第16話 喜色 side 延珠
「今日、竜帝様はあの娘にお会いしたそうよ」
竜帝の前での楚々とした振る舞いはどこへやら、鬼のような形相でがじがじと爪を噛む主を夜起は黙って見ていた。
また爪を綺麗に磨き上げなければならないな、とぼんやりと思う。
「どうしてあの娘はまだ後宮にいるの!? あの年なら、薬がなければすぐに竜気に堪えられなくなるはずなのに! ちゃんとすり替えたんでしょうね!?」
「はい」
「薬室とあの娘の部屋と両方よ!」
「はい」
どちらも他の者に金を握らせてやらせた。警備が厳しくて難儀したが、どうにかなった。回収した薬は本物であることも確認済みだ。
「他にも置いてある場所があるのかしら」
とうとう延珠は爪を噛み切ってしまった。
それ以上されると整えられなくなってしまう。夜起は主の手をそっと口から離させた。
「新しく作られたらまたすり替えなくてはいけないわね」
それが厄介だ。
薬師以外立ち入り禁止の薬室は、毒が置いてあることもあって警備が厳重だ。前回は延珠の名前を出して抜けさせたが、何度も同じ手を使うのは難しいだろう。
薬師の自室の方も、薬師と交流のあった女官は毒気にやられて辞めてしまった。次はどんな手で行けばいいか。
「……まあいいわ。あの娘、筆頭薬師を引退して結婚するそうだから。そうしたらどのみち後宮からは出て行くもの」
ふふっと延珠が醜悪な笑いを漏らした。
「竜帝様の花嫁はわたくしよ。早く子ができないかしら」
夜起は、夢見るように言う延珠から目をそらし、その横にある香炉を眺めていた。




