かれ合う。


 その言葉の通りだった。


 二つの魂が互いを欲して呼応している。


 沙羅には竜帝しかありえない。そして、竜帝にも沙羅しかありえない。互いに唯一無二の存在なのだ、と強く感じた。


 体中が歓喜にうち震えていた。


 沙羅の生きた二十年ちょっとの時間を飛び越えて、二百年分の想いが体から溢れてしまいそうだった。


 本当に、私が魂の片割れなんだ――。


 沙羅の目からぽろりと涙がこぼれた。


 それを竜帝が指で優しくぬぐう。


「沙羅、愛している」


 沙羅は涙の浮かぶ目で竜帝を軽く(にら)んだ。


「また間違えた、なんて無しですからね」

「もちろんだ。そんな事は未来永劫(えいごう)起こらない」

「絶対ですよ。約束です」

「約束だ」


 二人は互いの魂を確認し合うように、もう一度口づけを交わした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ