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花火  作者: ばっさー
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3.裏切り

7月20日、戒厳令発令から4日が経過した。東京の街は依然として武装察の監視下にあり、市民の生活は圧迫されていた。コンビニの棚は品薄になり、闇市では食料や電池が法外な値段で取引されていた。通信網の復旧は進まず、政府の公式発表はラジオを通じてのみ流されていた。「秩序の回復にご協力ください。反政府勢力への支援は厳罰に処します」だが、その声は市民の不感を煽るだけだった。街角では、「まぼろしの民」の名が囁かれ、彼らを英雄視する若者たちが増えていた。

首相官邸の会議室では、佐藤和彦が閣僚たちと向き合っていた。連日の徹夜で彼の目は血走り、声には苛立ちが滲んでいた。「通信がまだ復旧しないだと?国民が暴動を起こす前に何とかしろ!」総務大臣が縮こまりながら答えた。「復旧作業は進めていますが、闇のネットワークが邪魔をしていて....」佐藤は拳をテーブルに叩きつけた。「闇のネットワークだと?そんなものがなぜ生きてるんだ!」彼の怒りは、政府の無力さを露呈する現実に向けられていた。

佐藤の疑心暗鬼は日に日に増していた。閣僚の中に裏切り者がいるのではないか?彼は昨夜、側近の山田に命じた藤井の監視を思い出し、鋭い目で外務大臣を見据えた。60歳の藤井は、閣議の間ほとんど口を開かず、ただ静かに座っていた。穏やかな表情は、まるで嵐の中の静けさを装っているようだった。佐藤は我慢できず、直接切り出した。「藤井、お前、最近妙に静かだな。何か隠してるんじゃないか?」藤井は一瞬目を上げ、静かに答えた。「国民の声をもっと聞くべきだと、私は思います。強硬策は逆効果です」その言葉に、会議室に緊張が走った。

佐藤は藤井を睨みつけた。「今さら何だ?お前、

5年前のことを忘れたのか?」その一言に、藤井の顔が微かに強張った。5年前、彼は内閣府で田中の上司だった。彼女が盗んだ機密文書一佐藤が大企業から裏金を受け取っていた証拠ーを公表しようとした時、藤井はそれを握り潰し、田中を追放した。その裏切りが、彼女を「まぼろしの民」のリーダーへと変えたのだ。佐藤は藤井の過去を知っていたが、それを公にすることはなかった。

藤井が忠実な犬であり続ける限り、彼にとって都合が良かったからだ。だが今、藤井の態度に異変を感じていた。

その夜、藤井は官邸近くの公衆電話から暗号化された回線で連絡を取った。相手は田中だった。

「もう限界だ。あの文書を渡すよ。」彼の声は震えていた。5年間、田中への罪悪感に苛まれていた藤井は、ついに決断を下したのだ。電話の向こうで、田中は静かに答えた。「ありがとう、藤井さん。でも、なぜ今?」藤井は一瞬黙り、やがて呟いた。「あの日の赤い花火を見た時、君の怒りが分かった。あれは私への警告でもあったんだろう?」田中は小さく笑った。「気づくのが遅いよ。でも、助かる」

地下のアジトでは、田中が仲間たちに新たな計画を伝えていた。コンクリートの壁に貼られた地図には、赤いピンに加え、青いピンが一つ、東京湾の海洋庁舎を示していた。Kが興奮気味に言った。「藤井が裏切ったんだ!文書があれば、佐藤を一気に潰せるよ!」ハナは慎重な口調で尋ねた。「でも、藤井を信じていいの?5年前の裏切りを忘れたわけじゃないよね?」田中は頷いた。「忘れてない。でも、彼の罪悪感は本物だ。利用できるなら利用する」彼女の目には、冷徹な計算と復讐の炎が宿っていた。

一方、山田は佐藤の命令通り、藤井の動向を探っていた。官邸の廊下で、彼は藤井のデスクに置かれた赤いピンのデザインのペンを見つけた。

一瞬息を呑み、彼はそれを手に取った。山田はかつて内閣府で田中と同期だった。彼女が「正義の火」を掲げて赤いピンを配った日を、彼は覚えていた。あの頃、彼は田中の理想に共感しつつも、黙って見過ごした。そして今、そのピンが再び彼の前に現れた。山田はポケットの赤いピンを握り潰し、心の中で葛藤していた。佐藤に忠誠を尽くすべきか、それとも....

闇のネットワークでは、「まぼろしの民」の支持がさらに広がっていた。新たな投稿が拡散され、「次は青い花火だ。希望の光を見る」と書かれていた。街では、若者たちが青いペンキで壁にメッセージを書き始めた。「冷血宰相を倒せ」「民意はここにある」佐藤はその動きを知り、怒りに震えた。「希望だと?ふざけるな。山田、藤井を徹底的に調べろ。奴が裏切ったら、容赦しない。」

官邸の外では、夜空に微かな風が吹いていた。

藤井の裏切りが明らかになる時が近づき、山田の迷いが決断を迫られていた。田中の青い花火は、希望か、それともさらなる混乱か。物語は次の局面へと進んでいた。

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