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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第一章 “夢”

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一章十二話 大きすぎる冠

《創世訓》 一章 十二節

『他者の灯を掲げても、己の夜は己の足で越えねばならない。』


2372- 第一王城地図室 エルトラル侯爵視点


 私は地図を眺め、思いを馳せていた。このオクズィーク・リッサジオール連合王国の広大な領土は五百年もの重みを持つ。アトラス大陸を西から東へと横断するのに何人の犠牲者が出ただろう。


 タダでさえ高低差が激しいその土地は、魔力の迸る月下造山帯ゆえに大量の魔物が棲み着く危険な土地であったのだ。


 五百年前の王国に思いを馳せる。当時の国王は賢王として有名だったらしい。


 有名だった「らしい」、というのは度重なる内乱、革命のせいで名前も残っていないからだ。残るのは彼の偉大なる(オクズィーク)という称号だけだ。


 彼は一体この世界を見てどう思ったのだろうか。どのようにしてこの偉大なる王国を作ったのだろうか。


 そして……今の王国を見たらどれだけ落胆するだろうか。


「エルトラル侯爵(マーカス)様。時間です」


「……ああ」


 折角の思索の時間を邪魔された。だが流石に王族との時間を無碍にすることなどはできない。有意義な時間はこれで終わりだ。


 服を整える。そこまで華美な服を着ているわけではないがこれでも大貴族だ。例え「あの女」に踏みにじられようが、私は大貴族だ。


「ではこちらに」


 側仕えが扉を開ける。そして私は第一王城内を歩き始める。



「やはり帝国に一度大きな一撃を! あの偽帝と愚民どもには『我らが威光』をくれてやるべきでしょうぞ!」


「全くポテンティオール公爵閣下の言う通りです! もはやあの国の挑発には我慢なりません!」


 ポテンティオール公爵家は、代々『死は魂の解放であり、死せば故郷へ帰れる』という教えを奉じている家だ。兵を死地へ向かわせる理屈として、これほど都合のいい教義もない。


 ここはもう王の諮問会ではない。国務代行法の名のもとに、臨時都市貴族議会が王家の代わりに決める部屋だ。都市貴族に教会、民族会議、あとは中庸派か。看板だけ違う連中が、同じ机で椅子を取り合っている。


 帝国は近年、連合王国の領土の一部に対して「これは帝国民族の古来よりの領土であり、連合王国はそれを不当に占拠している」との声明を出している。そして軍事的奪回も辞さないとも。


 帝国の民族的、歴史的中核地だとかなんだとか言っているが、結局は巨大な半島を背に持つ彼らが、アトラス大陸の中央部を欲しがっているだけだ。東西の街道に、河川の結節点。それから鉱山地帯と、その下に眠る迷宮資源。今朝もなぞった線だ。あそこを押さえられれば、王国の国境線は地図の上で折れ、遺物と魔導素材の流れも帝国側へ傾く。


 もちろん、帝国が見ているのは連合王国だけではない。中央部を押さえれば、南の諸国、内陸の鉱山道、迷宮都市の流通にも手が届く。王国は、彼らの大きな盤面に置かれた駒の一つに過ぎない。


 目的が見え透いている。それに加えての幼稚な威圧だ。だが、その話には裏がある。彼らには真の目的があるのだ。


「静かに」


 先程まで騒がしかった会議の場が一瞬で静まり返る。空気さえ震えないほどに、静かに。


 こんなコントロールの仕方ができる者など一人しかいない。王の代わりに出席しているランドマール第三王子だ。


「エルトラル侯爵(マーカス)。なにか意見はないか?」


 心の中で舌打ちする。「意見」はあるが、勿論ここで言えることではない。特に帝国の本音に関しては。


 心の中でタメ息をついた後に口を開く。


「王子。私には帝国の挑発に乗るべきとは到底思えません。断固として拒否し、国境の警備を固める……。それで充分でしょう」


 ため息が貴族たちの中から聞こえる。それが最善策だということは彼らもわかっているのだろう。あくまでも挑発だ何だに怒り狂っているのは演技だ。議席を守り、議会内での立場を盤石にし、上っ面だけの忠誠を示すためだけの。それに水を差した自分の行動に対して呆れているのだろう。


 構うもんか。無駄なことはさっさと削り捨てた方が王国のためだ。


 極論……。


 少し発言したきり、つまらなさそうに頬杖をついている王子に目をやる。


 今の王族すら無駄とも言えるだろう。


 貴族と財閥と宗派の謀略を許し、求心力を失った王族はいつか民衆に食われ、民主主義(デモクラシー)の名のもとに飾りとなる。


 早くとも遅くとも、王の名前はいつか必ず象徴という曖昧な存在となるのだ。「連合王国」はそんな終わりゆく国であっていいはずがない。


 滑稽なものだ。この部屋にいる誰もが、隣の家門を蹴落とす算段をしながら、口を開けば「同じ王国の血を引く者同士」と言う。殺し合う理由には事欠かないのに、家族だという建前だけは誰も手放さない。


 その建前のおかげで、我々はまだ一つの国のふりを続けていられる。皮肉なことだ。


 そうだ。いつか必ず。私がこの腐敗した連合王国を救うのだ……。



 議会からの帰り、側仕えが来客を告げた。第二王子の周辺を探らせている男爵だ。先触れもなしに来るとは、よほどの報せを掴んだのだろう。


「転移者?」


「え、ええ、そうです。奴らが第二王子の……第二王子殿下の元に、現れたのです」


 そう男爵が息も絶え絶えに言う。つい先程手に入れたのだろう話を喋る。話が漏れないように防諜魔法石付きの応接間で喋らせているが、まあ、気休め程度の効果しかないだろう。


「陛下は今は大病で臥せておられます。そんな中、第一王子殿下が原因不明の病で亡くなられたことはご存知かと思います」


「ああ、そうだな。それをトリガーに起きた数年前の異母兄弟の第二王子と第三王子の間での抗争は『見もの』だった」


 適当に相槌を返し、続きを促す。


 派閥争いに敗北した第二王子が城から追い出されたのは周知の事実だ。


「そんな中、第二王子殿下のもとに転移者達が現れたのです」


「はぁ、転移者が現れたことなど珍しくはないだろう。そいつらが王子に『不敬』を行ったのか?」


 転移者は様々な能力を携えてこの世界に侵入して来る「異邦人」だ。人族を無理矢理躍進させ、そして時には虐殺すら行う。


 また計画に邪魔が入ったか。いい神輿となる第二王子を猟奇的な転移者に殺されたとなればかなり厄介だ。


 だが、私はもっと厄介な可能性にたどり着いた。


「……まて、複数人いるのか? 何人だ」


 声が硬くなったのが自分でも分かった。男爵が唾を飲む。


「よ、四十名ほどです。第二王子殿下は彼らを用いて第三王子殿下の暗殺を計画している、との見方が広がっています」

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