▽4・3 現体制派・裏に潜む者、再会は黒く染めて
出向の指令を受けた三人の行き先、海に浮かぶハイロウ要塞。
「あれがハイロウ要塞……大きい」
三人の目に見えてきたのは内と外の二つの巨大なリング、その二つのリングの中心に設置された大型レールキャノン。
「この『ヘキサ』では最大級の要塞だ。私たちが敵だったら、砲撃の雨あられで近付くのも困難だろう」
内――インサイドリングは居住区と兵器庫の兼用となり、外――アウトサイドリングは数百門の多種多様な無人砲台が周囲360度をカバーする迎撃装置。
ノアが言うように砲撃の雨あられはもちろん、砲撃を突破した先には数百の重装甲機兵という二段構えの防御が待っている。
まさしく要塞らしい鉄壁の守り。全ては『ヘキサ』防衛の要たる大型レールキャノンを守るためにある。
「接近中の『ベースドアーマー』に告ぐ。官姓名及び所属を示せ」
ハイロウ要塞から三人に向けての通信が来る。
「こちらは第一一三重装甲機兵中隊フォックス小隊、ライカゼ・ユリ少尉です。ハイロウ要塞への出向の指令を受け取り、馳せ参じました」
「予定通りだな。フォックス小隊、第二格納庫へ着陸せよ」
「了解」
ユリが通信に応じると、通信士は着陸を指示。
着陸先は今しがた天井が開くインサイドリングの第二格納庫。格納庫内には輸送ヘリや空中戦闘仕様に換装済みの『ベースドアーマー』が何機も置かれている。
「お二人共、行きます」
三人は開かれた第二格納庫へ向かう。
「遂にこの時が来たか」
憂いたノアの小さい独り言。
ほどなくして、全員揃って第二格納庫に着陸する。
「フォックス小隊の方々! 私が案内しますので付いてきてください!」
案内役の兵士が迎えに出てきた。
三人は『ベースドアーマー』から降り、案内役に付いていく。
向かう先は〝計画〟に関わるものが待っている司令室。
格納庫を出て、長い廊下をしばらく歩き、司令室の前まで来ると――
「重要目標が到着。警戒はそのまま」
威圧感のあるスーツ姿のボディガードたちが司令室の前に立っていた。
軍事施設なのにここだけ雰囲気が異様に違う。
「要人があなた方とお会いになります。先に入って、お待ちください」
司令室の前で待機するボディガードが司令室に入るように促す。
「さぁ入って」
ボディガードの手で開く司令室のドア。室内にはこの要塞の司令官が居座っていた。
三人は言われた通りに司令室へ入っていく。
「ようこそ、ハイロウ要塞へ。フォックス小隊の諸君」
司令官は三人を歓迎する。だが、声色も表情も非常に淡泊。
「お初にお目にかかります。私はフォックス小隊の隊長、ライカゼ・ユリ少尉です」
「知っているよ。噂で君の名は聞いたことがあるし、先ほど要人からも聞かされた」
丁寧に初対面の自己紹介をするユリに対して、司令官はうんざり気味だった。
「私はこのハイロウ要塞の司令官、ハルナカ・ジャン(春中ジャン)少将。まぁ名と階級を言ったところで短い付き合いだ。私の名は忘れてくれて構わん」
そしてジャン少将はヤケクソな様子で自己紹介を終える。
「ジャン少将、今回の指令についてお聞きしたいことがあります」
ハイロウ要塞への出向の意図。
ここに出向させたということは用件があるはず。
ユリはその用件を聞こうとするが――
「なぜ君たち三人をハイロウ要塞に出向させたか? 私も知らんよ」
ジャン少将も詳しいことを知らなかった。
「え?」
「いや、全く知らないと言えば噓だ。連中の脅しだよ」
しかしジャン少将は今回の指令の背景を知っている。
「脅し?」
「家族がどうなるか、分かっているんだろうな? というやつだ」
「……じゃあ指令は?」
「指令は私が出した、要人の強引な頼みでな。後は要人の達者な口から直接聞け」
ハイロウ要塞への出向の指令を出したのはジャン少将だが、三人に用件があるのは要人と呼ばれる者。
異様な雰囲気と家族の命を脅しに使う異常な状況を作る、裏に潜む者。
「要人が食事を終えた。今から司令室に向かう」
そんな裏に潜む者の足音。
今回の人類連合軍の内戦に隠れた〝計画〟の手が迫る。
「要人到着。我々も入る」
司令室のドアが開き、要人を連れて入るボディガードたち。
そしてボディガードたちが左右に分かれ、陰に隠れた要人が姿を現す。
「ユリ、久しぶりね」
まるでユリを知っているかのような要人の艶やかな女性の声。
よく目立つ赤いドレスと黒のジャケットを着た、美人な要人の姿。
「まさか、なんでここに!?」
相手がユリを知っていれば、ユリもまた相手を知っていた。
「ホオズキお姉ちゃん……」
その正体はライカゼ・ホオズキ(来風鬼灯)という名のユリの姉だった。




