表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第一章 “夢”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/128

プロローグ:そして夢は潰えた。

《創世訓》 一章 零節

『光はまず天に生まれ、地に触れた時、夢の名を奪う。』


 耳の奥がジンと痺れる音が、足元の石畳を震わせた。崩れた城壁の裂け目から覗く空は、硝煙で鉛色に沈み、風に流れる土埃だけが薄茶色の筋を引いていた。


 崩れきらずに残った城壁の上には、まだ何挺かの銃口が、外へ向いたまま並んでいた。


 鼻をつく火薬の匂いに、獣の血の生臭さが遠くから混じっている。風が吹くたび、それが薄くなったり濃くなったりする。誰かが怒鳴っている。砲声なのか、崩れた壁の音なのか、もう区別がつかない。


 近くで金属が軋む音がした。誰かが盾を立て直している。揃わない足音がいくつも重なって、こちらへ近づいては、また離れていく。


 瓦礫の隙間から、誰かの手だけが覗いていた。動いているのか、動いていないのかは、ここからでは分からない。


 僕は肘を突いて、少しだけ体を起こした。手を伸ばせば、届くかもしれない距離だった。


 次の瞬間、頭上で空気が裂けた。反射的に身を伏せる。少し先の瓦礫が跳ね、細かい破片が頬をかすめた。


「動くな、伏せてろ!」


 聞き覚えのない怒鳴り方だった。従うしかない。


 僕はもう一度、石に背中を押しつけた。伸ばしかけた手を、ゆっくり引き戻す。瓦礫の手は、それきり動かなかった。


 少し離れた場所で、新しい爆発音がした。今度は、さっきより近い。誰かが短く悲鳴を上げ、すぐに途切れた。


 足元の石畳に、新しい亀裂が走った。ひび割れが靴の先まで伸びてくるのを見て、僕は体を少し横へずらした。


 僕は石に背中を預けたまま、手の中の紙片を握り直した。端が湿って、指の形にふやけている。そこには、さっきまで意味を持っていた数字が並んでいる。


 さっきまであちこちに浮かんでいたはずの『0』も、今はもうほとんど見当たらない。ひとつ、またひとつ、瞬きの間に消えていくのを、僕は数えることさえできなかった。


 紙は薄い。なのに、今の僕にはやけに重かった。


 今は、ただの染みみたいに見えた。ここに来てから、どれくらい経ったのだろう。数えようとして、途中でやめた。数えたところで、何かが戻るわけでもない。


 どこか遠くで、また地面が一段大きく揺れた。頭上の裂け目から、細かい砂が落ちてくる。目を閉じてやり過ごす。開けると、視界の端が少し白くかすんでいた。


 利き手の甲に、乾いた血の筋が一本残っている。誰の血かは分からない。自分のものだと思うには、痛みが少なすぎた。


 最初は、もっと違うものだと思っていた。剣と魔法と、少し都合のいい奇跡。けれど、銃口はいつもこちらを向くし、魔法は誰かを救う前に誰かを削る。紙片の数字は残っている。誰の声だったかは、もうそこに書かれていない。


 誰かが遠くで、僕の名前らしきものを呼んだ気がした。返事をする力は、今は残っていなかった。立ち上がろうとして、右足に力が入らないことに気づく。もう一度、同じ声が呼んだ。今度は少し近い。答える前に、地面がまた大きく揺れた。


 足音が近づいて、止まった。誰かの影が、頭上の裂け目からの光を遮る。何か言われた気がしたが、言葉としては拾えなかった。次の瞬間には、その影ももう動いていた。


 喉の奥もひび割れている。水はとっくに切れていた。渇きより先に、立ち上がる気力の方が切れかけていた。


 轟音が一度、遠くへ退いた。束の間の静けさの中で、意識が横へ滑っていく。


 それでも、始まりはもっと軽かった。何も知らなかった僕は、たぶん少し笑っていた。


 英語の授業で、担当の声がやけに眠たかったこと。黒板の文字も、半分も頭に入っていなかったこと。帰り道、コンビニで何を買うか迷っていたことすら、もう遠い。あの頃の悩みは、こんなに軽かったのに。


 教室の窓から見えた、なんてことのない曇り空。あれが、こんな場所につながっているとは思わなかった。


 あれはそう、こんな日から始まったんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xの企画から来ました。 「剣と魔法と、少し都合のいい奇跡」を期待した異世界が、砲声と硝煙の戦場だったという転換が重く刺さりました。五感を総動員した戦場描写の解像度が高く、瓦礫から覗く手や湿った紙片とい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ