▽4・6 ――・進み行く最中の思い出語り
ハイロウ要塞から離れて数十分後。
「あれが軌道エレベーター。ここからでもよく見える」
夜空と海が広がる地平線の向こう、ヨシノリの視界に一本の柱の如く天高く伸びる軌道エレベーターが薄っすら見えた。
地上から宇宙へ、宇宙から地上へ、惑星間の移動さえも容易に可能な軌道エレベーターに近付いている。
しかし天倫基地に到着するまではまだ時間がある。
「なぁ、ヨシノリは軌道エレベーターに乗ったことがあるのか?」
「俺は一回もありません。ノア軍曹は?」
「私は軌道エレベーターに乗ったさ。故郷の星を出るのに一回、それと『ヘキサ』に来る時に一回な」
雑談が始まる。
「そういえば私の出身は地球なのですが、お二人の生まれた星は?」
「私は第四居住惑星『天之月』ですよ。出身はアメリカ、育ちは日本です」
「あ、第四と言えば、第二居住惑星の火星のようなテラフォーミングが必要のない地球と似た環境の星でしたよね?」
「そうですね。そのおかげで開拓がしやすくて、開拓が進んだ今となってはほとんど地球と変わらない星になっています」
尋ねて答えて、ユリとノアの雑談が進む。
そこにヨシノリが「軍曹はどうして日本に?」と問う。
「あー……実は私の出身地は法律が厳しくてな。あらゆる犯罪を未然に防ぐためってことでさ、色々と縛りがキツくて……」
「そんなに?」
「そんなにだ。母さん不在だと、父さんと一緒にいるだけでも罪に問われるんだ。だから両親が元々興味のあった日本領に引っ越したんだよ」
「家族といるだけで罪になるなんて、引っ越して正解ですよ」
想像するだけでも大変な暮らし。
そんな法の下で生きていく自信は、ヨシノリにはない。もちろんユリもノアも同様だ。
「ヨシノリ君は?」
「俺はこの『ヘキサ』の日本領出身です」
そして身の上話はヨシノリに移る。
「思い出とかは?」
「思い出……父さんとの思い出とか、父さんが殺されたことは今でも記憶にあります」
ヨシノリが口に出す思い出。遠い記憶。
思い出せる部分は幼い時の楽しい記憶、ヤン将軍が指示した核攻撃で父親を殺されたこと。
そこに「訓練生の時のことも覚えています」と最近の思い出も引き出す。
「そうですか……なんか、辛い過去を掘り返すようなことして、ごめんさない」
「気にしないでください、ユリ少尉。今は掘り返した過去の悲しみに浸るよりも、大事なことがありますから」
既にヤン将軍を殺し、父親を殺した直接の仇を取った後。
父親を失った時の喪失感と悲しみは覚えていても、今のヨシノリは前に気持ちを向けている。
「ユリ少尉、雑談はここまでです。陸地が見えてきました」
ノアは告げる。その言葉通りに遠くには森と浜辺が見える。
「こほん、ノア軍曹、ヨシノリ君、ここから先にいる勢力は敵か味方か分かりません。気を引き締めて行きましょう」
そのままユリを筆頭に飛行し、数分の移動。
眼下の光景は海から陸地の上へと変わった。
天倫基地まで後少し。三人は飛び続ける。




