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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

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三章二十一話 北砦の返音

《辺境者の歌》 三章 二十一節

『的に穴が空いた後で、矢羽根を数える者がいる。』


2374- 北の砦 演習場 羽黒視点


 演習が終わってからの方が、射場は騒がしかった。


 撃っている間は、誰もが的を見ている。撃ち終わると、的以外のものが見えてくる。薬莢。


 破れた木板。肩を押さえる桐谷さん。笑いすぎて顔が少し固くなっている三郷。


 僕は、地面に落ちた薬莢の数を見ていた。数えるな、と思う。でも数える。


 射撃線の横で、山崎が自分の銃を下ろした。まだ少し息が荒い。本人は平気な顔をしているけれど、手の甲に細かい煤がついていた。


「命中数は?」


 教官が聞く。


「山崎、十発中九。桐谷、十発中十。ただし右腕に負担あり。佐々木、近接移行時の判断は良好。三郷、指示は早いが、声が前へ出すぎる」


 記録係が読み上げた。


 三郷が、変な顔をした。


「声が前へ出すぎるって何だよ」


「お前が先に走りそうになる、という意味だろ」


 佐々木が言う。


「走ってないだろ」


「走りかけた」


 桐谷さんが、右腕を押さえたまま短く足した。


 三郷は笑った。


 笑い方だけなら軽い。


 でも足元は、まだ射撃線の前へ向いたままだった。



 教官は的を外させなかった。


 壊れた木板も、穴の空いた布も、そのまま並べておく。


「終わった後に見るためだ」


 そう言って、僕たちを射場の端へ呼んだ。


「撃っている最中は、当たったか外れたかしか見えん。終わった後なら、どこを見ていたかが残る」


 的の穴は正直だった。


 山崎の弾は中央へ寄っている。けれど、最後の二発だけ少し上に逃げていた。


 桐谷さんの弾は、揃いすぎている。


 揃いすぎているから、右腕が無理をしているのも分かる。


「羽黒」


「はい」


「お前は何を見た」


 的。穴。弾数。


 腕。声。


 全部答えようとして、やめた。全部言うと、何も言っていないのと似てしまう。


「最後の二発です。山崎の弾が上に逃げています。疲れたのか、反動を先に避けたのかは分かりません」


「本人は」


「まだ気づいていないと思います」


 山崎がこちらを見る。


「気づいてるわ」


「じゃあ、言わなかっただけですね」


「嫌な言い方するな」


「仕事なので」


 三郷が笑った。


 今度は少し、本当に笑っていた。



 桐谷さんの右腕は、医務室へ行くほどではないらしい。


 らしい、という言い方になる。


 本人がそう言っただけだからだ。


「見せた方がいい」


「後で」


「今見せると面倒になる、は理由にならない」


 僕が言うと、桐谷さんは少し目を細めた。


「羽黒くんも、面倒なこと言うようになったね」


「たぶん前からです」


「前は、もう少し隠してた」


 それは否定できなかった。


 隠していたというより、言っても仕方ないと思っていただけだ。今は、言わないと記録に残らない。記録に残らないと、次の演習で同じことをする。


 右腕の負担。弾薬消費。反動を逃がす癖。


 声が前へ出る三郷。全部、格好よくない。でも、格好よくないものの方が次に残る。



 夕方、射場の端で薬莢を集めた。


 山崎が一つ拾い損ねて、三郷が足で止める。


「サンキュ」


「薬莢に礼言うなよ」


「お前に言ったわ」


 軽い会話だった。軽いから、少し助かる。僕は薬莢袋の口を縛った。


 数は合っている。合っているから終わり、ではない。


 桐谷さんは右腕を庇って歩いている。山崎は自分の最後の二発を気にしている。


 三郷は笑っているが、次に走る場所をもう探している。


 北の砦の演習は終わった。


 的に空いた穴だけが、まだ片づけられていなかった。

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