表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/130

四章一話 拍手の届く部屋

《辺境者の歌》 四章 一節

『拍手の届く部屋では、見たくない影ほどよく映る。』


2374- 第一王城大広間 ランドマール視点


 拍手は小さかった。


 ランドマールは、椅子の上で背筋を伸ばしたまま、その音を聞いていた。


 大広間には人が多い。貴族。士官。


 文官。王城の人間。


 その全員が同じような速さで手を叩いている。大きすぎず、乱れすぎず、誰かより先にやめない。拍手にも作法があるのだと、ランドマールはそこで知った。


「勇者様方の北砦演習は、極めて良好な結果を示しました」


 軍務士官が読み上げる。


 前に立っている転移者たちは、みな少しずつ違う顔をしていた。


 三郷弦は笑っている。


 笑っているのに、足の向きだけが扉へ近い。


 桐谷幸は右腕を隠している。


 隠しているのに、隠していることを誰にも気づかせたくなさそうだった。


 佐々木宗助は、拍手よりも報告書の方を見ている。


 ランドマールは、それらを見ていた。


 見ているだけで、何かを止められる気がしてしまう。


 たぶん、それは錯覚だ。



 数値と評価の言葉が並び、そのたびに拍手が起きた。


 ランドマールは手を叩かない。


 叩くべきか迷ったが、母上ならこういう場では叩かない、と考えた。第三王子が拍手をすれば、それは賞賛ではなく合図になる。誰かが意味をつける。


 意味は、勝手につく。


 それは最近、少し分かってきた。


 机の上には報告書がある。ランドマールの席からは、文字までは読めない。ただ、赤い印がいくつか見えた。


 赤い印。


 戦果の印なのか、注意の印なのか。


 遠いと、どちらも同じ色になる。


 やがて士官が、次段階の外縁任務を検討する、という言葉を出した。


 次段階。


 外縁任務。


 言葉が大きい。


 大きい言葉は、人を動かす。ランドマールが動かしているわけではないのに、誰かがこちらを見る。こちらが頷くのを待っている。


 だから、頷かなかった。


 頷かないことにも意味がつくのだろう。


 でも、今はまだ、どちらの意味をつけられるか選べない。



 佐々木が口を開いた。


「弾薬消費と負傷確認を、別紙で提出したいです」


 大広間の空気が、ほんの少し変わった。


 拍手のあとに出すには、硬い言葉だった。


 ランドマールは、その硬さに少し安心した。


 きれいな報告だけで終わらない人間が、あの中にいる。


 軍務士官は笑顔を崩さない。


「もちろんです。詳細記録は後ほど」


 後ほど。ランドマールは、その言葉を覚えた。後ほど、という言葉は角が立たない。


 今ここでは扱わない、という意味にもなる。佐々木はそれ以上言わなかった。三郷が彼を見る。


 桐谷幸は右腕を少し下げた。拍手がまた起きた。今度の拍手は、さっきより短かった。



 報告が終わると、人が少しずつ動き始めた。


 ランドマールの近くへ来る者もいる。


 「殿下」と呼ぶ声。


 「勇者様方」と呼ぶ声。


 同じ部屋にいるのに、呼ばれ方だけで場所が分かれていく。


 ランドマールは、椅子から立たなかった。


 立てば、誰かのところへ歩かなければならない。


 歩けば、誰かの側に立ったことになる。


 座っていても同じかもしれない。


 けれど、今は座っている方がまだましだった。


 大広間の床は磨かれていて、靴の裏の泥など一つもなかった。


 ランドマールは、その床に映った拍手の形を見た。


 手を叩く人の影だけが、何度も揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ