▽5・4 ――・父親の努力の結晶、プランヴェルを倒すための力の継承
ヨシノリの足音だけが響く静寂。
それが一発の銃声を皮切りに、静寂が一気に破られる。
「この音、まさか!」
聞こえてくる銃声と爆発音。明らかな戦闘音。
それら全てが格納庫から聞こえてくる。
「そんな!」
戦闘が始まってしまった。
不安と焦燥が全身に駆け巡る。
あの囲まれている状況では二人の生存は絶望的。
「頼む、間に合ってくれ!」
不安と焦燥が胸の内に絶え間なく広がり続け、ひたすらに走り続ける。
走り、走り続けて、格納庫が近くなってくる内に戦闘音が止まった。
既に殺されたかもしれないという絶望。
そして戻ってきた。ユリとノアがいる場所へと、破壊されたプランヴェルの機体たちの残骸が倒れている場所へと。
「ノア軍曹! ユリ少尉!」
破壊された機体たちの中心にいる二人の『ベースドアーマー』の姿。装甲のあちこちに弾痕があり、立ち尽くしている。
死んでいるかもしれない。
「軍曹、返事を! 少尉!」
二人を呼ぶ。生きていることを信じて。
「お願いです!」
呼び続ける。
すると、願いが届いたように二人の『ベースドアーマー』が反応した。
「ヨシノリ!」
「ヨシノリ君……!」
信じた末の結果、二人の返事は返ってきた。二人は生きている。
ヨシノリはすぐさま二人に合流した。
「良かった……軍曹も少尉も、無事で!」
「ちゃんと戻ってこれたな。お前も無事で良かった」
「ヨシノリ君が戻ってこれて、本当に良かった……!」
誰も死んでおらず、怪我もない様子。
ヨシノリも、ノアもユリも心の底からホッとする。
「これで全員揃いましたね、ユリ少尉」
「はい! プランヴェル軍の機体は先ほどの悲鳴と同時に動きが鈍くなった隙に殲滅出来ましたし、障害がない今の内に脱出しましょう!」
三人生き残っての脱出。敵は殲滅出来ている状況。
この奇跡的な今の状況を活かさない手はないが、問題はある。
「脱出は良いのですが、ヨシノリの『ベースドアーマー』を弾除けにしたので大破していますよ。どうします?」
ノアが弾除けに使ったと言う、ヨシノリの『ベースドアーマー』は言葉通りに大破。
バイザーは割れ、装甲は所々貫通。武装と背部ユニットも被弾によって破損している。
これではまともに動くどころか、機体が起動するかも怪しい。
「だったらプランヴェル軍から奪い取っちゃいましょう。ここは丁度格納庫ですから」
「鹵獲って訳ですね」
「賛成です。さっさと頂きましょう」
そこでユリは鹵獲を提案。ヨシノリもノアも鹵獲の提案に乗った。
鹵獲に向けて動き出す。
格納庫内には鹵獲された人類連合軍の兵器がズラリと並んでおり、その中には改造されて未知のエネルギー砲付きの機体もある。
「……?」
だが、ヨシノリはなにかの気配に釣られて並んだ兵器たちとは別の方を見る。視線の先は光が当たらない薄暗く陰になっている場所。
足先を気配の方へ向けて歩き出す。
「ヨシノリ君?」
「おい、そっちになにかあるのか?」
二人の声が遠くなる。ひたすらに気配のする方に引き寄せられていく。
引き寄せられた先にあるもの。
ヨシノリの足は気配の元へと来る。
「父さんの……」
視界に映る気配の元。血のように赤く、恨みの如く暗い色をした10mの人型兵器。
朱殷の巨人。
「あの時に見たのと似ている」
その機体はヤン将軍が乗っていた『真龍』と同じ。
しかし細部が違う。ヤン将軍の『真龍』は手も腕もある機体なのに対して、朱殷の巨人は前腕と手が違う。まるで異形かのように前腕と手に当たる部分は変形機構のある武器らしきものになっていた。
その腕以外は全くの同一。肩部の30mmガトリングとミサイルポッド、背部の武装には140mm滑腔砲、ヤン将軍の『真龍』とまるっきり同じである。
「わぁ、こんな機体が……」
ヨシノリの後ろを追って、ユリとノアも朱殷の色をした巨人を目に映す。
「ユリ少尉、あっちにも機体があります」
そのままノアは朱殷の巨人の向こう側にいる複数の黒い巨人を見つけた。その機体たちの姿も朱殷の巨人と『真龍』に似ているが、印象は『ベウ・マサクレイ』に近い。
黒い巨人の右腕部には『ベウ・マサクレイ』と同一のエネルギー砲、左腕部には未知のシールドが搭載。背部と右肩部には、エネルギー砲と繋がった未知のユニット。左肩部には30mmガトリングかミサイルポッドのどちらかしか搭載されていない。
「あっちはプランヴェル軍の『ベウ・マサクレイ』に似ている……?」
「そのようですね、少尉。私たちもこれ鹵獲します?」
「まずはヨシノリ君に……って、あれ? ヨシノリ君?」
二人が鹵獲する機体を吟味している間に、ヨシノリの姿が消えた。
どこにいるのか?
二人は辺りを探し、朱殷の巨人を見上げると、そこにヨシノリがいた。
「あっ、あそこにいた。その機体にするんですね、ヨシノリ君!」
「っ……はい!」
ハッと我に返ってユリに返事を返す。
そしてまた意識は機体に引き寄せられ、今度は朱殷の巨人に乗り込む。
「うん? まぁ、とりあえず私たちもプランヴェル軍の兵器を取っちゃいましょう」
「プランヴェル軍の強力な兵器を奪える、またとないチャンスですからね」
ヨシノリが朱殷の巨人に乗り込む一方、二人は『ベースドアーマー』で黒い巨人の上に上がり、機体を乗り換える。
そこから先はコックピットハッチが開きっぱなしのコックピット内部。
「中はヤン将軍の機体と同じ……父さんが作った機体と同じか……」
コックピットモニターや操縦桿の類は『真龍』同様一切なく、座席に付いた操作パネルと座席の後ろから伸びる配線と繋がったヘルメットがあるだけ。
「俺も動かせるなら」
ヨシノリはコックピットの座席へと座る。
もちろんそれだけで、なにかが起こる訳ではない。
「このヘルメットか」
であればと、座席のヘルメットを手に持った。
「さっきのラブラブ部屋で見たのと同じやつ……」
そのヘルメットはプランヴェルが洗脳に使った拡張メットと同型。
「行くぞ」
プランヴェルの洗脳を思い出すが、ヨシノリは覚悟を決めてヘルメットを被る。
「よし」
今度は自分の意思で、ヘルメットで視界を覆う。
途端、コックピットハッチが自動で閉まり、起動音が鳴り始めた。
「今度は俺が父さんの機体を!」
ヘルメットを被ったのは正解であった。
操作パネルに光が灯り、ヘルメットのHUDが表示される。
起動が始まった証。
「うぅっ……?」
そして起動の先にあるのは意識と機体の直結。
「この機体もやっぱり、さっきの洗脳みたいに意識をなにかして――」
自分という存在から更に強大な存在へと身体が拡張されていく。
――拡張メット装着者の意識を確認
――身体拡張システム(Body Extension system)作動
――イズレット粒子活動確認
――プロトタイプ人型身体拡張兵器(Prototype BE sys Humanoid)『魂解』稼働開始
「ぁ、っ……! プロトタイプ?」
気が付けば、ヨシノリはコックピット内部ではなく、格納庫の壁を見ていた。
「なんだ? この目線の高さと周りの情報表示は……」
身体の拡張。まるで自分が朱殷の巨人そのものになった感覚。
「……そうか、今の俺は機体なのか」
ヨシノリは早々にこの状況に順応。
試しにと自分の身体を動かす要領で動く。そうすれば動作の遅延なく機体も動いた。
「やっぱり俺が動く通りに……いや、俺の思う通りに動いてくれる」
手早く要領を掴んできた。思考だけで武装の使用を促すと、視界の中心に照準が現れて各種武装の表示と発射が出来るようになる。
「ヨシノリ、そっちは動かせたのか?」
「こっちはまだやり方が分からないのですが、そっちはどうやったのですか?」
二人の声。自分の身体を動かすように機体の頭部と視線を二人に向ければ、起動の仕方が分からないユリとノアの戸惑う様子が見えてくる。
「コックピットの座席にヘルメットがありますよね?」
「はい! あります!」
「こっちの機体にもあるぞ!」
二人の機体の方にもヨシノリの機体――『魂解』と同じものがある。
つまり起動の仕方は同じだ。
「そのヘルメットを被れば勝手に起動します。後は身を任せればなんとかなりますよ」
「なるほど。機械仕掛けのプランヴェルにしては人間が乗ることを想定しているように感じますけど、まずは乗りましょうか」
「ありがとな、ヨシノリ! 早速起動してみる!」
二人に起動の仕方を教えた。
後は二人の機体の起動を待つのみ。
それから数十秒を要して――
「なっ……!? こ、これは?」
「私たちの体、さっき自分が乗った兵器になっている?」
ユリとノアも意識を機体に直結。自らの身体を機体へと拡張した。
「軍曹、少尉、動かせますか?」
「私の方はなんとか行ける。少尉は?」
「私もやれます。自分の体を動かす要領でやれば、慣れるのは簡単ですから」
二人の順応も早く、迅速に全員分の鹵獲が終わる。
「後は脱出だけですね。また入り口を破壊する方向性で行きますか?」
鹵獲の後は脱出をするのみ。格納庫の巨大な出入り口たる出撃ハッチは固く閉ざされており、ヨシノリは開け方を知らない。
「ユリ少尉、派手に行きます?」
「フフフ……ぶっ壊しましょう! この機体のイズレット粒子砲というのも試し撃ちしてみたいですから!」
「決まりですね。ヨシノリ、出撃ハッチを破壊して脱出する。派手にやるぞ」
「了解!」
三人は機体に搭載された高出力Fデバイスによる推力だけで移動、格納庫の出撃ハッチを前にしてそれぞれの主武装を向ける。
ヨシノリは背部に搭載された140mm滑腔砲、ユリとノアはイズレット粒子砲という名のプランヴェルが使うエネルギー砲を出撃ハッチに向ける。
「一点に集中射撃、発射!」
掛け声と同時に放たれる、ユリのエネルギー砲――イズレット粒子砲。
ユリに続いてヨシノリとノアも射撃。
イズレット粒子砲と140mm滑腔砲による高火力で出撃ハッチの一部分を破壊、機体が通れる大きさの穴を作る。
「よし、外が見えたぞ」
そうして出来た穴の先には、夜中の空の光景が広がっていた。
先ほどプランヴェルの悲鳴の後に急激に重力が掛かったのは宇宙から『ヘキサ』に落ちたということ。
「外は大気圏内」
「丁度良いですね」
外が大気圏内なら、酸素残量など気にせず脱出出来る。
しかもプランヴェルは追いかけてこない。まさに脱出の好機だ。
「お二人とも、行きます!」
「ヨシノリ、遅れるなよ?」
「はい!」
三機はプランヴェルの母艦から夜中の空へと飛び出し、三人揃って脱出する。
「このまま森空基地に向かいます」
「マップ表示。現在地と森空基地の位置をそちらに共有します。行きましょう」
プランヴェルの母艦が追ってくる気配はなく、三人は誰からの妨害もなく森空基地へと飛んでいく。
「プランヴェル、追ってくるなら追ってこい。今度こそ終わらせてやる」
背後で蠢く者。激情を向ける者。
プランヴェルとヨシノリの決着と結末は近付く。




