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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第一章 “夢”

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一章十話 地に伏す影

《創世訓》 一章 十節

『苦痛のあと、名は掌より重くなる。』


『難しいことではないが、答えが在るわけではない、苦痛とはそういうものだ。』


 僕たちは四組に分かれて車に揺られていた……車と言っても日本でよく見かける乗用車というより、大型の装甲トラックのような明らかに軍用の車両だった。しかし、この世界で都市の外を車で移動する場合はこういうのが一般的らしい。窓の外には、城門を出てすぐなのに、銃眼つきの低い壁が続いていた。


 座席は向かい合わせで、背中のすぐ後ろに金属の壁がある。車体が跳ねるたび、壁の内側から工具箱みたいな音がした。床には滑り止めの溝があり、溝の間に昨日の泥とは違う乾いた砂が残っている。


 僕たちがいる一両目には騎士長も乗っており何やら運転手に話していたが、詳しい内容は分からなかった。


「本物の銃も撃てたし、軍用車両にも乗れるなんて、この前までじゃ信じられないよ」


「その意見には賛同するけどよ、つまり俺たちこれに乗るってことは兵士として扱われてるってことだぜ……俺は少し不安だよ……」


「大丈夫だって、二人とも! 私がついてるから!」


「いや、俺たちだけじゃなくて、みんなが心配なんだが……」


「えへへ」


 銃に詳しい男子の膝の上で、弾倉が一つ揺れている。これから相手が魔物とは言えど殺し合いをしに行く。隣の女子は笑っているけれど、腕はさっきより二人の肩に強く掛かっていた。


 あの三人は、教室の後ろでよく同じ動画を見ていた。画面の中の銃や車両にはすぐ名前をつけるのに、自分たちがそれに乗せられる側になるとは、たぶん誰も考えていなかった。


 三郷くんをつつく。


「ん? なんだ? あぁ、そういうことか、任せておけ」


「おーい、みんな、俺から大事な話がある!」


 みんなが、三郷くんの方を向く。


「んなに?」


「どうしたの~?」


「君たちにとってこれはとても重い話になるかもしれない」


 みんなに緊張が走る。


「俺たちはこれから何をするか分かっているか?」


「魔物を追い払って、物資の輸送を助ける! でしょ? 私に任せれば1.5人力よ!」


 若干環境に慣れてきたのか高橋さんが声を上げる……1.5人って微妙な数字だな。


「威勢がいいのはいいんだが、俺たちがこれからするのは”殺し合い”だ、相手が魔物とはいえお互いに容赦できる訳じゃないはずだ、高橋はたしか『不老不死』だったよな? 君は死なないかもしれない、でも他のみんなはどうか分らない……気を引き締めていくぞ!」


「そ、そうだね! 私は確かに『不老不死』だから、みんなの肉壁になるね! みんなも怪我とかしないように気をつけてね!」


「いや、肉壁は流石に不味いよ!」


「うわー」


 橘さんが高橋さんの頭を軽く叩くと、高橋さんは大げさにのけぞった。何人かが吹き出し、すぐに口を閉じる。車内の空気は、ほんの少し動いた。


 橘さんの隣で、大人しそうな男子が小さく笑っていた。声には出さず、彼女の方を見ていただけだった。


「報告! 11時の方向に大型魔物多数! 距離、2500m! 個体数、4! 種別、推定超重陸亀(ジャイアントトータス)の幼体、繰り返す────」


 始まった……始まってしまった。車が停車する。


「総員下車」


 後方のハッチが開き兵士の人たちからいそいそと車を降りていく。


「砲兵班は徹甲砲を用意 転移者どもは俺についてこい」


 徹甲砲というものがこの世界にはあるらしい。銃に詳しい二人曰く地球には存在しない概念らしく、この世界独自の物らしい。肩に担ぐ武器ではなく、車輪か砲架に載せて撃つ小型砲。対戦車砲とも訳せるかも知れないが、戦車が登場するよりも前から存在しているようだった。


 二人の声は、授業中に資料集の欄外を読む時と似ていた。早口で、少し楽しそうで、そのすぐ後に車体の揺れで黙る。


「俺たちで奴らの気を引く、お前らの攻撃が通るか分からない以上無理な攻撃はするなよ」


 僕たちは砲兵班から離れながら、銃や能力を放っていく。空間を歪める能力の女子は、走りながら使うのは難しいらしく銃を使って戦っていた。


 砲兵班は僕たちより少し後ろ、低い丘の手前に残っている。僕たちはその前へ扇みたいに広がり、魔物の進路を少しずつ左へ寄せる役だった。


 白い手袋なら似合いそうな喋り方をする人が、泥の上で銃を構えている。似合わない。似合わないのに、引き金を引く手順だけは崩さなかった。


 奴らはこちらの攻撃を鬱陶しがるように、地面を揺らしながら迫ってくる。動きはゆっくりに見えるが、図体が大きいぶん速い。このままでは追いつかれてしまうかもしれない。


「キルポイントまであと少しだ、最後まで気を引き締めろ」


 事前の説明によると、僕たちが魔物をこちら側が有利になる指定の場所まで誘い出しそこに徹甲砲を打ち込むという作戦らしい。


 「俺たちには華がないな」と雷撃の男子が言ってたけど、僕らで直接手を下さなくていいって運のいいことなのかもしれない。あんなデカブツを前にすると、口の中の水分がなくなる。


 その軽口も、いつもの教室なら誰かが拾って笑いに変えていた。今は車輪の音と砲兵の怒鳴り声に混ざって、半分だけ消えた。


 幼体は撃ち返してこない。僕たちが扇の左側だけを濃く撃つと、四体の進路が少しずつ右へずれ、低い丘の正面へ重なった。後ろに置いた徹甲砲から、四体の甲羅が見える位置だ。


「砲兵隊、撃て!」


 騎士長が何やら通信機のような物を構え叫ぶ。別に叫ばなくても通じそうな気はするけれど、こういうのは気勢が大事なのかもしれない。


 背後の丘から腹に響く発砲音が続き、一拍遅れて、金属同士を叩き合わせたような音が前から返った。


 甲羅の縁と脚の付け根に白い傷が走る。一体が前脚から沈み、後ろの一体が避けようとして横腹を砲兵へ向けた。そこへ次の煙が上がった。


「「「ギュワァァァ」」」


 断末魔……だろうか? 煙が薄くなった時には、四つの甲羅は進路の上で重なるように止まっていた。


「あっけなかったね……死んじゃった……のかな?」


 村雨さんがそうつぶやく。動かなくなった甲羅の縁から、黒い煙が薄く上がっていた。砲兵の一人が遺体の方へ行きかけ、別の兵に止められる。回収する余力はないらしい。視界の端の方で、結局残ることにした白海くんが何やら手を合わせているのが見えた。


 それから僕たちはシュメーダさんと合流することになったみたいだ。この世界の冒険者というものがどういうものかはよく分からないし、どれくらい強い人なのかも分からなかった。


 車で揺られること三十分……銃を撃つ音や金属が何かにぶつかる音が聞こえる。


 窓の外に線路が見えた。線路の向こう側に装甲列車、そのさらに奥に灰色の煙。音は前から来ているのに、煙は横へ流れている。


「どうやら、やりあってるみたいだな、相手は森猿人(ゴブリン)、それも中隊規模……厄介な相手に当たったな……」


 今は見張りをしている騎士長が言う。


「よし! せっかくだし華を持たせてやる。転移者ども、戦う準備をしておけ!」


 車内で誰かが鼻をすすった直後だったので、その発言は少し浮いて聞こえた。騎士長は振り返らない。もう次の戦闘だけを見ている。


 列車……いや装甲列車から機関銃が放たれるなか、一人森猿人(ゴブリン)の中に突っ込んでいく影がある……かなり背丈が高いように見えるけれど、女性のようにも見える。


 長剣が横へ走る。先頭の森猿人(ゴブリン)が倒れ、後ろの列がぶつかって止まった。


 何やら装飾がきれいな森猿人(ゴブリン)、隊長だろうか? の指揮で杖を持った森猿人(ゴブリン)達が一斉に魔法を放ち、棍棒を持った森猿人(ゴブリン)達が一斉に駆け寄る。


「よっと」


 魔法弾を飛び越え、高く舞う。腰に付けた爆弾のような物を地面へ叩きつけると、爆風と同時に体が光り、魔法弾の列を斜めに越えた。あんな使い方もできるんだ……。


 そして、背中に背負った小銃を空中で構え、撃つ。


 隊長森猿人(ゴブリン)? の頭が爆ぜ倒れる……凝視はしないでおこう。出発する前に掛けられた魔法により精神的なダメージを軽減してもらえるとは言えあまり長時間見てられるものではないかな。


 隊長? がやられたせいか森猿人(ゴブリン)達ぎゃぁぎゃぁと叫びながら一斉に逃げ出す。あ、一匹こけた……。


 そのうち数匹が、線路脇の低い盛土へ寄っていく。


 装甲列車の機関銃は撃ち続けている。けれど、盛土の陰に入った個体には弾が浅く散っていた。銃身の向きが追いつかないのか、車体の下へ潜られるのを嫌がっているのかは分からない。


 でも、あそこに逃げられるとまずい。


「アンテラルさん、右の盛土です。列車の銃が届きにくい」


 声は大きくなかった。けれど騎士長は、すぐにそちらを見た。


「見とれてる場合じゃないぞ、追撃しろ!」


 僕たちは車体を背にして膝をつき、セーフティを外した。盛土へ入る手前から順に狙う。前の一体が倒れると、後ろが止まり、そこへ次の弾が入った。


 銃創から血が流れるのがはっきり見える。僕たちと同じ、赤い血だ。


 何を言っているのか分からないけど、倒れた個体の方へ手を伸ばすものもいた。銃床が肩に食い込む。僕は照準の輪の外側だけを見るようにした。


 ほとんどの森猿人(ゴブリン)が倒され、少し逃げ延びたようだった。クラスメイト達のうち、何人かは銃を下ろすのが遅れ、何人かは弾倉を外す手順を二度やり直していた。


「お前ら、これが”知性を持つ魔物”を殺すってことだ、慣れないとこの先やってけないから今のうちに慣れておけ。」


 クラスメイト達は頷いたり俯いたりしていた。そこへ一人の人影がやってくる。


「初陣にしては上出来だね、転移者君たち」


 さっきの女の人がいる。さっきは良く見えなかったけどこの人がシュメーダさんなのかな?


「アタシはシュメーダ、一応ウラーナ級冒険者だ」


「ウラーナ級?」


「ぐふッ……すっげェ……」


 タッパのでかい女を見て雷撃の男子が鼻血を流す中、僕は聞き返した。


「あーもしかして。冒険者について何も知らないのか?」


「あぁ、まだだったはずだ」


「これアタシが説明しないといけない感じ?」


「頼む」


「あいよ。よく聞きな! この国の産業を支える”冒険者”ってのがどういう奴らなのかを教えてやる」


 冒険者……異世界ファンタジーの定番っちゃ定番だけど、この世界だとどんなものなのだろう?

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