▽4・11 ――・宇宙に漂う陰謀と破壊者の秘密
「アギタ中尉、目的はヨシノリか?」
「的中だ、ノア軍曹。タキ一等兵が監視下にある地上から姿を消して、上層部も教官たちも焦っている。僕も上の連中と同じく、内心はすごく焦っているよ」
そう告げるアギタもまた、リンザワ同様にクーデター勢力の一部。
「なぜ焦るのですか?」
相手は敵だが、敵意はまだ向けてこない。
まともに話が出来る内にユリは情報を引き出し始める。
「タキ一等兵は化け物だ。野放しにするには危険過ぎる。だから早く回収したい。今ならなるべく穏便に済ませられるんだよ、噂の令嬢少尉さん」
アギタの口から引き出した敵が焦る理由。監視下から外れたヨシノリが計画の敵となる前に回収するという単純なものだ。
「もしも合流した場合、その後の私たちはどうなりますか?」
「それは上層部が決めることだ。我々の知るところではない」
「それは困りますね。では同行しますが、条件があります。よろしいですか?」
情報を引き出した次にユリがやるのは交渉。
「分かった。早く言ってくれ」
「私たち三人を離れ離れにしないこと。私たちにあらゆる危害を加えないこと。この二つが条件です」
相手は焦っている。その焦りを利用して二つの簡単な条件を出す。
「そんな下らない条件は受け付けられない!」
「こちらにはタキ・ヨシノリ以外の殺害許可が出ているんだぞ!」
アギタの周りの兵士がユリの条件を勝手に蹴った。
相手は数的有利にあり、敵意を出している。
「では、交渉は決裂と判断します。ヨシノリ君、敵を迎撃してください」
「待て! 我々は君たちの条件を受け付ける、交戦はしない!」
「アギタ中尉! 相手はたかだか三人、条件なんて――」
三人への敵意を口に出した者の声が途切れ、相手の一機が力を失う。
同時に相手の機影が一つ消失。敵が一人死んだ。
「我々の目的は殺害じゃない、回収だ! 彼らに敵対する者は即刻死刑にする!」
「こほん、条件は受け付けると判断してよろしいですか?」
「当たり前だ。タキ一等兵と敵対するのに比べれば、そちらの条件は安いものだ」
これで交渉の決裂は避けられた。
ヨシノリが戻るという相手の目的、全員で生き残るという三人の目的。
互いの利害は一致。交渉は成功した。
≪フフフ……!≫
しかし微笑む大人びた少女の目的は果たされていない。
「なっ!? 攻撃だ!」
隠れていた者が姿を現し、アルファ臨時中隊の上方から光弾の雨が降り注ぐ。
「この攻撃、プランヴェルだ!」
プランヴェル軍の奇襲。多数の『ベースドアーマー』が待ち伏せていた。
「やはりこの時を狙っていたか!」
機体が次々に光弾に射抜かれ、輸送艦は穴だらけになって大爆発を起こす。
あっという間にアルファ臨時中隊の機体数は半数に減ってしまった。このままでは全滅するだろう。
「アギタ教官! 今助けに――」
「全機、これよりプランBに移行! タキ一等兵を奴に渡すな、殺害せよ!」
「え……」
プランヴェル軍の迎撃ではなく、ヨシノリを殺害する命令。
アギタを含めて生き残っているアルファ臨時中隊は、プランヴェルの攻撃を避けながら助けに来るヨシノリを殺しに行く。
「ヨシノリ君、迎撃を! アギタ中尉はあなたを殺そうとしています!」
「クソ、またか……クソォォォォ!」
また見知った顔を殺さなくてはならない。自分たちが生き残るために。
ヨシノリは機体のリミッターを解除。戦闘機動を取り、完全に敵となったアルファ臨時中隊を殺しに行く。
「タキ一等兵、お前という化け物を野放しには出来ないんだよ!」
「それだから、どうしたっていうんです! どうして助け合えないんですか!」
互いに殺意を巡らせ、既に互いの射程内。
それぞれの動機と思惑で、それぞれの引き金を引く。
「この場を一緒に生き残れば、みんなで地上に戻れるのに!」
「プランヴェルは邪魔者の僕たちを必ず全員殺す! そうなったら、お前は盗まれる!」
殺し合いを始めて、互いに言葉をぶつけながら流血は広がる。
アルファ臨時中隊の兵士が一人、また一人と命が消えていく。
「だから俺が助けられるなら……!」
「プランヴェル軍は絶対に僕たちを殺す! だからお前をここで殺すしかない!」
ヨシノリが一方的に命を奪っていくだけの殺し合い。
後方からのプランヴェルの攻撃に、ノアとユリの援護もあり、命の消費は加速する。
「これも全ては人類全体のためだ! だからタキ一等兵、もう一度死んでくれるか?」
「俺は死ねない! みんなと一緒に生きていたいから!」
命の消費の末に残りのアルファ臨時中隊はアギタ一人。
それでもヨシノリと正面から撃ち合い、互いの攻撃を避け合いながら接近。真正面から機体を衝突させる。
「化け物め! 人間のままで死ねば良かったのに!」
「俺は人間ですよ、昔も今も!」
スラスターの推力に任せて機体を押し合い、意思と武器をぶつけ合う。
「一度死んで生き返った奴が人間だと言えるか!」
「俺が死んだ……?」
そしてアギタの口から秘密が吐かれた。
「そうだ、お前は核兵器で死んでいたんだ! 現場にいた当時は衝撃だったよ。黒焦げの死体が勝手に自己蘇生して、突然変異体となって生き返ったんだからな!」
「じゃあ俺は父さんが守ってくれたからじゃなくて、突然変異で生きて……!」
暴かれた秘密。真実を知って、動揺したヨシノリはアギタに押されゆく。
「だからお前は生きるな! その化け物の力と共に、この世を去ってくれ!」
「俺は!」
そして秘密を聞いた上でヨシノリはアギタを押し返す。
「生きる!」
「お前の存在は世界に深刻な影響を与えるんだぞ!?」
「それだとしても俺は生きたいんだッッ!」
ヨシノリの身体の秘密。絶大な力がもたらす世界への影響。
それら問いへの最終回答と共にブリーチングパイルをアギタに突き刺す。
「あ、があっ……!」
装甲を貫通、アギタの腹をも刺し貫いた。
そして杭を分離、信管を作動、ヨシノリは別れるようにその場を離れる。
「死んでください、アギタ教官。俺たちが生き残るために……」
「タキ……一等兵……!」
信管の作動した杭が爆発。アギタは爆発の中に消えていった。
アルファ臨時中隊は全滅。プランヴェル軍の攻撃は止まる。
≪フフフ……タキ一等兵、流石だ≫
プランヴェルに乗っ取られる通信。ヨシノリにだけ、その声は届く。
「プランヴェル、テメェ……! お前が攻撃をしなければ、全員生き残れたのに!」
プランヴェルによる攻撃がなければ誰も殺さなくて済んだ。
ヨシノリの怒りは込み上げる。
≪すまんな。だが、必要なことだ。貴様たちのためにもな≫
「俺たちのために必要なことだって? だったら放っておいてくれよ!」
≪放ってはおけないさ。奴らは条件を聞いても守りはしないからな。それにこのまま貴様たちが酸欠で死ぬのは人道的な観点から見過ごせない≫
「助かる方法はお前しか持っていないとでも?」
≪その通りだ≫
「その割には帰りの足に使えた輸送艦も破壊しているが?」
≪マッチポンプだと言いたげだな。だが、違う。私はリスクを片付けたに過ぎない≫
話せば話すほど、言葉の裏でなにか見え隠れしている。
「リスク? なんのつもりだ、なにが目的だ?」
言葉の裏に隠しているもの。それを暴くのにヨシノリは質問を重ねる。
≪それは私のところに来たら教えてやろう。ほら、酸素がなくなると辛いだろう?≫
プランヴェルから明確な質問の答えは来ない。
「そうか、結局は連れていくつもりだな?」
だが、その行動から言葉の裏に隠されているプランヴェルの本心を見つける。
「ハイロウ要塞での爆発も、天倫基地での加勢も、昇降機が破壊されていたのも、アギタ教官を殺さないといけない状況を作ったのも、全部このためなんだろう?」
≪フフフ……また看破されてしまったな。嬉しいよ≫
言葉の裏に潜む本心が暴かれた今、プランヴェルはもう隠す姿勢を見せない。
≪光学迷彩解除。さぁ、来たまえよ≫
その姿も隠す必要がなくなり、周りの景色と同化して隠れていた500mの巨大な母艦が三人の目の前に姿を現す。
「な、なんだ!?」
「これは、プランヴェルの母艦!? 光学迷彩で隠れていたなんて!」
初めて見るプランヴェルの母艦。
ユリとノアが驚く一方、ヨシノリはプランヴェルの母艦を怒りの目で見る。
≪こっちだ。入りたまえ≫
プランヴェルの母艦がハッチを開いて三人を誘う。
昇降機も輸送艦も破壊された今、他に行き場はない。
「敵対してこない……なんか、都合良く誘導されていますね」
「ヨシノリ、奴はお前の敵だ。相手はこっちを招き入れたそうだが、どうする?」
≪是非とも招き入れたいな。タキ一等兵。貴様の判断をみんなに聞かせてくれ≫
プランヴェルに乗っ取られていた通信が解放され、同時にノアから判断を委ねられる。
この場の全員が聞くことが出来る、ヨシノリの判断は――
「ここは奴に応じましょう。拒否すれば撃ってくるでしょうし、なによりユリ少尉とノア軍曹を無闇に死なせたくありませんから」
誰一人欠けずに助かることを選ぶ。
「分かった。ユリ少尉もいいですね?」
「怪しさ満点ですけど、帰りの足がない以上、応じる他ありませんね」
ヨシノリの判断の下、三人の意見は固まった。
三人は人類連合軍の巡洋艦よりも巨大なプランヴェルの母艦へと足を踏み入れる。
≪ありがとう、タキ一等兵。待っているよ≫
敵かどうか分からない者の懐への訪問。対面の時。
赤い目の黒い影は微笑みを崩し、満面の笑みを浮かべた。




