▽4・1 現体制派・計画と思惑と想い
森空基地の攻略から数時間が経った。
既に森空基地は制圧を完了。時間帯は夜。
反乱軍の秘密基地であった森空基地は現体制派の拠点の一つへと塗り替わった。
「ヨシノリ!」
地下の掃討を終え、ヨシノリは地上へ戻ってくる。
そこに聞き慣れた呼び声が聞こえてくる。
「ノア軍曹」
目を向けた先にいるのは『ベースドアーマー』から降りたばかりのノア。
その身に怪我はなく、しっかり生きている。
「良かった、怪我もないようですね」
「それはこっちのセリフだ」
ノアはヨシノリを抱きしめる。
感じるのは生きた人肌の温かさ、嬉しくて離さない手。
お互いにお互いが生きていることにホッと安心する。
「通信が突然途切れたから、すごく心配したぞ」
「……すいません」
「謝るな。それよりも生きていて本当に良かった」
作戦中に離れ離れになったのはこれで二回目。お互いに生死が分からない状況だったのは確かなこと。ノアがどれだけ心配していたか、ヨシノリには分かる。
だからヨシノリは謝りたかった。本来殺すべき相手で人類全体の敵であるプランヴェルと協力してしまい、みんなも自分も裏切ったようなものなのだから。
「ヨシノリ、リンザワ曹長には会ったか?」
そして唐突な質問。
――なぜノア軍曹が森空基地にリンザワ元教官がいるのを知っているのか?
ヨシノリに違和感が巡る。
「え、えっと、会いました……俺が殺しましたけど」
リンザワを殺した感触を思い出しながら気持ちは暗めで答える。
「そうか……リンザワ曹長はお前が殺したのか。辛くないか?」
「大丈夫ですよ」
大丈夫ではない。気が気でない。
正直に気持ちを、全てを、吐き出せない。
吐き出せば、ふとした拍子に〝プランヴェルと協力していた〟と言ってしまう。
ヨシノリはそんな今の気持ちを紛らわすように疑問を思い出す。
「ノア軍曹、リンザワ教官が言っていたんですが、計画とはなんですか?」
リンザワの言っていた〝計画〟という言葉。そこにノアがリンザワの所在を知っているという事実。
ノア軍曹なら知っているかもと、ヨシノリは気になって尋ねた。
「〝計画〟か」
なにか言いづらい様子。ノアは重たくなる口をそのまま開き、言葉を続ける。
「そうだな……端的に言えば、お前に新世界を背負わせることになる」
「俺が新世界を背負う? 一体それは、どういうことです?」
更に尋ねる。
しかしそれ以上の言葉をノアは出さない。まるでプランヴェルとの協力を隠すヨシノリと同じで、なにかを心の内に隠している。
「言えない。そうなんですね?」
「あぁ……特にお前、タキ・ヨシノリという個体に言ってはならない」
「俺が人間じゃないからですか?」
「そうかもな。でも新世界なんて背負う必要はない、お前は人間のままでいいんだ」
問いに対してぼかした答えだが、ノアは〝計画〟というものに否定的。
ずっとヨシノリのことを心配して、想うように抱きしめている。
「計画のことは気にするな。例え計画が破綻するとしても、お前は自分のやるべきことをやり遂げろ」
「はい」
だからヨシノリはこれ以上詳しいことを聞こうとせず、返事だけ返した。
それから二人に言葉はない。お互いに言えない事情を抱え、お互いの人肌の熱を感じながら沈黙が訪れる。
「ヨシノリ君!」
「ユリ少尉?」
背後からのユリの声。ヨシノリとノアの沈黙を破り、走り寄ってくる。
「ユリ少尉に次を譲るか」
ノアはヨシノリを離し、離されたヨシノリは後ろへ振り向く。
振り向けば即座にユリが力を強くして抱きついてきた。
「生きていて良かった……! 死んでいたら、私……!」
ユリの出す声はせっかく出来た大切な人を失うまいと必死なもの。
ヨシノリはユリの心配な気持ちを受け止めるように抱き返す。
「ユリ少尉こそ、生きていて本当に良かった。お怪我は?」
「私は大丈夫。もちろん小隊の全員も無傷です、ヨシノリ君も含めて」
ここにいるノアとユリも怪我はなく、三人娘も無事。
「誰も死んでなくて、良かったです」
顔をよく知る者の死は辛い。自分の手でリンザワを殺した時のように。
小隊の全員が生存していると聞いたヨシノリは心が少し軽くなる。
「ということでヨシノリ君! 私を心配させた罰として、この後に私とスキンシップすることを命じます!」
重い話から一転、ユリはスキンシップの命令を下した。
珍妙な命令。この場の全員の表情が緩む。
「好かれたな、ヨシノリ」
「好かれた、ですか……?」
ユリがヨシノリに好意があるという事実。
ユリは無言の肯定で好意があることを示す。
「じゃあ私は三人娘の様子を見に行ってくるよ。ヨシノリ、後は楽しめよ」
「え、あ、はい」
空気を読んだノアはそう言って去っていく。
後に残るのは抱き合ったままのヨシノリとユリだけ。
「ではヨシノリ君……スキンシップ、撫でたり、キスしたり、お願い」
親し気で敬語がなくなった、ユリのお願い。
「キ、キスはまだ早いと思います!」
「フフフ……それなら撫でて、私に触れてください」
「了解」
ヨシノリは言われた通りにユリを撫でる。
異性と認識して触れ合う感触。二人の顔は赤くなっていき、心音が上がっていく。
「なんだか恥ずかしいね」
「は、はい」
「でも、こういうのは好き。辛いことを忘れられるから」
「辛いことですか……」
「この前吐き出した嫌な思い出とか、今日初めての人殺しとか」
人の最期の声。人体から鮮血が飛び出る姿。手に残る人殺しの感覚。
それをユリも辛く感じていた。
だから忘れたい。昔の辛い記憶も含めて。
「俺も忘れたいです、ユリ少尉」
「じゃあ今この時だけは一緒に忘れようね」
「はい……」
記憶に刻まれた教官を殺した喪失感。
記憶から掘り返された父親を亡くした時の喪失感。
今だけはそういった感情を忘れたいように、撫でていた手でユリをぐっと強く抱く。
そうやって辛い記憶と感情を別のもので埋めていく。
二人だけのゆったりした時間は三人娘の茶化しが入るまで続いた。




